Adagietto

アダージェット 
大人だって毎日いろんなことを発見し、経験するのだ。
心にのこる 毎日を♪

◇ キリスト降誕図

2007年12月24日 | 大塚国際美術館
もうすぐクリスマス

去年大塚美術館をうろうろしているときに集めたキリスト降誕の図像を今頃アップします。
私が今までにのらりくらり勉強してきた小ネタつきでお楽しみ下さい。


   
   ジョット【スクロヴェーニ礼拝堂】1303~04年頃 イタリア・パドヴァ


「ルネサンの父」として美術史上親しまれているジョットの「降誕図」です。
ジョットは片足を中世に、もう片方をルネサンスの時代に置いています。
見えるものを美しく描きたいという近代の欲求と、中世の絵画の特徴である
「語り」への欲求とのはざ間で、傑作を生み時代をリードしました。

さてさてジョットの降誕図を見ると、掘っ立て小屋のようなものがあります。
これは「粗末な馬小屋」をあらわしたものです。
そしてキリストの降誕シーンに必ず判を押したように登場する牛とロバ。
画面右には、天使から救世主が誕生した知らせを聞く羊飼いたちが描かれます。
降誕と羊飼いへのお告げは、別々の場所であった出来事ですが、同時刻にあった
出来事なので同じ画面の中に描かれています。


それでは次は伝統的なビザンティン美術の「キリスト降誕図」をご覧下さい。



  聖ニコラオス・オルファノス聖堂 1320年頃 ギリシア・テサロニキ


ジョットの描く人物像は体重を伴って地に立っている感じのする近代的な人物像
でしたが、人間を超えた聖なるものをいかにして描くか、ということを求め続けた
ビザンティン美術の人物像は、3次元的な肉体になることを注意深く避けています。

ビザンティン美術の「降誕図」では、必ずキリストが絵の中に2度登場します。
まずは、中央の洞窟の中の飼葉桶で眠る幼子として、もうひとつは画面手前に
描かれる「産湯」の場面で。
ビザンティン美術において「洞窟」は、神の光を失った罪の世界を表します。
その暗闇に救いの光が降り、幼子の眠る飼葉桶にまっすぐ到達しています。
この「まっすぐ降りる光」は、この幼子こそがこの世を救う神様であることを告げています。
「産湯」の場面は、キリストの人間的な面を描いています。

画面後景には、「羊飼いへのお告げ」と「東方三博士」たちが描かれています。
博士たちは星に導かれ、贈り物をもってやってくるのです。

このひとつの絵の中には、なんと4つもの異なるシーンが組み合わされています。



   
   パナギア・ペリブレプトス聖堂 14世紀中頃 ギリシア・ミストラ


ビザンティン美術の「降誕」は見慣れると、分かることが増えて楽しい。
画面手前にいる男性は、ヨセフです。処女であるはずの婚約者マリアの懐妊に戸惑った表情で
描かれます。ジョットの降誕図にもいますね。




  コーラ修道院(現カーリエ博物館) 1315~20年 トルコ・イスタンブール


イスタンブールのコーラ修道院はビザンティン時代のモザイクがとても美しい状態で残っています。
この修道院内で震えるくらい感動したのはもう2年以上前の出来事。

いつものように画面にイエスの姿は2度登場します。
実はこれには前途した「キリストに降りる光」と「産湯」がそれぞれキリストの
「神性」と「人性」を表すという意味以外にも、重要な意味があります。

「産湯」場面のイエスの姿は、のちの「洗礼」を予告するものです。
共に水を浴びるという共通点があります。
さらに「布にくるまれて飼葉桶に寝かせられたイエス」は、磔刑後の埋葬を暗示します。

