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執事たちの足音
『誰の死体?』 従僕に向いている人物・バンター
本日の召使 :マーヴィン・バンター (従僕)
『誰の死体?』(原題Whose Body?1923)ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫(1999)より
最近はジーヴスをはじめ、魅力的な従僕やバトラーとの出会いが続いてまして、
うれしい限りです。(忍び笑い)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/77/0c926ebb9a3a38f9833e2ce00779a1f6.jpg)
誰の死体?![](http://www.assoc-amazon.jp/e/ir?t=shitujitachin-22&l=ur2&o=9)
本日の従僕、バンターもなかなかの人物です。
彼は、イギリスの公爵・アマチュア探偵のピーター卿に仕えております。
物語がはじまって間もなく、バンターはピーター卿から呼びつけられます。
「バンター!」
「はい、御前」
本を持ったままひっくり返ってしまった。御前って…。(水戸黄門?)
原文はどうなっているのでしょう。
おそらく“Yes, Lord.”だと思うのですが。
訳者あとがきを読むと、やはり敬称の訳し方には苦労されたようです。
あきらかに階級に差のあるサー(Sir) と ロード(Lord) だけならいいですが、
オノラブル(Honourable)といった“優遇爵位”
(伯爵の次男以下、および下位の世襲貴族の子供に対する呼びかけ)もあるので、ややこしい。
さらにLadyへの呼びかけとなると、
どの階級貴族の奥さんを指して言っているのか、見分けるのが非常に難しい。
「Yes, Lady」
この受け答えだけだと、Sirの奥さんに言っているのか、
Lordの奥さんに言っているのか、どちらとも取れるのです。
執事や従僕たちは、これらの煩雑な敬称をとうぜん覚えていなくてはなりません。
ディナーのお出迎えに、ゲストの階級を呼び間違えたら大問題です。
この敬称の呼び方はとてもわかりにくいので、
また別の回をもうけて、改めて述べることとしましょう。
では、話をバンターのに戻ります。
良き従僕は、名探偵のそばに
『誰の死体?』は推理小説です。
貴族探偵のピーター卿が主人公とくれば、
従僕の仕事は素人探偵のお手伝い、となります。
これはもう、お決まりのポジションといえるでしょう。
推理・冒険ものの小説などの、従僕が活躍するシーンで
「ああ、いいなぁ」と思うのは、
“従僕が従僕たるべき仕事をした”からこそ、
事件解決のカギが得られたときです。
主人を助けるためだからといって、スーパーマンになる必要はないのです。
いつもどおり“かゆいところに手がとどく”仕事をするだけで、
じゅうぶんなのです。
従僕バンターは、ただ良き従僕らしくあるからこそ、
ピーター卿の事件解決に役立っている。
主人のピーター卿みずからが、それを語っています。バンターへの賞賛として。
ご主人はアラジンの魔法のランプを手に入れているのも同然です。
しかも願いごとは三つといわず、無制限だ。
仕事の姿勢と普段の態度にギャップが少ない従僕
バンターは公私の顔がどちらもさほど変わらない,
あまりないタイプの従僕です。
仕事においての姿勢と、普段の態度にあまりギャップがないのですね。
召使いは、いくら階上でツンとすましてグラスの乗ったシルバートレイを掲げていても、
階下におりて召使い同士、主人の話をするとなれば、
自然と地が出て、その召使い個人の人柄があらわになるものです。
主人にかかわる噂をぺらぺら喋ったり、グチをこぼしたり――
バンターはそんなことはありません。
普段においても、ピーター卿の忠実なる従僕のままです。
たとえ、おそばについていない時でも。
しかし。
捜索に入った屋敷の召使い仲間と話すときは、「仲間の信頼をかち取るべく」わざと主人ピーター卿へのグチをこぼしたりします。本心に逆らって、“俗っぽい召使い”の演技をするのです。
なぜそんな演技をするのか?
