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執事たちの足音
主人の敵を討つ女中 『鏡山旧錦絵』
本日の召使 : お初(奥女中)
(『鏡山旧錦絵』歌舞伎オンステージ6 白水社 1996年より)
外国の召使が続いたので、たまには日本の召使をご紹介。
歌舞伎『『鏡山旧錦絵』(かがみやまこきょうのにしきえ)』に登場の
女中、お初です。
主人の敵を討つ女中!
『鏡山旧錦絵』は、大奥のいじめ社会とお家騒動を取り合わせた作品です。
まさにフジテレビのドラマ『大奥』の世界、
もしくは菊池寛原作の昼ドラみたいなドロドロ加減です。
恐るべき女性同士の階級争い。いやぁー凄まじい。
お初のイメージ画像ならこちら。
十五代市川羽左衛門の絵葉書です。
(國學院大學学術フロンティア事業実行委員会所蔵)
片手に草履をギュッとつかみ、キリッとした立姿。美しい…。
歌舞伎の題材は実際にあった話からとられていることが多く、
この『鏡山旧錦絵』も享保九年に起きた女同士の敵討事件がもとになっています。
実説によると―
沢野という局の草履を中老みちが履き間違えてしまい、
怒った沢野はみちに侮辱を与え、みちは恥じて自害。
その後みちの下女さつが沢野を討ち、みごと主人の恨みを晴らした
―だそうです。
草履を履き間違えただけで…実説もかなりシビアです。
粗忽者に奥方は務まらん、ということでしょうか。
この演目、江戸時代には、宿下がりの奥女中たちから喝采を浴びたそうです。
さぞかし職場でのうっぷんを晴らしたことでしょうなぁ。
ご主人ひとすじ、純朴なお初
脚本『鏡山旧錦絵』を読むと、お初は活発でまめまめしい、
純朴な娘さんのように感じます。
お初は主人の尾上に代わり、竹刀の試合を岩藤に願い出る。立ち合いの許しを得ると、
分不相応にも立ち合いの相手が当の岩藤だと思い、
思わずプッと笑ってしまいました。
岩藤の憎々しげな態度に比べて、お初の無邪気さのなんと清々しいこと。
それだけに“ご主人さまを救いたい”お初の一途な想いが伝わってきます。
「御短慮召さぬよう」ご主人さまにそっと忠言
お初は素朴で無邪気なだけではありません。
物事を先回りして読み解く能力を備えています。
尾上は岩藤から草履を打ち据えられた後、悄然と自室に戻る。打ちひしがれた尾上をお初は心細やかにお世話する。からだを揉んでさし上げながら、お初はよもやま話といった風を装って、「忠臣蔵」の話を持ち出す。
「忠臣蔵」の刃傷の場、塩谷判官(浅野内匠頭)が高師直(吉良上野介)を切りつけた一件を「どのように思い召されるか」と問いかけるお初に、尾上は「短慮ではあるが、遺恨が度重なればもっともなことかもしれぬ」と答える。
するとお初は「はばかりながら」と断りを入れ、「短慮に身を任せては後に残る者たちの嘆きはいかばかりか」と申し上げる。
つまり、お初はそれとなく「御短慮を召さぬよう」尾上に進言しているのですね。
主人の心痛を慮ったうえで、ひそやかに機先を制する。なんとも心憎い。
歌舞伎では最後、自害した尾上の遺書により岩藤の御家乗っ取りの企てが露見し、お初は「主人の敵を討った忠義者」として
お上から「二代尾上を相続せよ」とのお墨付きを賜ります。
おおっ、女中から一気に中老へ!
さて、お初の召使評価です。
どうも私のお初のイメージは
純朴な人物を演じたら天下一品の、藤山寛美なんですよね。
(歌舞伎ファンの方、スミマセン)
なので、スタイルの点が低いです。(藤山寛美ファンの方、スミマセン)
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(『鏡山旧錦絵』歌舞伎オンステージ6 白水社 1996年より)
外国の召使が続いたので、たまには日本の召使をご紹介。
歌舞伎『『鏡山旧錦絵』(かがみやまこきょうのにしきえ)』に登場の
女中、お初です。
主人の敵を討つ女中!
