ハウス・キーパーの誇り・「ゴスフォード・パーク」その1

本日の召使 : ミセス・ウィルソン(ハウス・キーパー) 
映画「ゴスフォード・パーク」より



「ゴスフォード・パーク」

召使い好きなら、この映画は避けて通れないでしょう。
階上(upstairs)の貴族たちと、階下(below stairs)の使用人たち。
この両極の社会がひとつ屋根のもと、
イギリス郊外のカントリー・ハウス「ゴスフォード・パーク」を舞台に
きめ細やかに描かれています。
監督は、「群像劇といえば…」のロバート・アルトマン。
(よくぞ使用人たちを題材にしてくれた…とむせび泣きするくらい嬉しい)
とにかくとにかく、召使がたくさん登場する。
おお、メイド、フットマン、執事の黄金時代…と思いきや、
オープニング・ロールに浮かび上がった文字をみて、びっくり。

― November, 1932 ―

1932年!? 
使用人社会の衰退期、
いや、もう「過去の遺物」となっている時代じゃないか。




使用人社会の黄金期は、
産業革命はなざかりのヴィクトリア朝時代(1837-1901)です。
台頭するミドル・クラスが社会的地位を得ようと躍起になり、
そのステータス・シンボルとしたのが「土地」であり「馬車」であり、
そして「使用人」でした。

『英国カントリー・ハウス物語 華麗なイギリス貴族の館』
(杉恵惇宏著・渓流社)
によると、19世紀末のイギリスには150万人以上の家庭使用人がいて、
労働力の16パーセントを占めていたそうだ。

と言われても、ピンとこないけど、
平成15年の「日本の事務職人口・約15パーセント」と比べると、
いや、ものすごい数だ。(統計は総務省統計局による。)
いまの日本の事務員を超える数の人々が、
当時のイギリスではみなご主人や屋敷に仕えて働いていたのだ。

そんな使用人社会も、第一次世界大戦を境に衰退する。
使用人の数そのものが少なくなり、
かつての使用人たちは立派な産業労働者として、
産業資本社会へと進出していった。

その結果、「家事使用人」は
「産業労働者」より劣る職種とみなされるようになった。

そして残りわずかとなった使用人たちは、
社会のごく上層のクラスに仕えるようになり、
再びかつてのクラシカルなステータス・シンボルの役割を担うこととなる。
(つまり1930年代、ゴスフォード・パークに住込みで働いている
あの使用人たちは、そんじょそこらの貴族に仕えているのではなく、
「いまだ対面を保つのに充分な財力をもつ数少ない貴族」に仕えている
ということになる)




マイナーな職業となってしまった家事使用人。
もうつぶしは効かない。
世界は大恐慌の真っ只中。
もしこの職場を失ったら…。

ゴスフォード・パークの使用人たちは、
斜陽の不安を抱えて勤めていたのではないだろうか。
時代背景を鑑みると。

そんな当て推量で映画を観ていたら、ラスト近くで
ゴスフォード・パークのハウスキーパー、ミセス・ウィルソン
ビシッと横っ面をとひっぱたかれた。

優秀な召使の持つ特質とは何か―先を読む能力よ。私は誰よりも優秀よ。パーフェクトな使用人。先を読んで食事を準備しベッドを整える。人に言われる前に。


ああ、目が覚めた。
「召使」は、健在なのだ。

関連リンク
 映画「ゴスフォード・パーク」(United International Pictures)
  映画会社によるストーリーご紹介。凝っててキレイ。

さて、ミセス・ウィルソン「召使評価グラフ」(ネタばれあり)


ひかえめ 3
ひかえめ…というか、女主人にも部下の召使たちにも
必要最小限の事務的なことしか口にしないので、厳格、冷たいカンジ。
まあ、それがハウスキーパーらしいといえば、らしいけれど。

機転 5
なんてったって事件の鍵を握る「先読み名人」ですもの。
“パーフェクトの使用人”というだけのことはあります。満点。
(その機転のおかげで、ご主人さまは死ぬハメになるのだが)

献身 3
「心からの」献身はゼロ。
(主人は自分と息子を捨てた男ですもの。アタリマエですね)
でも職務は完璧に遂行するので、あいだをとってこの点数に。

主人からの愛情 0
文句なし0点でしょう。
ミセス・ウィルソンが悪いのではありません。
ご主人さまが悪い。
というかまったくもって「貴族」な人物なのです。

スタイル 4
姿勢がいいですね。こうピッとしてて。
黒色のワンピース(おそらく制服なのでしょう)がさらに威厳をかもし出させています。
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