くだけた態度を見せて屋敷の召使いたちを安心させ、
事件に関する情報を聞き出すのですためです。
事件解決に奔走するピーター卿に、価値ある情報を捧げるためです。
(裏の情報に通じている召使いたちが、雇い主側の貴族たちに「じつは…」なんて、腹を割って話したりはしませんからね。バンターだからこそ、出来る仕事なのです。)
演技とはいえ、イヤな気持ちでしょうね。
敬愛する主人の悪口を言うのだもの。
わざわざ俗っぽい演技をしなくてはならないところからみると、
バンターは普段から“立派な従僕である”ことが、
本人にとってもいちばんベストな状態なのかもしれません。
もともとが、従僕に向いている人なのでしょう。
バンターがいかに従僕にふさわしい人格であるかは、つぎの引用でも明らかです。
情報収集の結果を記したピーター卿宛ての、バンターの手紙の一部分です。
すばらしい方ですバンターは。いや、バンター氏は。
10頁にわたるこの手紙、読み応えあります。
さあ、バンター氏の召使評価です。
ああ、いいですね。
なかなかの高得点です。
お、相思相愛ではないですか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/91/ee6bdfac134c9f1ea0f70e43e25efd71.gif)
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『誰の死体?』(原題Whose Body?1923)ドロシー・L・セイヤーズ著 浅羽莢子訳 創元推理文庫(1999)より
最近はジーヴスをはじめ、魅力的な従僕やバトラーとの出会いが続いてまして、
うれしい限りです。(忍び笑い)
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誰の死体?
本日の従僕、バンターもなかなかの人物です。
彼は、イギリスの公爵・アマチュア探偵のピーター卿に仕えております。
物語がはじまって間もなく、バンターはピーター卿から呼びつけられます。
「バンター!」
「はい、御前」
本を持ったままひっくり返ってしまった。御前って…。(水戸黄門?)
原文はどうなっているのでしょう。
おそらく“Yes, Lord.”だと思うのですが。
訳者あとがきを読むと、やはり敬称の訳し方には苦労されたようです。
あきらかに階級に差のあるサー(Sir) と ロード(Lord) だけならいいですが、
オノラブル(Honourable)といった“優遇爵位”
(伯爵の次男以下、および下位の世襲貴族の子供に対する呼びかけ)もあるので、ややこしい。
さらにLadyへの呼びかけとなると、
どの階級貴族の奥さんを指して言っているのか、見分けるのが非常に難しい。
「Yes, Lady」
この受け答えだけだと、Sirの奥さんに言っているのか、
Lordの奥さんに言っているのか、どちらとも取れるのです。
執事や従僕たちは、これらの煩雑な敬称をとうぜん覚えていなくてはなりません。
ディナーのお出迎えに、ゲストの階級を呼び間違えたら大問題です。
この敬称の呼び方はとてもわかりにくいので、
また別の回をもうけて、改めて述べることとしましょう。
では、話をバンターのに戻ります。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/e0/d521b5058e0dfbf75897683f2b383cbf.png)
『誰の死体?』は推理小説です。
貴族探偵のピーター卿が主人公とくれば、
従僕の仕事は素人探偵のお手伝い、となります。
これはもう、お決まりのポジションといえるでしょう。
推理・冒険ものの小説などの、従僕が活躍するシーンで
「ああ、いいなぁ」と思うのは、
“従僕が従僕たるべき仕事をした”からこそ、
事件解決のカギが得られたときです。
主人を助けるためだからといって、スーパーマンになる必要はないのです。
いつもどおり“かゆいところに手がとどく”仕事をするだけで、
じゅうぶんなのです。
従僕バンターは、ただ良き従僕らしくあるからこそ、
ピーター卿の事件解決に役立っている。
主人のピーター卿みずからが、それを語っています。バンターへの賞賛として。
「得難い男だ――他の用事を言いつけられた時に、本来の仕事をやってからとは決して言わない。」いいですね。これですよ、基本は。
「値段のつけようもない男だよ、バンターは――カメラを持たせれば驚くほどの腕だし。不思議なのは、僕が風呂とか靴とか言う時、必ずその場にいることさ。写真の現像はいつしているのやら――たぶん眠りながらやってるんだな」
ご主人はアラジンの魔法のランプを手に入れているのも同然です。
しかも願いごとは三つといわず、無制限だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/e0/d521b5058e0dfbf75897683f2b383cbf.png)
バンターは公私の顔がどちらもさほど変わらない,
あまりないタイプの従僕です。
仕事においての姿勢と、普段の態度にあまりギャップがないのですね。
召使いは、いくら階上でツンとすましてグラスの乗ったシルバートレイを掲げていても、
階下におりて召使い同士、主人の話をするとなれば、
自然と地が出て、その召使い個人の人柄があらわになるものです。
主人にかかわる噂をぺらぺら喋ったり、グチをこぼしたり――
バンターはそんなことはありません。
普段においても、ピーター卿の忠実なる従僕のままです。
たとえ、おそばについていない時でも。
しかし。
捜索に入った屋敷の召使い仲間と話すときは、「仲間の信頼をかち取るべく」わざと主人ピーター卿へのグチをこぼしたりします。本心に逆らって、“俗っぽい召使い”の演技をするのです。
なぜそんな演技をするのか?
