イタリアにルネサンスが花開いていた頃、フランドル(ベルギー西部からフランス北端)地方は、
貿易業などで栄え、イタリアとはまた違った美の世界が展開していました。
(ヒューホ・ファン・デル・フース 「羊飼いの礼拝」 ウフィッツィ美術館)(大塚美術館ルネサンス5 複製)
このポルティナーリ祭壇画(羊飼いの礼拝)は、メディチ銀行ブリュージュ支店の
支配人トンマーゾ・ポルティナーリが、当時フランドルで活躍していたフースに注文しました。
ヒューホ・ファン・デル・フースはとても名声もあって、一時はヘントの画家組合長になるなどの
活躍ぶりだったのに、「ファン・エイクを超えられない・・・・」という苦しみから、
この祭壇画を制作した直後(1475年頃)、修道院に入ってしまいます。
その後もボチボチ制作はしていたけれど、1481年に精神錯乱で自殺未遂をします。
ところで祭壇画の注文主のトンマーゾさんは、この作品を船に乗せて1483年に
フィレンツェに帰ります。そしてサンタ・マリア・ヌオーヴォ病院内にあるサン・テリージオ聖堂の自分専用の
礼拝堂に飾ったところ、これがまたタチマチ大評判になったのです。
フィレンツェの画家たちに衝撃を与えた理由はいくつかあるけれど、
そのひとつがキリスト降誕のお祝いに駆けつける羊飼いたちの姿です。
理想化をしない庶民の姿。
フースによって描かれた羊飼いたちは、救世主の誕生を純粋に喜び、
好奇心に満ちた興味津々の表情でのぞきこみ、驚いています。
天使たちのポーカーフェイス??とは全然違います。
この表情の差によって位を描き分けているそうです。
この羊飼いたちの絵に強く影響されたのが、初期ルネサンスの画家ギルランダイオと、
レオナルド・ダ・ヴィンチです。
(ギルランダイオ 『老人と孫』 ルーヴル美術館)
(大塚美術館 ルネサンス12 複製)
この作品はフィレンツェ初期ルネサンスの肖像画の中では、特別な一枚です。
加齢を理想化することなく、写実主義の名の下にいかなる部分も
詳細に描かれています。
ギルランダイオが北方の絵画のリアリズムにいい影響を受けることで、
それまでのフィレンツェの絵の最大の特徴であった『無表情』が、次第に変化
していくようになります。
レオナルド・ダ・ヴィンチも、ポルティナーリ祭壇画の羊飼いの表情に
影響を受け、「人相学」を研究したと言われています。
この『老人と孫』は、とても温かい絵です。
おじいさんと孫の信頼関係まで感じ取れるような気がします。