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執事たちの足音
召使・ルイ君の忙しい生活 『バジル氏の優雅な生活』
本日の召使 : ルイ・ラトゥール(バジル・ウォーレン卿の召使)
(『バジル氏の優雅な生活』JETS COMICSより)
坂田氏が描く世界、1ページ、1コマの中には、
「ゆるやかであたたかい空気」が含まれている。
春風駘蕩。すべて世は事もなし。
『バジル氏の優雅な生活』
の舞台となる19世紀イングランドの貴族風俗に、その綿毛のような「空気感」が、なんとも合っている。
さらに、たくさんの召使たちが登場・活躍するとあっては、ハマらないでいられようかこの作品に。(いや、いられない。反語)
ルイ君は十に満たない少年召使。フランス人です。
主人バジル・ウォーレン卿みずからの教育を受けて、「じつに気の利く」イギリス式召使へと伸びやかに成長してゆきます。
好奇心いっぱいの無邪気さをみせるいっぽうで、子供扱いしてナメてかかって来た相手には、オトナ顔負けの駆け引きを繰り出す。
利発で、素直。実年齢以上にしっかりした少年召使です。
少年ルイ君がイギリス召使となるまで
作品全体の「ゆるやかであたたかい空気のような」雰囲気とはうらはらに、
ルイ君自身は、子供ながらかなり波乱万丈な人生を送っております。
ルイ君は孤児です。
父母を病気で失った後、伯父に引き取られますが、伯父の策略で知らずのうちに
身売りされたと気付いたのは、故郷フランスを離れイギリスへと向かう船の中。
人から人へと売り渡され、ついに“貴族の小姓”(つまり貴族のナニのお相手)
として売り出すためにイギリスの人買いの元締めに買われました。
人買いのアジトでの度重なる虐待の末、ルイ君はついに脱出を図ります。
濃霧にガス灯がぼやけるロンドン街を、息せき切って疾走する。迫り来る追手。
ついに追いつかれ身を翻したつぎの瞬間、ぶつかった長身の紳士。
それが未来のご主人、バジル・ウォーレン卿でした。
ルイ君を屋敷につれて帰ったバジル氏は、ルイ君にフランス語で語りかけ事情を聞き、食事を供します。
ところがルイ君、差し出された料理を激しく拒否します。
「いらないよ!! エサもらうのなんか御免だ 僕は飼い犬じゃない!!」
少年の矜持に心ついたバジル氏は、やさしく答えます。
「飼い犬にエサをやっているつもりじゃない この食事は好意だよ
でなきゃ同情だ …それを断るほど裕福でもなさそうだが」
緊張がゆるんだルイ君は、湯気立つスープ皿を平らげます。夢中でおかわりを続けるルイ君をバジル氏は興味深く見つめ、執事のアダムスに言います。
「面白い子だ あの子を召使として雇う事にしよう」
(以上『バジル氏の優雅な生活』JETS COMICS 第1巻「サーヴァント」より引用)
執事アダムスと少年ルイ君のあたたかい関係
こうしてバジル・ウォーレン卿の召使となったルイ君。バジル氏から英語の読み書きや幅広い知識を教わるいっぽうで、執事のアダムスに付いて屋敷での仕事を覚えてゆきます。
この老年の執事アダムスの、ルイ君に対する接し方が、とてもいいんですね。あったかいんです。
ルイ君が落ち込んでいるのに気付くと、
「いいから台所で温かいミルクでもお飲み
身体が冷えてると心まで寒くなるものだよ」 (同上「ハリーの結婚」より引用)
そっと手を取って元気付けます。
泣きべそかいた孫をなぐさめる、お祖父ちゃんのようです。
ルイ君が勉強に夢中になって深夜まで本を読んでいても、アダムスは一切とがめずに彼が眠りにつくまで起きています。
(ちなみに19世紀当時の執事は、灯りの始末や窓・玄関の鍵閉めなど、屋内のセキュリティー・チェックが一日の終わりの仕事でした)
ほかにも世話好きなコックのミセス・ヨハナーや、心優しいメイドのハンナ、美男の馬丁ロバートなど、ルイ君は屋敷に暮すたくさんの召使たちの「大家族」の中で、たっぷり愛情に育まれルイ成長してゆきます。
もはや孤児ではないのです。
主人・召使たち全員の息子であり、弟なのです。
召使が多く登場する作品(漫画、小説、映画…etc)で、これほど召使同士の温かい交流が描かれているものは、少ないと思います。
実際の「階下の社会」では、狭いムラ社会と同じで、嫉妬や羨望、卑下や自慢といった人間関係の難しさもあったでしょう。
