建交労長崎県本部

全日本建設交運一般労働組合(略称:建交労)長崎県本部のブログです。
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トラック業界秩序確立のために(運賃のあり方)~建交労のトラック政策㉕

2017年07月31日 09時14分36秒 | トラック政策

①「適正運賃」の定義

ひと言で「適正運賃」といいますが、その定義は必ずしも明確なものではありませんでした。

それは1990年からの「規制緩和」の中で「認可制運賃」が廃止され、「運賃料金」は各社のコスト計算に基づき、自由に設定されるべきものという建前で、各社の判断に委ねられることになったことが大きく影響しています。しかし、過当競争による運賃下落がこの業界と労働者、国民に否定的な影響を与えたこと(重大事故の続発・多発)を見たとき、「適正運賃」といった場合、少なくとも以下の内容をクリアできるものとする考え方を明確にする必要があります。

※重大事故の要因となっている長時間労働を未然に防止するために労働基準法遵守・「改善基準告示」遵守をしたで、社会通念上認知される賃金・労働条件の確保に適した労務コスト、労働保険・社会保険加入など社会的コスト、NOx・PM法対応などの環境コスト、燃料をはじめとした運送原価などをまかなえるもであること。

 

②「特車運賃」の確立

タンクローリー車、海上コンテナ、高圧ガス運搬車など他に転用できない車両で「帰り荷」の確保ができない業態における運賃料金の考え方。現在のところ多くのところで片道「トンキロ運賃」で契約を結んでいます。復路については人件費・燃料代などのコストは反映しません。

1つの考え方は、「保障運賃」を確立することです。原価計算に基づいて設定した1ヶ月の運賃額(原価計算を「片荷」で計算した運賃額)の内一定額を「保障運賃」として設定し、物量が「保障運賃」に見合うだけのものから不足した場合に「保障運賃」を収受し、「保障運賃」を上回る場合には物量に応じた運賃料金を収受するしくみを確立することです。この場合でも、「片荷」であることをコストに反映させます。


トラック業界秩序確立のために(経済の安定・取引関係)~建交労のトラック政策㉔

2017年07月30日 08時12分30秒 | トラック政策

(1)経済の安定‐内需型経済による物量の安定確保

トラック運輸産業は受注産業でありストックのきかない事業であるため、経済の動向、特に不況の影響を大きく受けます。まして、過当競争が激化しているもとではなおさらです。健全なトラック運輸産業発展のためには、適正な運賃料金の収受と同時に、安定した物量の確保は欠かせない課題です。

トラック運送事業の大半は国内貨物輸送です。したがって内需拡大型による国内経済の安定的発展は輸送量を増大させ、トラック業界における過当競争を緩和します。同時に内需型の経済政策への転換は、日本経済の国民的立場からの再生・発展という課題とも一致するものです。

①第一は、大企業の内部留保の活用

内需型経済への転換は、第一に、大企業がため込んだ膨大な内部留保を、大企業の果たすべき社会的責任に応じて社会に還元させることです。もともと日本の大企業がため込んだ内部留保は、下請企業への下請単価や労働者の賃金を低く抑え、「カローシ・ニッポン」と言われるぐらいの長時間労働を押しつけ、輸出依存の経済政策に乗っかって、税金の優遇措置を受けてつくられたものです。社会に還元させる大企業の内部留保の一部は労働者の賃金や雇用拡大の原資として、一部は下請中小企業への支払単価引き上げなど(原価を正しく反映した適正運賃収受)を通じて、国民・労働者の「フトコロ」を暖かくするために使うことです。

そうして国民の購買力を高めてこそ、生産と国内流通の関係がうまく回り、日本経済の再生とそれに伴ってのトラック運輸産業の安定がはかられるのです。

②国内生産・国内消費を基本に

大企業の内部留保の内社会に還元させるものの一部は、国内での生産設備への投資に振り向けるさせことです。これまで大企業は、「国際競争力の強化」「経済のグローバル化」の名の下に生産拠点を海外に移し、国内産業を空洞化させてきました。その動機は人件費の安い海外に生産拠点を移すことで生産コストを抑え、海外市場における販売力で優位に立つことでした。

輸出依存型経済政策によって国内生産が縮小させられてきたのです。この流れを変え、国内生産・国内消費を基本とした経済政策に切り替えることは、日本経済の再生にとっての基本であるべきです。

 

