<中国ブログ>中国サイコウ 元/上海駐在日本人が綴る日中経済の状況など

中国駐在時代の経験・知識をもとに、
最高(サイコウ)の日中関係の再構築を目指し、
日本と中国を再考(サイコウ)する

人民元の海外直接投資を解禁

2011-02-12 | 中国経済
2011年1月13日、中国人民銀行が認可制ながら、域内企業が人民元で域外に直接投資することを認める文書を通達した。

今回の通達によって、域外直接投資主管部門の許可を得た域内機関・銀行は、人民元決済銀行口座を通じ、域外に直接投資する人民元資金の決済が可能となった。
また、域内機関が域外直接投資で得た利益を、人民元建てで域内に還流させることも認めた。このほか、銀行は域内機関が域外で投資する企業もしくはプロジェクトに対し、人民元建てで融資することもできるようになった。

中国政府は最近、「走出去」という言葉を使って、海外投資の推進を行ってきた。
日本でも、蘇寧電器によるラオックスの買収、山東如意科技集団有限公司によるレナウンへの経営参加などが見受けられる。
中国域内企業も本格的に力をつけている上、国有企業は政府の支援の下で豊富な資金力を誇っている。こうした人民元決済制度が軌道に乗れば、官民一体となった取り組みが進み、中国による世界中の資産買い占めが進む可能性がある。

中国政府は、これまでも人民元の国際化に向けた取り組みを慎重に進めてきた。
人民元建ての貿易決済の開放もそのひとつで、最初は上海など一部の先進都市のみで実施し、課題を整理しながら都市数を拡大、そして適用可能な対象地域をASEAN地域にまで拡大することで、人民元建ての貿易決済は急拡大している。日本政府とは比べものにならないほど用意周到である。
中国人民銀行(中央銀行)によると、2010年の決済額は5063億元(約6兆3千億円)に達し、09年(36億元)の約140倍にまで膨らんだ。
いまのところ、人民元決済が全体に占める割合は2.6%に過ぎないものの、自国通貨を決済に用いるほうが基本的に有利なことから、その趨勢は当面続くことが予想される。

ご承知のとおり、人民元は管理通貨であって、国際市場で自由に売買できる通貨ではない。基本的にはドルに連動しているが、ドルの基軸通貨としての地位が揺らぐ中、中国政府は新たな道を探る必要に迫られている。そんな中、中国政府が人民元の国際化に向けて本気で動き出したと考えるのが自然である。
また本来、通貨はその国の経済力を映す鏡のようなものと言える。中国経済がGDPで第二位になるほど影響力を持った現在、米国などが人民元の開放を要求するのは当然の流れであるが、中国自身も本当の意味での経済大国を目指して通貨の強化を図ろうとしていると考えるべきである。

その一方で、この動きを違った角度からみてみたい。
最近、中国人が日本の不動産や森林を買い漁っているという報道がなされている。いや、この動きは日本に対してだけではなく、世界中で起こっている。また、訪日観光客が東京銀座で高級ブランド品を大量に購入しているといった類の話も枚挙に暇がない。
こうした動きは、人民元を管理する立場である中国政府にとってどうだろうか?おそらく、あまり心地よいものではないだろう。これを非常に厳格に捉えれば、人民元の国外持出しとも考えられるからである。実際、中国人が出所の判断しにくい現金で高級マンションを購入したという話も多く聞かれる。

こうした動きに対しても、人民元による海外直接投資の解禁は一定の意味を持つと筆者は考える。例えば、ある中国企業や中国人が海外の資産を大量に購入した際、認可を受けていなければ、場合によっては処罰の対象にさえなり得るからである。
つまり、中国政府にとって好ましい海外優良企業の買収などは積極的に推し進め、好ましくない人民元の海外資産への拡散は阻止するという二つの効果が期待できるのである。

上記はあくまで筆者の推論であり、本当の答えは定かではないが、はっきり言えることは人民元が着実に国際通貨への道を踏み出したということである。
近い将来、日本の資産が人民元で買い占められるという時代が来るかも知れない。。。