しかし作者の坂田靖子氏はそんなドロドロに焦点を当てません。(おそらく興味がないのでしょう)
坂田氏が描く召使たちには「己の立場をわきまえている者」たちが持ち合わせている「余裕と誠実さ」が感じ取れます。
自分の能力を過信して、身の丈に合わない幸せを欲しがったりしません。
だからピリピリしていない。
描かれる召使たちの心の余裕が、作品に流れる「ゆるやかであたたかい空気感」の正体なのかもしれません。
さて、ルイ君の召使評価です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/a1/cc025131436e274a84a62d24f3eee158.jpg)
あーいいですね。
主人バジル氏とは愛し愛されの関係。
理想的な主従関係です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/91/ee6bdfac134c9f1ea0f70e43e25efd71.gif)
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(『バジル氏の優雅な生活』JETS COMICSより)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/88/f6ee5cffb229f859ce1866b3a2d15181.jpg)
「ゆるやかであたたかい空気」が含まれている。
春風駘蕩。すべて世は事もなし。
『バジル氏の優雅な生活』
さらに、たくさんの召使たちが登場・活躍するとあっては、ハマらないでいられようかこの作品に。(いや、いられない。反語)
ルイ君は十に満たない少年召使。フランス人です。
主人バジル・ウォーレン卿みずからの教育を受けて、「じつに気の利く」イギリス式召使へと伸びやかに成長してゆきます。
好奇心いっぱいの無邪気さをみせるいっぽうで、子供扱いしてナメてかかって来た相手には、オトナ顔負けの駆け引きを繰り出す。
利発で、素直。実年齢以上にしっかりした少年召使です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/e0/d521b5058e0dfbf75897683f2b383cbf.png)
作品全体の「ゆるやかであたたかい空気のような」雰囲気とはうらはらに、
ルイ君自身は、子供ながらかなり波乱万丈な人生を送っております。
ルイ君は孤児です。
父母を病気で失った後、伯父に引き取られますが、伯父の策略で知らずのうちに
身売りされたと気付いたのは、故郷フランスを離れイギリスへと向かう船の中。
人から人へと売り渡され、ついに“貴族の小姓”(つまり貴族のナニのお相手)
として売り出すためにイギリスの人買いの元締めに買われました。
人買いのアジトでの度重なる虐待の末、ルイ君はついに脱出を図ります。
濃霧にガス灯がぼやけるロンドン街を、息せき切って疾走する。迫り来る追手。
ついに追いつかれ身を翻したつぎの瞬間、ぶつかった長身の紳士。
それが未来のご主人、バジル・ウォーレン卿でした。
ルイ君を屋敷につれて帰ったバジル氏は、ルイ君にフランス語で語りかけ事情を聞き、食事を供します。
ところがルイ君、差し出された料理を激しく拒否します。
「いらないよ!! エサもらうのなんか御免だ 僕は飼い犬じゃない!!」
少年の矜持に心ついたバジル氏は、やさしく答えます。
「飼い犬にエサをやっているつもりじゃない この食事は好意だよ
でなきゃ同情だ …それを断るほど裕福でもなさそうだが」
緊張がゆるんだルイ君は、湯気立つスープ皿を平らげます。夢中でおかわりを続けるルイ君をバジル氏は興味深く見つめ、執事のアダムスに言います。
「面白い子だ あの子を召使として雇う事にしよう」
(以上『バジル氏の優雅な生活』JETS COMICS 第1巻「サーヴァント」より引用)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1a/e0/d521b5058e0dfbf75897683f2b383cbf.png)
こうしてバジル・ウォーレン卿の召使となったルイ君。バジル氏から英語の読み書きや幅広い知識を教わるいっぽうで、執事のアダムスに付いて屋敷での仕事を覚えてゆきます。