(2)対等・平等の取引関係

運賃収受をめぐって荷主・元請との「対等・平等な取引関係」の確立が重要な課題であることは論を待つまでもないことです。独占禁止法や下請法、2008年3月14日付国土交通省「トラック運送業における荷主・元請適正取引推進ガイドライン」「トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン」などで対等・平等の取引関係の中での公正で適正な取り引き確立のための諸施策が述べられていますが、実効性という点からは不十分です。関係法令の抜本的な改正や新法の制定も視野に入れた対策と行政の権限強化で中小零細企業に対する保護を強化する施策と一体となった「対等・平等の取引関係」を確立することです。


【全労連事務局次長談話】最低賃金の目安小委員会報告について

2017年07月28日 08時18分08秒 | 見解・主張

7月25日に、全国加重平均で時給25円引き上げることとした最賃審議会目安小委員会の報告が出されたことを受けて、全労連が事務局次長談話を発表しましたので、以下に転載します。


 厚生労働省の最低賃金審議会目安小委員会は、7月25日午後10時、「労使の意見の隔たりが大きく、遺憾ながら目安を定めるには至らなかった」として、全国加重平均を時給25円引き上げ、848円とする公益委員見解を示し、目安小委員会の報告として公表した。

 全国加重平均848円は、昨年度実績の25円と同額で、2年連続の3%引き上げ目安となったが、諮問で示された安倍政権の意向に強く配慮した「3%引き上げ」を忠実に実行したもので、このまま推移しても全国加重平均1,000円への到達は2023年である。あまりにも遅々とした引き上げであり、経済的な波及効果も限定的である。さらにこの引き上げ幅では、IMF、OECD、ILO、国連などの多くの国際機関が相次いで懸念を表明している日本の最低賃金の低さが改善できる水準に到達したとはとても言えない。

 さらに、Aランク26円、Bランク25円、Cランク24円、Dランク22円と、地域間格差がさらに拡大する目安報告となったことも容認できない。もし、目安どおりに改訂されたとすると、最高額は958  円、最低額は736円であり、実額による格差は現行の218円から222円へ、さらに4円も広がる。これでは、若者などの地方からの流出と大都市部への集中に拍車をかけることは明らかである。
 全労連は、全国各地で「最低生計費試算調査」を実施し、その結果をもとに政府や審議会に対する要請を強めてきたが、調査結果からは全国どこでも22~24万円(時給1,500円程度)が必要となっており、全国どこでも大きな格差は存在しない。全労連が繰り返し指摘しているように、ランク分けという現行制度が地域間格差を固定・拡大しているという制度的な欠陥があらためて明らかになった。

 全労連はこの間、「社会的な賃金闘争」を強化し、とりわけ最低賃金については、全国一律最低賃金制度の実現を求めるとともに、「今すぐ最賃1,000円以上」の実現を求めてとりくみを強めてきた。全労連として、中小企業支援を強めながら、最低賃金を大幅に引きあげるように、行政や中小企業団体への要請や懇談をおこない、その社会的合意を大きく広げてきた。
 全労連はあらためて、安倍政権と最低賃金審議会に対して、「今すぐ1,000円」の政治決断を強く求めるとともに、目安答申を受けて本格化する各県の地方最低賃金審議会の改定論議に対しては、目安答申を上回る積極的な改定、とりわけ、C・Dランク県の大幅な引き上げによる格差縮小を求めて、全国各地でとりくみを集中的に展開していく決意である。
 また、今年度の目安報告からも現行制度の制度的な限界が鮮明になったもとで、生計費原則に基づいて、すべての働く人に人間らしい最低限の生活を保障する「全国一律最低賃金制度」を実現する「全労連最低賃金アクションプラン」の大運動を強化していく。

 2017年7月26日

 

全国労働組合総連合
事務局次長  橋口 紀塩


トラック業界の秩序混乱の背景~建交労のトラック政策㉓

2017年07月27日 09時04分37秒 | トラック政策

(1)事業者数の急増・小規模化

1990年(平成2年)の約4万社が2011年(平成23年度)には約6万3千社へ、この20年間に2万3千社以上増えており、2000年(平成12年度)以降では平均して毎年1400事業者が増加しています。単純に増加し続けているわけではなく、業界からの退出(廃業や倒産など)が毎年1000件ほどあることから、新規参入は差し引き毎年2400社以上ということになります。

しかも約6万事業者の内容は、10台以下が全体の57.1%、50台以下では94.2%、100台以下は98.5%となっており、中小零細の運輸事業者が99.9%を占めています。

