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街の散歩…ひとりあるき

26-27 悉逹太子 雪山に苦行して魔軍を降す『釋迦尊御一代記圖會』巻之3

2024年10月10日 | 宗教

再説(さてまた)悉逹太子は嶮岨絶壁を経て、雪山の法臺に歩み着き給う所に、一人異
人、樹下に端坐し、妙舎利仙、我、伱を待つこと久しと呼ばわりぬ。太子、此の人を見給えば、
髪、髭悉く黄色にて、両眼の光明星の如く、顔色薄紅が木の葉を藤の
糸にて編み綴りたる衣を穿ち、手に一條の如意をとれり。太子、思い給いらく。是、
必ず鞞羅梵志仙(びらぶんしせん)なるべしとて袖かき合わせて礼拝し給い、仙意のごとく矛子(ていし)は
妙舎利にて候。願わくは神仙無上正覚の教えを示した給えと曰う。仙翁が曰く、善哉、妙
舎利、われこそ鞞羅梵志なり、抑(そもそも)、此の峯は諸天守護の霊地にて東は九識本
覺臺、西は法性妙覺臺、南は妙織等覺臺以上を雪山の三臺と謂り。不惜
身命の難行たやすからず。常参日中放散とて一日に三つの行あり。遮那金剛
部三昧、般若蓮華部三昧、寂静佛部三昧とて三業九品(くほん)の勤行一日も懈怠(けだい)
することを免(ゆる)さず。臺(うてな)より臺まで十里の行程なれば合わせて三十里。偖、此の室
を号(なづけ)て北真禅定臺といえり。朝に出でて夕べに此の室まで回り、夜は石上に結
跏趺坐し、定心、浄心、寂然心、妙真心、真無心、此の五定心を練って諸天に皈(き)命せよ。
今日より妙舎利を改めて雪山闍利(せつせんしゃり)と呼ぶべきなり。一点も怠慢の心を生ずる

事なかれと教諭し、飄然として虚空を歩み去りにけり。太子、其の後を礼拝し給い、是
より日々に三業九品の勤行をなし三臺を行い廻り給う。其の道路悉く雪降り積み
寒風の厲(はげ)しき事、天地を覆す許りにて、一日も白日を見ることなく、氷凍て劍よ
りも鋭き岩角を踏み分け、行き廻り給うこと日々に四十里。夜は北臺に回りて
坐禅の牀(ゆか)に睡りを凌(しの)ぎ、終夜(よもすがら)諸天に皈(き)命し給う。素より火を焚きざれば一滴の
湯を求め給う便りもなく、増して一粒の食もあらずと雖も、諸天諸佛の守護に依って
室に回り給えば温かなる香風吹きたって、御身を温め食を断ち給えども気満ちて餓に臨み
給わず、一心不乱に行いすましてぞおわします。兹に三十三天の中第六天に魔王在り
けるが、遙かに下界を直下し悉逹太子の雪山に在って昼夜を捨てす苦行し
給うを見て大いに愕き、彼、斯くのごとく信力堅固なれば、久しからずして正覚を得
べし。然らば必ず法輪を転じ一切衆生を利益して、仏法世に熾(さかん)に行われ、我
眷属(けんぞく)、彼が為に困(くるしめ)られ遂に魔道壊乱せんとて憂い悶えて楽しまず。此の魔王に三人の
女(むすめ)有、長女を欲妃といい、中女を悦妃といい、少女を快観といえり。三女父魔王
の憂愁の色を見て其の故を問う。魔王其の本末(もとすえ)を説き聞かせんれば、三女斉しく
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