統合失調症の症状で一番困るのは、その内容もさることながら、感覚体験が実際の感覚体験と変わりないからだ。
世の中には理不尽なことをいう人もいるし、うそをつく人もいる。
そうなのだ。
理不尽なことをいう人がいても、それが幻覚だと決めつけられたら、戦えない。
周りの人に、「今、あいつが俺の悪口を言っただろう?」と尋ねても、うそをつかれた日には、戦えない。
だからであろう。
仮に幻覚や妄想が消えても、社会復帰に時間がかかるのは。
患者は発病前から、社会というものに不信感を持っている。
それに幻覚や妄想によって、その不信感に拍車がかかる。
仮に幻覚や妄想が消えても、一度社会に対して持った不信感はぬぐえない。
それに病気ということで、健常者側から劣等市民扱いされた屈辱もそう簡単に拭えるわけではない。
本当に嫌な病気である。
症状の苦しみよりも深刻なのは、辻悟氏が言った脱落意識と、それ以上に深刻なのは病気の経過の中で獲得した、人間不信なのだ。
人が人を信じられないということ。
これは悲劇である。