国内貨物輸送量は2012年には2001年と比較して約2割減少しており、長期低落傾向が続いています。その中で、トラック輸送量は増減を繰り返しながら、長期的には減少を続けています。

2008年度は事業者数が若干減少し、62,862社となりましたが、それ以降若干の増減を繰り返しながら、2012年は62,910社となっており、国内貨物輸送量の減少に伴って、過当競争はいっそう激しくなっています。

 

(2)無秩序な過当競争―運賃ダンピング

急増した運送事業者が少ない荷物を取り合うために、当然のごとく過当競争の状態が激しくなりました。特に、「規制緩和」以降参入した事業者の多くは社会保険未加入や労基法違反の就労条件でコストを低く抑え、運賃・料金を安くして参入してきたために、社会的に必要なコストを無視した価格競争にしのぎを削ってきたのです。

 

(3)「法令違反があたりまえ」の異常な業界体質

厚生労働省の調査によると、トラック運送事業における労働基準法違反は7割~8割で推移し、増加傾向にあります。また、「改善基準告示」違反も6割を超えており、これも増加傾向にあります。

業界を構成する大半の事業所で何らかの違反が存在し、過半数の事業所で重大事故に直結する「改善基準告示」違反が見られることは、まさに異常としか言いようがありません。

 

(4)不公正・不適切な取引関係

①荷主・元請による「優越的地位の濫用」

トラック運輸産業は受注産業であることから、荷主・元請は運送事業者に対して優越的な地位に立つことになります。またトラック運送事業者の大半は中小零細企業であり、特定の荷主企業・元請企業と専属輸送契約を結んでいる場合が少なくありません。また、特定の荷主企業・元請企業との専属輸送が運送事業者の事業の大半を占める場合が少なくありません。中小零細企業で特定の荷主・元請と専属輸送契約を結んでいる場合、運送契約の解除は企業の「死活問題」にまで発展する問題です。

特に、「規制緩和」によって運送事業者が激増し過当競争となっている今日では、荷主企業・元請企業側からすると著しい「買い手市場」となっています。そのことを裏付けるかのように、荷主・元請からの優越的地位を濫用した不適切な取引が後を絶ちません。

一方で、トラック運転者不足から繁忙期での「車両不足」が顕著になり、大手運送事業者を中心に取引条件の引き上げがはかられていますが、圧倒的多数を占める中小・零細企業への波及とはなっておらず、逆に「人手不足」による労務倒産が懸念されます。

最近の流通において顕著になっているのが、些細な荷物事故などによる「事故引き」の強要です。取引関係の中で生じる事故に対する損害賠償は契約上あり得ることですが、荷主・元請が対象商品の運賃を支払わずに事故品を受け取り、その商品を「特別価格」として通常価格より格安で販売している実態があります。これは、通常の取引契約における「瑕疵担保契約」の範囲を超えており、明らかに優越的地位の濫用として社会的に告発されるべきものです。

 

②重層的下請構造による弊害

トラック運送業界では、重層的な下請構造がまかりとおっています。元請の運送業者が荷主から仕事を受け、それを下請にまわします。

下請はさらにその下請(孫請)へそしてさらに下請(ひ孫請)へとまわされていくのが常態化しています。当然、元請は荷主から受けた運賃をそのまま下請へ支払うのではなく、10%~20%の「事務手数料」(マージン)を差し引いて下請へまわします。下請が孫請へまわす際にも同様です。こうして当初荷主から支払われるはずの運賃が最下請へまわる頃には、60%程度にまで減額されてしまいます。重層的下請構造とは、重層的収奪構造に他ならないのです。

これに近年増加している「物流子会社」がからむと、さらに収奪構造は激しくなります。契約解除をちらつかせながら運賃引き下げを強要することにとどまらず、配車・運行管理にまで支配力をおよぼしています。

この重層的下請構造(重層的収奪構造)を可能にしているのが「貨物利用運送事業法」であり、「貨物自動車運送事業法」です。

 

(5)事業者の社会的負担増

①多種にわたる税負担

所得税や法人税、消費税など、その事業に関わって大方の産業や企業にかかる税金に加え、トラック運輸産業においては自動車重量税やガソリン税、地方道路税、自動車取得税、自動車税、軽油引取税など多くの税負担が求められています。

毎年、1社あたり平均1千万円を超える税金を所得税・法人税、消費税等とは別に負担させられている計算になります。

 

