建交労長崎県本部

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トラック業界の秩序混乱の背景~建交労のトラック政策㉓

2017年07月27日 09時04分37秒 | トラック政策

(1)事業者数の急増・小規模化

1990年(平成2年)の約4万社が2011年(平成23年度)には約6万3千社へ、この20年間に2万3千社以上増えており、2000年(平成12年度)以降では平均して毎年1400事業者が増加しています。単純に増加し続けているわけではなく、業界からの退出(廃業や倒産など)が毎年1000件ほどあることから、新規参入は差し引き毎年2400社以上ということになります。

しかも約6万事業者の内容は、10台以下が全体の57.1%、50台以下では94.2%、100台以下は98.5%となっており、中小零細の運輸事業者が99.9%を占めています。

国内貨物輸送量は2012年には2001年と比較して約2割減少しており、長期低落傾向が続いています。その中で、トラック輸送量は増減を繰り返しながら、長期的には減少を続けています。

2008年度は事業者数が若干減少し、62,862社となりましたが、それ以降若干の増減を繰り返しながら、2012年は62,910社となっており、国内貨物輸送量の減少に伴って、過当競争はいっそう激しくなっています。

 

(2)無秩序な過当競争―運賃ダンピング

急増した運送事業者が少ない荷物を取り合うために、当然のごとく過当競争の状態が激しくなりました。特に、「規制緩和」以降参入した事業者の多くは社会保険未加入や労基法違反の就労条件でコストを低く抑え、運賃・料金を安くして参入してきたために、社会的に必要なコストを無視した価格競争にしのぎを削ってきたのです。

 

(3)「法令違反があたりまえ」の異常な業界体質

厚生労働省の調査によると、トラック運送事業における労働基準法違反は7割~8割で推移し、増加傾向にあります。また、「改善基準告示」違反も6割を超えており、これも増加傾向にあります。

業界を構成する大半の事業所で何らかの違反が存在し、過半数の事業所で重大事故に直結する「改善基準告示」違反が見られることは、まさに異常としか言いようがありません。

 

(4)不公正・不適切な取引関係

①荷主・元請による「優越的地位の濫用」

トラック運輸産業は受注産業であることから、荷主・元請は運送事業者に対して優越的な地位に立つことになります。またトラック運送事業者の大半は中小零細企業であり、特定の荷主企業・元請企業と専属輸送契約を結んでいる場合が少なくありません。また、特定の荷主企業・元請企業との専属輸送が運送事業者の事業の大半を占める場合が少なくありません。中小零細企業で特定の荷主・元請と専属輸送契約を結んでいる場合、運送契約の解除は企業の「死活問題」にまで発展する問題です。

特に、「規制緩和」によって運送事業者が激増し過当競争となっている今日では、荷主企業・元請企業側からすると著しい「買い手市場」となっています。そのことを裏付けるかのように、荷主・元請からの優越的地位を濫用した不適切な取引が後を絶ちません。

一方で、トラック運転者不足から繁忙期での「車両不足」が顕著になり、大手運送事業者を中心に取引条件の引き上げがはかられていますが、圧倒的多数を占める中小・零細企業への波及とはなっておらず、逆に「人手不足」による労務倒産が懸念されます。

最近の流通において顕著になっているのが、些細な荷物事故などによる「事故引き」の強要です。取引関係の中で生じる事故に対する損害賠償は契約上あり得ることですが、荷主・元請が対象商品の運賃を支払わずに事故品を受け取り、その商品を「特別価格」として通常価格より格安で販売している実態があります。これは、通常の取引契約における「瑕疵担保契約」の範囲を超えており、明らかに優越的地位の濫用として社会的に告発されるべきものです。

 

②重層的下請構造による弊害

トラック運送業界では、重層的な下請構造がまかりとおっています。元請の運送業者が荷主から仕事を受け、それを下請にまわします。

下請はさらにその下請(孫請)へそしてさらに下請(ひ孫請)へとまわされていくのが常態化しています。当然、元請は荷主から受けた運賃をそのまま下請へ支払うのではなく、10%~20%の「事務手数料」(マージン)を差し引いて下請へまわします。下請が孫請へまわす際にも同様です。こうして当初荷主から支払われるはずの運賃が最下請へまわる頃には、60%程度にまで減額されてしまいます。重層的下請構造とは、重層的収奪構造に他ならないのです。

