ドルカスは信州人で、最近は信州で泊まることが増えた。
日が落ちるとすぐに、夏でも「ゾクッ」とする涼気が襲って来る。深夜になるとぬくもりが恋しくなるほど、しんしんと冷える。
朝早く起きて外に出てみると、草は朝露でしとどに濡れている。短靴では舗装道しか歩けない。それがとても懐かしかった。広島の田舎でも、まったく同じだったからだ。
子どもの時分、朝露で靴を濡らして露に悪態をついていると、母がたしなめてくれた。
「雨が降らんでも草が枯れない訳、わかるか?」
「わからん。」
「この朝露をしっかり取り込んで、それで雨が降らんでも生きてるんよぉ。」
「へぇ。」
ところが東京には露がない。5年暮らしても、ついぞない。熱帯夜が続く暑さになると、人間が飲用の水道をかけてやっている。仕方がないのだが、何だかもったいない。ひんやりした夜と露が懐かしい。
まだ梅雨だが、露なつかしく、つい書いてしまった。特に熱帯夜が来ると思うと。