つまり降誕というとても「おめでたい」出来事の中に、キリストの「洗礼」と「受難」を
読み込んで、キリストの生涯全体の要約をしています。



フィレンツェ大聖堂美術館「十二大祭図」 14世紀前半 イタリア・フィレンツェ

非常に細かく丁寧に造られたこのモザイクも、ビザンティンの伝統的な図像を
見ることができます。十二大祭はキリストの生涯のうち最も重要な12の出来事です。



ファエンツァの画家 ボローニャ国立絵画館 13世紀後半 イタリア・ボローニャ


こちらの図像もビザンティン美術の伝統に従っています。
ビザンティンの図像では、画面前景の「産湯」より、中景のマリアが大きく描かれます。
中世においては、遠近法的な原則よりも、見せたいもの(重要なもの)ほど大きく描く
という原則が常に優先します。
写真の世界では信じられない絵画独特の世界観ですね。



聖テオドール聖堂 10世紀 トルコ・カッパドキア


トルコのカッパドキアのビザンティン美術は、なんとも土着性があり人物像も色合いも
とても特徴的です。飼葉桶に眠るイエスも、幼子というより6~7歳に見えます。
飼葉桶には宝石もちりばめられています。
産湯のシーンもユーモアがあってかわいいです・・・。



ジェンティーレ・ファブリアーノ 「東方三博士 プレデッラ部分」


時代が進み、ルネサンスの世界に突入している時期には、キリスト降誕もこのように
ドラマティックな光に包まれています。
後景で羊飼いたちは、この奇跡に驚きを隠せないという姿勢で描かれています。
 

◇ 貝殻のビーナス

2007年08月11日 | 大塚国際美術館
西暦79年のヴェスヴィオ火山の噴火により消滅したポンペイから出土した
「貝殻のビーナス」
ポンペイでも屋外(中庭)から発見されたため、大塚美術館でも屋外に展示
されています。

ギリシア時代ビーナス(アフロディテ)は「美の女神」であり、ローマ時代に
そのまま女神として受け継がれてからは「豊饒(ホウジョウ)の女神」の意味も
プラスされ、まさしく庭園の守護神としてぴったりのイメージだったのです。




ローマ帝国の美術は、ギリシアの美術をお手本として発展したから、
描かれる神々もギリシアと同じです


            
           (日中はこんな感じ)

    
         (「夜の美術館」ではこんな感じ)

○ 夜の睡蓮

2007年08月05日 | 大塚国際美術館

毎年恒例になっている大塚国際美術館の「夜の美術館」
今年は例年に比べ、人がかなり少なかったような気がする。
いつもはもっと盛り上がっていたはずなのに、今年はしんみりとしていた。

                   (2007.8・4)

人が少なかったから、いつもじっくり見たことのない、
夜にしか咲かない睡蓮を今年は時間をかけて楽しむことができた




(19:15) 軽く食事をしていたら、外は大粒の雨。
        いつもよりモネの「大睡蓮」の陶板が美しく見える。




(19:34) 雨は小降りになる。
        夜に咲く睡蓮は、まだつぼみを閉ざしたまま。
       



(20:50) さっきつぼみだった睡蓮がひらき始めた。




(20:54) 完全に雨もやみ、ひらきはじめた睡蓮が水面に映る。



(20:58) それにしても夜の睡蓮はひとつだけで孤独に光を放つ。




(20:59) 気づけば誰もいなかった。

◆ 聖ニコラオス・オルファノス聖堂 ~大塚国際美術館~

2007年07月16日 | 大塚国際美術館

大塚国際美術館の環境展示には、ギリシャ正教の聖堂もある。


大塚美術館に再現されている「聖ニコラオス・オルファノス聖堂」は、
ビザンティン(東ローマ)帝国時代に建てられた聖堂。
ギリシアのテサロニキという街に建っています。

テサロニキは紀元前315年にマケドニア王カサンドルが作った街で、
王の妻の名前をとって、テサロニキと名づけられたらしい。
その後この街は、ビザンティン帝国の第2の都であいなり、
現在のギリシアにおいてもアテネに次ぐ第2の都市です。
いつでも2番目と言うちょっぴり悲しい立場です。

では聖堂に入ります。


   
(写真1)              (写真2)

聖堂に入ると、まずその聖堂に捧げられた聖人(聖ニコラオス)が迎えてくれます。
入り口右に描かれた人物が聖ニコラオスです(2)。
この聖人の伝説がのちにサンタクロースの物語になっていきます。
入り口上の壁面には聖ニコラオスの生涯が描かれています。(1)