これに近年増加している「物流子会社」がからむと、さらに収奪構造は激しくなります。契約解除をちらつかせながら運賃引き下げを強要することにとどまらず、配車・運行管理にまで支配力をおよぼしています。

この重層的下請構造(重層的収奪構造)を可能にしているのが「貨物利用運送事業法」であり、「貨物自動車運送事業法」です。

 

(5)事業者の社会的負担増

①多種にわたる税負担

所得税や法人税、消費税など、その事業に関わって大方の産業や企業にかかる税金に加え、トラック運輸産業においては自動車重量税やガソリン税、地方道路税、自動車取得税、自動車税、軽油引取税など多くの税負担が求められています。

毎年、1社あたり平均1千万円を超える税金を所得税・法人税、消費税等とは別に負担させられている計算になります。

 

②環境保全にかかる負担

2001年6月に改正された「自動車Nox・PM法」により、大都市圏を中心とした対象地域にいて、ディーゼルエンジンを使用した自動車は新たに設けられた「排出量規制」をクリアしなければ、使用ができなくなりました。環境保全のため規制が強化されるのはやむを得ないことですが、不況と低運賃にあえぐ多くのトラック運送事業者にとっては車両の買い換えを余儀なくされ、経営を圧迫する要因となっています。

加えて、2008年1月から大阪府条例によって、大阪府下を発着する貨物自動車はこの排出量規制をクリアしている車両でなければならなくなり、これまで対象地域以外で使用が認められていた車両もこの基準を満たさなければならないことになっています。

 

(6)燃料価格高騰と消費税増税、TPP

①事業者の過半数が赤字経営

全日本トラック協会の調査によると、トラック運送事業においては営業赤字企業の割合が過半数を占める状況が続いており、2012年度(平成24年度)は62%と前年度比較でも悪化しています。特に車両10台以下では66%が営業赤字を計上しています。

 

②深刻な影響を与え続ける燃料価格高騰

全日本トラック協会のまとめによると、トラック運送事業者の2008年の倒産件数、負債総額とも前年から倍増し、過去最悪となりました。

2008年前半は原油価格高騰に伴う燃料価格の急騰がトラック業界を直撃しました。8月にはローリー価格が平均143円58銭の過去最高値を記録し、これに合わせるかのように倒産件数も40件を数え、過去最高となりました。

翌9月から軽油価格が下落に転じても倒産件数は高水準をキープし、秋からの世界的な景気の後退が表面化し、12月の倒産件数は37件と8月に次ぐ2番目のピークとなりました。2009年はさらに悪化し、世界的な経済危機に伴う荷動きの低迷を裏付けた格好となっています。

その後も軽油価格は「高止まり」を維持しつつ推移し、最近では「中東情勢の悪化」、「円安」の影響などを受けて、2008年前半の価格水準に近づいています。

③消費税増税の影響

2014年4月1日より消費税が5%から8%へと増税され、さらに今後10%へと引き上げられることが予定されています。専門家の多くも消費税増税による景気の悪化を懸念しており、受注産業であるトラック貨物運送への悪影響が懸念されます。その一つは、消費税増税分の支払と差し替えになった運賃の引き下げ要求であり、二つには、景気悪化に伴う受注量の減少です。

④TPPで懸念される業界秩序・労働環境の一層の破壊、中小企業の倒産

現在交渉が継続されているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の動向も無視できません。

「関税撤廃」の問題がクローズアップされていますが、「非関税障壁の撤廃」問題に注意を払う必要があります。労働力の国際流動の問題もありますが、特に注意を払う必要があるのが、「ISDS条項」とよばれるものです。国内産業のある分野に参画した外国企業が、国内の規制その他によって不利益な扱いを被った場合には、国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴することが可能とされるものです。我が国のトラック運送事業には、「規制緩和」以降も様々な規制が残っており、「最低保有台数5台以上」もその一つです。

TPP参加国の内、アメリカ合衆国、ベトナム、オーストラリアをはじめ、少なくない国で個人営業を認めています。

こうした規制の違いからくる問題によって、現在の国内規制がTPPによって突き崩される危険があることです。



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