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クリエイト速読スクールブログ
なおしのお薦め本(75)『元気乃素』
クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。
『元気乃素』
林家 木久蔵著
落語家の林家木久扇が、木久蔵時代の1990年に出した本です。
好みの噺家というわけではないのですが、著者ならではの魅力が伝わってくるので紹介することにしました。特に若手時代の、師匠の林家彦六とのやりとりが面白いです。読んでみてください。
「ツケといって、黒子の衣装を着て高座の隅に陣取り、ツケ板を小さな拍子木で打って場面を盛り上げる役がある。芝居噺の立ち回りなどに使うことが多い。トンカラ、トンカラ、カラカラ、カラカラ、カラーッやカラッなんて鳴らすんです。歌舞伎でよくやってます。
師匠があるとき、私にツケを『おまえがやれ』といいます。そこで生まれてはじめて黒子の衣装をつけた。全身黒いもので包まれて、ノリになったみたいです。忘れもしない上野の本牧亭でのこと。『どうすればいいんですか』と何も知らない私が尋ねたら、ただ『ついてくりゃァいいんだ』です。
出囃子が鳴って、師匠が高座へ出ていく。あわててもう一度尋ねました。すると『ついてくりゃァいいんだ』とまたいうんです。
下座にいて、師匠の動作に気をつけろ、という意味だったんですが、そうとは知らないから、師匠について、私も高座に出ていった。ツケ板を持って隣りに並んで正座したんです。
『えーッ、今宵はいっぱいのお運びでありがとうございます。』と彦六が顔を上げてみると私がいる。びっくりして小さな声で『あっちへ行けッ』
私は私で『あっちへ行け』で始まるなんて、妙な話だな、と思っていたら、また強い声で『もっとあっちへ行け』
私はいざるように、横へズルズルッとずれる。そのたびにお客が笑う。師匠もあきらめたのか、噺も進んで、いよいよラストの大立ち回り。師匠が長い銀扇を振り上げるんですが、それが見えないんです。真横に坐っていて黒子は前を向いているし、面体をかくすアミ様の布がかかってます。
仕方なく頭のかぶりものをとって師匠のほうを覗き込むと、こりゃおかしいとまたお客がハハハハハ。笑う場面じゃないから師匠もあせって噺をはしょり『まずは今晩はこれぎりに』
師匠のあいさつに合わせ、私も見得をきってニコリと笑ってみせたから、さあこれがワーッとばかりにうけちまう。
幕が下りると、師匠の顔がブルブルふるえてる。
『キ、キ、キクゾーッ』
太鼓のバチが飛んできた。こりゃいけないと逃げながら振り向けば、追ってくる。
本牧亭の階段をダダダダッと下りると、うしろから『待ちやがれーッ』。もう夢中で素足で表へ飛び出した。
私もひたむきにやってたつもりなんですが、何も知らないのに、人の手伝いをするのは、恐ろしいことです。」
これを読むと、著者には、落語家よりも、落語の中の登場人物のほうがふさわしいと思えてきます。
いなくなるとさびしいのは、名人よりこういう人ではないでしょうか。 なおし
■参考記事
※もりぞう爺さんの話(上)
オマケ
―なおしのメール―
松田さん、こんにちは。
おすすめ本がありましたので、またパタパタと打ってみました。
林家木久蔵です。
笑点ではバカを演じている、などという評もありますが、実際に落語をやっている時も同じようでした。あまり面白くありませんでした。噺家として上手かというと、そうではないでしょう。でも、この本を読んで、少し見方が変わったのです。そういうわけで、おすすめ本にしました。
それではまた。
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『私で私で』は『私は私で』でしょうか?
ちょっと気になってしまいました。
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