月の岩戸

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カペラ・2

2013-05-06 07:05:31 | 詩集・瑠璃の籠

白い砂漠の夢を見ていた
見わたす限り 周りは白い砂ばかりで
砂丘はゆるやかにうねりながら
どこまでも続いている
その風景に蓋をするように
青菫色の空が 上に広がっていた
風に かすかに石鹸のようなにおいがする

山羊の声を聞いたような気がした

わたしはふと眠りから覚めた
夢の名残を漂いながら
ぼんやりと寝床から半身を起こすと
小窓のところに 星がいるのに気付いて
わたしはやっとはっきり目を覚まし
急いで姿勢を正した
星はわたしが何かを言う前に言った

カペラと申します
ぎょしゃの宮から あなたに会いにきたのだが
折あしく 眠っていらっしゃった
帰ってもう一度出直そうとも思いましたが
どうしてもお話がしたく 待っていました
お目覚めになったようなので 勝手に入ってきたのだが

わたしは床を出ながら言った
ああ 申し訳ありません
ながいことお待たせしてしまいましたか

いや それほどは

カペラはそういいながら 目を細め
苦しそうにわたしを見た
わたしは 胸に血がにじむように
小さな悲しみを感じた
それは昨日焚いた香の名残のようにかすかだが
胸に痛く刻み付けられるような悲しみだった
彼が支えてくれているからなんとかなっているが
ほんとうにわたしは いろいろなところが壊れている

ここにくるまえ
地球の様子を少し見て来ました
おもしろいものですねえ
存在しないはずの人間が
たくさん存在している

カペラは落ち着き払った声で言った
わたしは悲哀に心濡らしつつもうなずき 言った
ええ たくさんいます
ほんとうに たくさん
でもあまりこのことは深く言わないでください
だれも知らない方がいい

あなたはいつもおやさしい
さて もんだいはわたしのことだ
あなたもなんとなく
わたしがきた理由がわかるでしょう
わたしは 地球創造活動には参加していません
ほかの活動に参加しています
なので 人類にはあまり興味を持ちません
だが 苦いものだとは思っている
あなたがたのご苦労が 並みではないからだ

ああ なんとなくわかります
あなたは 人類から遠い

そのとおり だがわたしは
地球の 今の状態を見て 強く心惹かれています
この無茶苦茶な状態を
はたして人類はどう乗り越えていくのか

わたしはカペラの真剣なまなざしに
光る何かがよぎるのを感じて 言った
あなたも 地球に来られるのですか?
するとカペラは言った

はい そのつもりです
といっても あなたがたのように
深く人類にかかわろうとは思っていません
わたしの仕事はそういうことではない
わたしは人類とは縁の浅い星
わかっているでしょうが

ええ わかります
わたしたちは人類とははるか昔よりかかわり
親のように世話をしてきた
それゆえにどうしても人類には点が甘くなる
どうしようもなく 馬鹿なことをしてでも
助けたいと願ってしまう
だがそれがときに 
人類にとってよくないことになるということを
わたしはわかっております

わたしは あなたのように人間に甘いのではない
アンタレスのようにきびしくもない
わたしは わたしの興味で 人類というものを見てみたい
すべては神の導きでしょう
このとてつもない地球人類の危機の時代に
わたしもまた 神に召しだされた

あなたは あなたをとおして
人類に何かを与えてください
わたしはそう願います
わたしはずっと飴のように甘いものでいるつもりです
なぜなら 人類がそういうわたしを必要とするからです

言わずともわかります

あなたがこられるということは
ほかのぎょしゃの宮の方たちも 来られるのですか?

それは彼らの心次第です

そういうとカペラは
一瓶のふしぎな白い飲み物をわたしに差し出すのだった
受け取ってみるとそれはほんのりと暖かく
どことなく石鹸のにおいがするような気がした
カペラは言った

少々癖のある飲み物だが
どうか飲んでください
胸や腹に受けた たくさんの傷が
少しずつ癒えてくる

わたしは心から礼を言った
カペラは静かに微笑むと
別れの言葉を言って小窓から出て行った

わたしは瓶のふたをあけて
その飲み物を飲んでみた
やはり石鹸のにおいがする
それで少し吐き気を感じたが
無理に一口飲みこんだ
するとそれだけで お腹の中にあった何かが
熱く燃えて消えてゆくような気がした

あたたかい

わたしはカペラの愛にもう一度感謝した

存在するはずのない人間が
地球上にはたくさん存在している
わたしもそれを知っているが
カペラはきっとそれに関して
何かをするためにきたのだろう

あらゆる星が 降りてくる

この星を 人類を 助けるために



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1 コメント

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絵の解説 (てんこ)
2013-05-06 07:11:44
フェデリコ・バロッチ、「受胎告知」部分、16世紀イタリア、マニエリスム。

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