『鏡山旧錦絵』は、大奥のいじめ社会とお家騒動を取り合わせた作品です。
まさにフジテレビのドラマ『大奥』の世界、
もしくは菊池寛原作の昼ドラみたいなドロドロ加減です。
恐るべき女性同士の階級争い。いやぁー凄まじい。
【あらすじ】 大奥で一番の権力をもつお局・岩藤は、町家出身の中老・尾上が姫様に信頼されているのが気に入らない。さらに御家乗っ取りを企んでいることが尾上にバレてしまい、岩藤は尾上をなんとか貶めようと画策する。 岩藤は町家出の尾上が武術の心得が無いと知りながら竹刀の試合を挑む。ところが「主人のかわりに」と試合に臨んだ尾上の女中・お初に、岩藤派一同、コテンパンにやっつけられる。ますます尾上への憎しみを募らせる岩藤。 ある日、尾上は幕府の命により、姫様より預かった名木の蘭著侍(らんじゃたい)の提出を求められる。尾上が蘭著侍の入った箱を開けると、なんとそこには名木の代わりに岩藤の草履が入っていた。尾上は岩藤のしわざと察したが、岩藤は尾上こそ盗っ人であると断罪し、その草履で尾上の額を打ちすえた(!) 恥辱に耐えかねた尾上は岩藤の悪事を記した遺書を残して自害する。駆けつけた尾上の女中・お初は遺書と件の草履とを胸に、主人の敵討ちを決意する。 |
お初のイメージ画像ならこちら。
十五代市川羽左衛門の絵葉書です。
(國學院大學学術フロンティア事業実行委員会所蔵)
片手に草履をギュッとつかみ、キリッとした立姿。美しい…。
歌舞伎の題材は実際にあった話からとられていることが多く、
この『鏡山旧錦絵』も享保九年に起きた女同士の敵討事件がもとになっています。
実説によると―
沢野という局の草履を中老みちが履き間違えてしまい、
怒った沢野はみちに侮辱を与え、みちは恥じて自害。
その後みちの下女さつが沢野を討ち、みごと主人の恨みを晴らした
―だそうです。
草履を履き間違えただけで…実説もかなりシビアです。
粗忽者に奥方は務まらん、ということでしょうか。
この演目、江戸時代には、宿下がりの奥女中たちから喝采を浴びたそうです。
さぞかし職場でのうっぷんを晴らしたことでしょうなぁ。
ご主人ひとすじ、純朴なお初
脚本『鏡山旧錦絵』を読むと、お初は活発でまめまめしい、
純朴な娘さんのように感じます。
お初は主人の尾上に代わり、竹刀の試合を岩藤に願い出る。立ち合いの許しを得ると、
分不相応にも立ち合いの相手が当の岩藤だと思い、
お初 : そりゃあなた様が。 岩藤 : イヤわしじゃない/\/\、なんのわしがあほらしい。 (ト憎らしく言い) (『鏡山旧錦絵』より引用・/\は《繰り返し記号・くの字点》の代用としてブログ筆者が記した。) |
岩藤の憎々しげな態度に比べて、お初の無邪気さのなんと清々しいこと。
それだけに“ご主人さまを救いたい”お初の一途な想いが伝わってきます。
「御短慮召さぬよう」ご主人さまにそっと忠言
お初は素朴で無邪気なだけではありません。
物事を先回りして読み解く能力を備えています。
尾上は岩藤から草履を打ち据えられた後、悄然と自室に戻る。打ちひしがれた尾上をお初は心細やかにお世話する。からだを揉んでさし上げながら、お初はよもやま話といった風を装って、「忠臣蔵」の話を持ち出す。
「忠臣蔵」の刃傷の場、塩谷判官(浅野内匠頭)が高師直(吉良上野介)を切りつけた一件を「どのように思い召されるか」と問いかけるお初に、尾上は「短慮ではあるが、遺恨が度重なればもっともなことかもしれぬ」と答える。
するとお初は「はばかりながら」と断りを入れ、「短慮に身を任せては後に残る者たちの嘆きはいかばかりか」と申し上げる。
つまり、お初はそれとなく「御短慮を召さぬよう」尾上に進言しているのですね。
主人の心痛を慮ったうえで、ひそやかに機先を制する。なんとも心憎い。
歌舞伎では最後、自害した尾上の遺書により岩藤の御家乗っ取りの企てが露見し、お初は「主人の敵を討った忠義者」として
お上から「二代尾上を相続せよ」とのお墨付きを賜ります。
おおっ、女中から一気に中老へ!
さて、お初の召使評価です。
どうも私のお初のイメージは
純朴な人物を演じたら天下一品の、藤山寛美なんですよね。
(歌舞伎ファンの方、スミマセン)
なので、スタイルの点が低いです。(藤山寛美ファンの方、スミマセン)
ひかえめ 3- 主人を助けるためなら、どんな場所でも駆けつけるお初。
「誰が許しを得てここに来た」と岩藤からツッ込まれても、
「誰の許しも頂きゃせんけども」とシレッと答えるところなど、かなり神経が太い。
機転 5- それとなく主人に「短慮を召さぬよう」進言したのが、やはり光ってますね。
進言の甲斐なく、主人は自害してしまったけれど…。
献身 5- なんといっても、敵討ですからね。推奨するワケじゃないですが。
敵討ちは「献身という美」の結晶のひとつだと思います。
主人からの愛情 4- じつは武家出身のお初。本来なら町家出身の主人の尾上よりも社会的地位の高い暮らしを享受できるはずでした。女中の身となったのは、家が没落してしまったから。
お初の身の上を「世が世なら…」と慮る尾上のセリフに、お初への特別な愛情を感じます。
スタイル 1- 「二代尾上」の名跡を継ぐのですから、それなりに見目良い女子であってもいい。
…のですが…どうも私のイメージは藤山寛美。
…もしくは樹木樹林…。
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