   
(3:東壁)            (4:西壁)

ギリシャ正教の壁面装飾にはたくさんの法則があります。
まず東には聖堂の最も重要な場所がきます。日の昇る方角ですから
入り口は西になるように建てられています。
(3:東壁)には、受胎告知やキリストの降誕、キリストの復活などの
      比較的明るい主題が描かれます。
(4:西壁)は、日の沈む方角ですから、キリストの磔刑や聖母の死などの
      暗い主題が描かれます。
      入り口の両脇には聖戦士の立像が描かれています。聖堂を守って
      いるみたいですね。


  
  (5:北壁部分)

北壁には誰もが知る主題「最後の晩餐」が描かれています。
ユダはテーブルの上にある容器に手を伸ばしている人物です。


この聖堂が大塚美術館の環境展示として選定されたのは多分、
聖堂がとてもコンパクト、壁画の剥落があまりなくて保存状態が良い、
普通ビザンティン聖堂にある天井のドームがない(これはきっと重要)
聖堂が小さいわりに、たっくさんの図像が描かれている。
というような理由で選ばれたのだと勝手に推測しています

◆ 聖テオドール聖堂 ~大塚国際美術館~

2007年06月21日 | 大塚国際美術館
カッパドキア。奇妙な形の岩が連なる不思議な土地。
トルコのアナトリア高原に位置する世界遺産。

実際にカッパドキアの地に立つと、よくもまぁこんなところに人間が
生活しているな~と、なるほど感心してしまう。
しかしこの地には、何百というキリスト教聖堂が存在する。
「祈る者」にとっては、見た目にも実際にも過酷なこの地の環境が
必要だったのだろうか



ところで大塚国際美術館の環境展示のひとつとして、
このカッパドキアの「聖テオドール聖堂」が再現されている。


   

扉や窓も現地と似せてちゃんと作っている。
聖堂に入ると、現地と同じようなデコボコした地面も味わえる。
大塚美術館の環境展示の中で、ここが一番現地の空気に近いものを
感じると私はひそかに思っている


         

いくつかある環境展示のなかでも、
ここは館内から自動扉を出た屋外にあるために、
気づかずに通り過ぎてしまう人もたくさんいる。
そしてそのためか、人気のないことが多い。
でもそれで良い。私が心置きなくビザンティン世界への想いを馳せる
ことができるから


    

(注:最後の写真は現地の写真↑↑

ちなみにこの「聖テオドール聖堂」は、トルコでは「パンジャルルク・キリッセ」
と呼ばれている。なにやら「甜菜大根の聖堂」みたいな意味らしいが、
ものすごいあだ名だな。写真の右側の岩が聖堂だけど、この形が甜菜大根に
似ているということらしいが・・・・。

まぁどっちにしろここの聖堂は観光コースから外れたところにポツンと
あるから、レンタルバイクで行くか絨毯屋のお兄さんを言いくるめるしか
ないかな


◆ 聖マルタン聖堂 ~大塚国際美術館~

2007年06月07日 | 大塚国際美術館


大塚美術館にある環境展示のひとつ、『聖マルタン聖堂』
教会の内部が同じ大きさで再現されているから、とても臨場感がある。

     

フランスのパリから300kmほど南にある小さな村。
ノアン=ヴィック村に建っている聖堂を環境展示として再現している。
フランスロマネスクらしい淡い色使いや、ちょっぴりマンガチックな
人物の描き方がおもしろい。

文字の読めなかった当時の人たちが、聖堂にやってきて神父さんの
お話を聞いてキリストの生涯を確認していたイラストのような壁画。
素朴でかわいくて素敵

     

レオナルドが描いたことで有名な「最後の晩餐」
この壁画が描かれた中世という時代は、レオナルドの頃より考えが厳格で、
「裏切り者は、正しき者と一緒にしてはならない」というお約束事が、
絵の中でも確認できる。
ひとり目立ってテーブルの前にいるのがユダで、誰が見ても分かるように
描かれるのが原則だったそうです

