『なんとかしなくちゃ』 モニカのメイド体験ブログ?

本日の召使 : モニカ・ディケンズ(コック・ジェネラル)
『なんとかしなくちゃ』(晶文社 文学のおくりもの24 1993年 原題:One Pair Of Hands)より

『なんとかしなくちゃ』


「私は退屈していた。」
「決まりきった生活から抜け出すためになんとかしなくちゃ。」




1937年イギリス。著者のモニカ・ディケンズは22才。
とくに暮らし向きに困っているわけでもないモニカが選んだ職業は、
コック・ジェネラル。コック・ジェネラルとは、料理だけでなく、家事全般もおこなう使用人のこと。『なんとかしなくちゃ』は、彼女の一年半の体験がもととなって書かれた作品です。



さすがに20世紀に入るとなると、メイドの様相もかなり違ってきますね。
退屈しのぎに、メイドをする人が出てくるんですからね。

しかしそこは伝統を重視するイギリス。
銀器の扱いや、階級意識の強いハウス・キーパーや乳母とのやりとり、
上流階級の主人への接し方など、
召使黄金期の19世紀の香りを、かすかながらに残しています。

 『モニカのメイド体験ブログ』

“生きてゆくために”召使いの道を選ばざるを得なかった、貧しく、そしてそのほとんどが無教養であった19世紀のメイドたちとは大きく違い、モニカはイギリス名門の女学校を卒業しています。
(彼女の曽祖父は、かの文豪チャールズ・ディケンズです)

女学校を卒業後は、演劇学校に入ったり、お料理の講習を受けたり。
退屈しのぎばかり追い求める生活に嫌気がさした彼女の、
突如ひらめいたアイデアが、「クッキングの仕事をしよう」
(私はこのアイデアも退屈しのぎのひとつとしか、思えないのですが…)

まあ、非難はさておき、
面白いのは、仕事に臨むモニカのはしゃぎぶりです。
さっそくメイド用のユニフォーム店に行き、
フリル付きのエプロン、カフスやカラーなど
あれやこれやと買い込むと、
家にとんで帰り、ユニフォームを着てみるとあまりに気に入ってしまって、寝るまでそのままでいた。
漫画『エマ』が好きな方は、共感できるシーンではないでしょうか(笑)
19世紀当時のメイドが知ったら、ハッ倒されそうですが。

生活に窮してもいないモニカがコックやメイドになるというのは、
仕事というより、ほとんど趣味に近い感覚のように見えます。
メイドを「演じる」のが楽しくてしかたがない。
そしてメイドになった自分を、はしゃぎつつも、ちょっと離れたところから眺めている。
「はい、ありがとうございます――マダム」私は家でこの言葉を練習してきたのだけれど、まだぎこちなくひびいた。いろいろ考えあぐねた末、マム、とか、ムだけとか、メイドたちの間で流行しているマダームとかよりも、マダムがいいと私は決めていたのだ。
70年くらい前に書かれた作品にもかかわらず、
『メイド体験ブログ』を読んでいるような。ほんと。
嬉々としてとメイド役を演じています。

ちなみにマム Ma'am は召使から女主人へ呼びかける「奥様」のこと。
Missよりも丁寧だが、Madamよりくだけた語。
一般に自分より若い女性にはMiss, 
自分より年配の女性にはMa'amを用いるのがよいそうだ。
(ジーニアス英和辞典 第3版による)

 “退屈しのぎ”では出来ないコック・ジェネラルの仕事

しかしディナーの晩のモニカの大混乱ぶりを読むと、
コック・ジェネラルは、
けっして退屈しのぎでは出来ない仕事だというのが分かります。

6人分ものディナーを自分ひとりで(!)用意しなくてはならない。
ソースを必死でかきまぜながら同時にポテトを揚げようとする間にも、
招待客がドアのベルを鳴らして来る。

玄関に向かう前にいそいで“料理用のエプロン”をはずし、
今度は“メイド用のフリル付きのエプロン”を身に着ける。
手早く髪を整えると、「パーラー・メイド(小間使い)風のマナー」でドアをさっと開ける。

ディナーの間、コース料理を一品ずつ運ぶたびに、
コック→メイドの変身を繰り返す。
それだけでもクタクタなのに、
下げてきた汚れ皿はどんどんと流しに積み重なってゆく。

タイミングを見計らって、オーブンで上手に膨らませたスフレが、
遅れてきた招待客のためになかなかテーブルに出せない。
イライラしながらやっと運んだときには、
スフレはすっかりペシャンコ、無残なありさま。
つねに目を光らせている女主人がそれを見逃すはずもなく、
ディナーの片付けが終わると、女主人の採点が待っている―。

はじめの頃は“メイド役”を楽しんでいたモニカもついには、
「これは若い女の子がすべき生活じゃないわ!」
もとの退屈しのぎを追い求める世界へと戻ってゆくのでした。

職業選択の自由があるのは…いいことです。




さて、モニカの召使評価です。

ひかえめ 3
上手な聞き手役。
主人というのは「自分のことを話したくて、しかも答えてもらいたくない」ものであると心得ている。
でも盗み聞きは大好き。



機転 4
“いかにして自分のスキル不足をごまかすか?”に限って頭が働く。
(そのハッタリのせいで後に苦労するが)

きちんと掃除をしたかように見せかけるのが得意。
とっさに割れた茶器を隠すのも上手。盗み食いも。

献身 3
好きになったご主人には無料奉仕とよべるほど身を捧げる。
でも気に喰わない主人には…冷たい返事と視線を倍返し。

主人からの愛情 3
どのご主人も、モニカの料理の出来栄えに見合った愛情しか与えません。
ご主人のほうがプロフェッショナルです。
人を仕えさせるプロ。

スタイル 5
女主人の恋人にちょっかいを出されたり、
出入りの販売人から「チャーミングなレディ」と呼ばれたり。
これらの評判から判断すると、
モニカのメイドとしてのおしゃれと振舞いへの心配りは、功を奏しているようだ。
エプロンの糊のかけ具合に、こだわりがある。


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