発見記録

フランスの歴史と文学

オペレッタの仏陀(2)

2006-06-17 17:24:38 | インポート

Bouda01_1 今度はGallicaのより格段にきれいなLisieux電子図書館のBouddha par Jules Claretie から挿絵を借りる(サムネイル表示)

部屋の装飾まで日本風にしないと気がすまないアントニア。
エドモンは「ジャポネズリー」を買い漁る。Rue des Martyrsの骨董屋で見つけた大きな金の仏像が届くと、アントニアは手を叩いて喜び、エドモンに飛びついて礼を言う。

Ah ! le bon Bouddha, le doux Bouddha, comme disait la chanson !... Il trônait au milieu du salon, sur la cheminée, comme dans une pagode. On avait drapé son socle, encadré la glace, et Bouddha rayonnait là, rouge et or, comme un soleil d’automne. Je le saluais avec amitié. J’en étais arrivé à le considérer comme un hôte du logis, un habitué, un vieux parent. Antonia lui donnait de petites tapes câlines sur ses joues cuivrées. Bouddha veillait sur nous, toujours digne.

ああ、善き仏陀!唄の歌詞のとおり「やさしい仏陀」!サロンの真中、暖炉の上、ちょうど寺院(パゴダ)の中に納まったように鎮座していた。台座には布を掛け、鏡には額縁を、そうして仏陀は赤と金色、秋の陽のように輝いていた!私は仏陀に、友達のように挨拶をした。家の客人、おなじみ、年配の親族として見るようになっていた。アントニアは仏陀の赤銅の頬を軽く、愛撫するように叩くのだった。仏陀はいつも堂々として、私たちを見守ってくれていた。

ある晩のこと、オペレッタの相手役、色男ラフェルトリーユLafertrilleと大喧嘩、帰宅しても不機嫌なアントニア。茶化そうとするエドモン、ますます怒ったアントニアは仏像に八つ当たり、びんたを食らわす。? Tiens, ton Bouddha ! tiens, ton Bouddha ! tiens ! tiens ! tiens ! ?(あんたの仏陀!こうしてやる!どーだ!どーだ!どーだ!) 暖炉から落ちた仏像は、首が取れてしまう。
「ギロチンにかけられた」仏陀を前に、呆然とするアントニア。怒りは後悔に変わる。

Et sur le nez épaté du Bouddha décapité elle posait ses bonnes lèvres fraîches et baisait l’idole avec une passion éperdue. Les femmes n’adorent peut-être, mon pauvre ami, que ce qu’elles ont cassé.

そして斬首された仏陀の獅子っ鼻に、みずみずしい唇をあて、彼女は偶像に熱いキスをした。たぶん女性は、自分が壊したものしか熱愛しないんだね。

『エロディアス』を含むフローベールの『三つの物語』発表が1877年、ワイルド『サロメ』フランス語で出版(1893年)―「美しき首斬り女たち」(工藤康子氏、『サロメ誕生』新書館)は世紀末の夢を育んだ。
ファム・ファタルの主題そのものは珍しくもない。作家の個性は神秘性や官能性、それらの要素の匙加減に発揮される。軽く料理すれば、写原さんが訳されたアルフォンス・アレ『美しい娘と年老いた豚』http://www.geocities.jp/ecrifranoubli/Allais/vcochon.htmlになる。「世紀末の神秘とおかしみ」論が必要なのかもしれない。


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2 コメント

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>斬首された仏陀の獅子っ鼻に、みずみずしい唇... (写原祐二)
2006-06-18 18:49:21
>斬首された仏陀の獅子っ鼻に、みずみずしい唇をあて、彼女は偶像に熱いキスをした
というまさに「サロメ」と見紛うばかりの行為に思わず驚きました。オスカー・ワイルドの「サロメ」よりも5年も前にこれが出ていたのですね。
だいぶ前に「知の再発見」双書でも出ている「日本の開国―エミール・ギメ:あるフランス人の見た明治」Quand le Japon s'ouvrit au monde (Découvertes Gallimard) を読んで、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れる明治の日本の姿、そしてそれまで大事にしてきた仏像が安値で処分されて外国人コレクターに買われて行った時代の空気に触れて、異様な(そして新鮮な)感覚に囚われたことを思い出しました。
http://images-jp.amazon.com/images/P/4422211145.09.LZZZZZZZ.jpg

この「仏陀」という中篇小説は面白そうなので早速ファイルにダウンロードしておきました。うまく読める時間があればいいのですが・・・
そうか!廃仏毀釈が仏像流出につながるんですね。... (松本)
2006-06-18 21:42:20
そうか!廃仏毀釈が仏像流出につながるんですね。横浜・リヨンの結びつきなども後からあわてて書き足しました。泥縄式ブログ。

コペ『仏陀のツバメ』のような哲学コントを期待したらちょっと違うので、途中でやめたのです。先日コメントでクラルティのことを伺い、ちゃんと読む気になりました。
戦争の描き方など論評するには勉強が要りそうだし、書けることだけ書いておこうと思います。