フランスのロマネスク美術もいつか車で旅をしたいな~
でも今ユーロが高すぎて、今後どうなるか心配



◇ 大塚国際美術館が1000円の日

2007年05月22日 | 大塚国際美術館

大塚国際美術館のある徳島県鳴門市は、ベードヴェンの交響曲第9番
いわゆる「第九」日本初演の地として何気に有名です。

鳴門市は6月の第一日曜日を「日本における第九初演の記念日」と
したらしく、毎年「第九」の演奏会があるのです。

大塚国際美術館も何年か前からこの鳴門市のイベント連動させて、
演奏会翌日の月曜日(通常月曜休)が特別開館の日になっています。

なんとこの日は毎年入館料が1000円

ベートヴェンがドイツ人だから、大塚美術館もドイツに関連した
特別ギャラリートークや、ワインセミナーを開催してますよ。

今年の特別開館「西洋美術とふれあう一日」は、

2007年6月4日(月) 9:30~17:00

普段は3000円だから毎年この日を狙うとお得です


◆ カフェ ジベルニー ~大塚美術館~

2007年05月15日 | 大塚国際美術館


大塚美術館は広い

絵画を鑑賞するということは、とっても疲れる。
休憩をいれて、充実感に浸りながらお茶をしたいところだ。
美術館のB2に『カフェ・ジベルニー』がある。
ジベルニーというのは印象派の巨匠モネが愛し、有名な庭を
作ったところ。
美術館の環境展示『モネの大睡蓮』がガラス越しに見えるから、
『ジベルニー』にしたのかな。



多くの人がお茶を楽しんでいる。
いつの間にか、コーヒーはポットサービスになっていた。
最近ではパスタなどの軽食が食べられるようになった。



そして・・・天気のよい日はやっぱりカフェの外に出てビール
ジベルニーでは缶ビールが買える☆
缶ビールなだけにお値段も手ごろで、ついつい2,3本飲んでしまう。
美術館で飲むアルコールは最高です


◆ システィーナ礼拝堂 ~大塚国際美術館~

2007年05月12日 | 大塚国際美術館

 2007年4月に、美術館の10周年記念として、
これまで一部の再現だったシスティーナ礼拝堂の天井画が
完全復元されました。

 今までなかったベンチもたくさん置かれ、今までより
ゆったりと空間を楽しむことができるようになった。

 大塚美術館のシスティーナ礼拝堂には、
昔々、システィーナ礼拝堂にて門外不出とされていた
ミサ曲を少年モーツァルトが一度聞いただけで、
楽譜に全部書いてしまったという有名なミサ曲、
グレゴリオ・アッレグリの「ミゼレーレ」が秘かに心地よく
聞こえてきて、癒される。

 実は大塚美術館のシスティーナは、現地(ヴァチカン)の
システィーナ礼拝堂より天井が4~5mくらい低いらしい。
同じ空間を再現するという点において、いいのか悪いのか微妙
だが、天井が近いため「天井におおわれてる~」という感じが
するのだ。
私は現地のシスティーナ礼拝堂より、余計な圧迫感がなくて
落ち着ける

ひとつ上のフロアから、システィーナ礼拝堂を眺めることの
できる、絶好の写真スポットもある。

◆ スクロヴェーニ礼拝堂 ~環境展示~

2007年05月11日 | 大塚国際美術館

大塚国際美術館の『スクロヴェーニ礼拝堂』
私の愛する場所のひとつ。
仕事が今よりも余裕のあったときには、
よくここで本を読んだり、ぼ~っとしたりしていました。

特に夕方3時半以降は、来館者のほとんどがどんどん上の階の
展示を鑑賞している時間帯なので、人の気配がない。
ひとつの大きな、神聖な空間を独り占め

日本では知名度がまだまだイマイチな
「ルネサンスの父」ジョットの手により、描き出される聖書の
世界は圧巻で、画家という職業が「職人」としての立場から、
「芸術家(アーティスト)」へと変化する原点を、
ここで確かに確認することができる。

現地(イタリアのパドヴァ)では、予約をして中には入れても、
15分しか鑑賞することができないところなので、
大塚国際美術館に環境展示としてのスクロヴェーニ礼拝堂は、
昼寝も読書もできてありがたい