この老年の執事アダムスの、ルイ君に対する接し方が、とてもいいんですね。あったかいんです。
ルイ君が落ち込んでいるのに気付くと、
「いいから台所で温かいミルクでもお飲み
身体が冷えてると心まで寒くなるものだよ」 (同上「ハリーの結婚」より引用)
そっと手を取って元気付けます。
泣きべそかいた孫をなぐさめる、お祖父ちゃんのようです。
ルイ君が勉強に夢中になって深夜まで本を読んでいても、アダムスは一切とがめずに彼が眠りにつくまで起きています。
(ちなみに19世紀当時の執事は、灯りの始末や窓・玄関の鍵閉めなど、屋内のセキュリティー・チェックが一日の終わりの仕事でした)
ほかにも世話好きなコックのミセス・ヨハナーや、心優しいメイドのハンナ、美男の馬丁ロバートなど、ルイ君は屋敷に暮すたくさんの召使たちの「大家族」の中で、たっぷり愛情に育まれルイ成長してゆきます。
もはや孤児ではないのです。
主人・召使たち全員の息子であり、弟なのです。
召使が多く登場する作品(漫画、小説、映画…etc)で、これほど召使同士の温かい交流が描かれているものは、少ないと思います。
実際の「階下の社会」では、狭いムラ社会と同じで、嫉妬や羨望、卑下や自慢といった人間関係の難しさもあったでしょう。
しかし作者の坂田靖子氏はそんなドロドロに焦点を当てません。(おそらく興味がないのでしょう)
坂田氏が描く召使たちには「己の立場をわきまえている者」たちが持ち合わせている「余裕と誠実さ」が感じ取れます。
自分の能力を過信して、身の丈に合わない幸せを欲しがったりしません。
だからピリピリしていない。
描かれる召使たちの心の余裕が、作品に流れる「ゆるやかであたたかい空気感」の正体なのかもしれません。
さて、ルイ君の召使評価です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/a1/cc025131436e274a84a62d24f3eee158.jpg)
あーいいですね。
主人バジル氏とは愛し愛されの関係。
理想的な主従関係です。
ひかえめ 2- 利発で弁の立つルイ君は、自分の意見を堂々と主人に主張します。
バジル氏が人妻との浮気旅行に出かけると知り、
「そういう旅仕度のお手伝いはえんりょさせていただきます」
「おまえそれでも召使か!! ルイ」
「あなたが教育なさいました」
(『バジル氏の優雅な生活』JETS COMICS 第1巻「ジェントルマン」より)
なかなか、主人に手厳しい召使です。
機転 4- 「おまえカンがいいから好きだよ」主人が誉めるとおり、頭の回転が早いルイ君。機転も利きます。
でも残念ながら、いつも主人バジル氏の機転のほうが一枚上手なのです。
ボンヤリした主人に仕えたほうが、召使は能力が高く見えますね。
献身 5- バジル氏が屋敷に帰るのがどんなに遅くとも、寝ずに待っています。(子供には夜更かしはつらいでしょう)
夫より先には寝ない明治時代の妻のような、献身ぶりです。
主人からの愛情 5- 好奇心いっぱいのルイ君はたびたび事件を引き起こし、そのたびにバジル氏が助けに馳せ参じます。
父性愛をくすぐられ、可愛くてしかたがない様子です。
スタイル 4- クリクリの瞳に、ふわふわカールの金髪。大きな白襟のブラウスがよく似合います。過去にお小姓として身売りされそうになったのも頷けるほどの可憐さです。(性格は見た目と正反対です)
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コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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アンドレにも焦点を当てて頂けないでしょうか?
彼も孤児?かも?
おばあちゃんがいますが……。
あっははは! ずばり「召使魂」ついてますね。やりましょう。あー燃えてきた。
そうですよ。アンドレですよ。私の「召使リスト」から漏れてたなー。うっかりしてたなー。ありがとうございます。
アンドレのおばあちゃんはジャルジュ家に仕えるオスカルの乳母ですよね。ああ、この人にも触れたいなぁ。