②環境保全にかかる負担

2001年6月に改正された「自動車Nox・PM法」により、大都市圏を中心とした対象地域にいて、ディーゼルエンジンを使用した自動車は新たに設けられた「排出量規制」をクリアしなければ、使用ができなくなりました。環境保全のため規制が強化されるのはやむを得ないことですが、不況と低運賃にあえぐ多くのトラック運送事業者にとっては車両の買い換えを余儀なくされ、経営を圧迫する要因となっています。

加えて、2008年1月から大阪府条例によって、大阪府下を発着する貨物自動車はこの排出量規制をクリアしている車両でなければならなくなり、これまで対象地域以外で使用が認められていた車両もこの基準を満たさなければならないことになっています。

 

(6)燃料価格高騰と消費税増税、TPP

①事業者の過半数が赤字経営

全日本トラック協会の調査によると、トラック運送事業においては営業赤字企業の割合が過半数を占める状況が続いており、2012年度(平成24年度)は62%と前年度比較でも悪化しています。特に車両10台以下では66%が営業赤字を計上しています。

 

②深刻な影響を与え続ける燃料価格高騰

全日本トラック協会のまとめによると、トラック運送事業者の2008年の倒産件数、負債総額とも前年から倍増し、過去最悪となりました。

2008年前半は原油価格高騰に伴う燃料価格の急騰がトラック業界を直撃しました。8月にはローリー価格が平均143円58銭の過去最高値を記録し、これに合わせるかのように倒産件数も40件を数え、過去最高となりました。

翌9月から軽油価格が下落に転じても倒産件数は高水準をキープし、秋からの世界的な景気の後退が表面化し、12月の倒産件数は37件と8月に次ぐ2番目のピークとなりました。2009年はさらに悪化し、世界的な経済危機に伴う荷動きの低迷を裏付けた格好となっています。

その後も軽油価格は「高止まり」を維持しつつ推移し、最近では「中東情勢の悪化」、「円安」の影響などを受けて、2008年前半の価格水準に近づいています。

③消費税増税の影響

2014年4月1日より消費税が5%から8%へと増税され、さらに今後10%へと引き上げられることが予定されています。専門家の多くも消費税増税による景気の悪化を懸念しており、受注産業であるトラック貨物運送への悪影響が懸念されます。その一つは、消費税増税分の支払と差し替えになった運賃の引き下げ要求であり、二つには、景気悪化に伴う受注量の減少です。

④TPPで懸念される業界秩序・労働環境の一層の破壊、中小企業の倒産

現在交渉が継続されているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の動向も無視できません。

「関税撤廃」の問題がクローズアップされていますが、「非関税障壁の撤廃」問題に注意を払う必要があります。労働力の国際流動の問題もありますが、特に注意を払う必要があるのが、「ISDS条項」とよばれるものです。国内産業のある分野に参画した外国企業が、国内の規制その他によって不利益な扱いを被った場合には、国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴することが可能とされるものです。我が国のトラック運送事業には、「規制緩和」以降も様々な規制が残っており、「最低保有台数5台以上」もその一つです。

TPP参加国の内、アメリカ合衆国、ベトナム、オーストラリアをはじめ、少なくない国で個人営業を認めています。

こうした規制の違いからくる問題によって、現在の国内規制がTPPによって突き崩される危険があることです。


トラック重大事故の続発・多発の状況~建交労のトラック政策㉒

2017年07月26日 09時53分15秒 | トラック政策

事業用トラックが第1原因となった交通事故は1990年以降急激に増加し、重大化しました。その後漸減傾向にありますが、大幅な減少には至らず、また、増減を繰り返しています。2011(平成23)年度は、死者数こそ減少しましたが、重大事故の発生件数・乗務員の起因数・重傷者数は増加しており、深刻な状況が続いています。

 

表とグラフは国土交通省自動車交通局が2013年2月に発表した「自動車運送事業用自動車事故統計年報」による2011(平成23)年度中における事業用自動車の重大事故に関する統計ですが、トラックにあっては、毎年2000件程度の重大事故が発生していることがわかります。

2002年(平成14年)を底に翌年より再び増加に転じていますが、この年にはさらなる「規制緩和」がおこなわれ、「区域制の撤廃」や「1の運行144時間」などが認められた時期と一致します。その後減少しましたが、2010年度から再び増加に転じています。

トラック重大事故の最大の要因はトラック運転者の「長時間・過労運転」にあると言われています。