くだけた態度を見せて屋敷の召使いたちを安心させ、
事件に関する情報を聞き出すのですためです。
事件解決に奔走するピーター卿に、価値ある情報を捧げるためです。
(裏の情報に通じている召使いたちが、雇い主側の貴族たちに「じつは…」なんて、腹を割って話したりはしませんからね。バンターだからこそ、出来る仕事なのです。)
「お大変なんですねえ、バンターさん」ぺミング夫人が心から言う。「卑しいですよ、あたしに言わせりゃ。警察の仕事なんて、紳士にふさわしい暇潰しとは言えませんよ。貴族さまならなおのこと」バンターの心をちくりと刺す場面です。
「そのうえとにかく手間のかかるおかたでね」バンター氏は健気にも、雇い主の人格と自分の気持ちを大義名分のために犠牲にした。「お靴は部屋の隅に放りこんでおかれる、お召し物は床に掛けてあるってやつで――」(下線は筆者)
演技とはいえ、イヤな気持ちでしょうね。
敬愛する主人の悪口を言うのだもの。
わざわざ俗っぽい演技をしなくてはならないところからみると、
バンターは普段から“立派な従僕である”ことが、
本人にとってもいちばんベストな状態なのかもしれません。
もともとが、従僕に向いている人なのでしょう。
バンターがいかに従僕にふさわしい人格であるかは、つぎの引用でも明らかです。
情報収集の結果を記したピーター卿宛ての、バンターの手紙の一部分です。
僭越ながらこの場をお借りして、愚生が常々、お料理、お飲物およびお召し物に関する御前の高雅なご趣味に、ありがたく感服しておりますことを申し上げたく存じます。敢えて申し述べさせていただければ、御前の従僕兼執事を務めさせていただきますことは、喜びの域を超え――勉強なのでございます。このような心からの感謝の言葉をよどみなく書けるのですから、
すばらしい方ですバンターは。いや、バンター氏は。
10頁にわたるこの手紙、読み応えあります。
さあ、バンター氏の召使評価です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/78/12d05f5e121f2c28424dd1cc3dab9748.jpg)
なかなかの高得点です。
お、相思相愛ではないですか。
ひかえめ 3- バンター氏が電話口に出ているときの声の描写。
躾の行き届いた使用人が電話を使う時特有の、あの押さえた、それでいてよく響く音程に高められている。
いいですねー。この程よいひかえめさが。基本です。
機転 3- 人間観察の眼は主人のピーター卿をしのぐほど。
自分を俗人にしたてて相手の油断をさそうなど、高等な技を使います。
献身 5- 第一次世界大戦下、ふたりは同じ軍隊でした。
少佐だったピーター卿に仕えるは、バンター軍曹。献身にも年季が入っています。
主人からの愛情 5- たびたびバンター賞賛を口にしています。そのいっぽうで、
「何だか時々、マーヴィン・バンターに遊ばれている気がする」
とひとりごちたりするところも、深い愛情が感じられます。
スタイル 3- バンター氏がどのような容姿なのか、書いてないんですよね、これが。
(さすがは従僕。いい味出していながら、端役扱いです)
しかしながら、ピーター卿がシミの付いたズボンを履いたまま
よその屋敷に出かけようとするのを
「そうは参りません。これを見過ごすようではお暇を出されてもしかたがございません」
と、断固とした態度で押しとどめるのをみると、
きっとご自分の服装なども気をつけていらっしゃることでしょう。
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