バネの風

千葉県野田市の「学習教室BANETバネ」の授業内容や、川上犬、ギャラリー輝の事、おもしろい日常を綴ります。

大晦日に蝶が舞う

2024-01-08 10:55:22 | ギャラリー輝



不思議で幻想的な光景に出くわした。
それは大晦日の晩、皆が揃って乾杯しようという時に、突然部屋の中をモンシロチョウが舞ったのだ。
皆が歓声を上げる中、並べる料理の上を、そして部屋にいる7人の頭上をひらひらと舞い続けた。

「チョウは亡くなった人の使いだ」と何人かが言った。
スピリチュアル得意な私なのに、それは初耳だった。何よりスピに無頓着の夫までが言うから驚いた。

上田市立美術館と梅野記念絵画館にて、上田クロニクル展が開催される。その展覧会に父の若き頃の絵が4点展示される。
学芸員の方と連絡取り合ううちに、企画展の作り方、作品解釈の仕方など展示の神髄に触れることができた。それを参考に池田輝作品の再考査をした。
その結果、画業50年を3期に分け、今回上田市立美術館と梅野絵画記念館の展示と期間を合わせ、ギャラリー輝で「輝クロニクル第一期展」を開くことにした。

大晦日に一族が集合した。
年末年始を過ごしにやって来た遠方に嫁いだ娘の夫や私の夫ら、男手3人で夕刻から大作掛け替えが始まった。
小品は既に展示し終えていたが、大作は男手が最低3人必要だ。
大晦日で一族集合するこの機会に展示替えすることにしていた。
私はと言えば、前日から準備していた大晦日の料理が一段落したので、男達が力仕事をしているそのすきに企画展のパンフレット文面を打ち込んだ。

パンフレットには父の制作秘話、それも若いときの話を中心にまとめたものを載せたい。
一月ほど前から91歳になる母から少しずつ話を引き出し、そこに兄の記憶を加えることで、私の思い出話だけで作るものとは比べものにならないくらいリアリティあるストーりが作れたのだった。
この文章を添えて作品を観ると、絵を描いている父の姿が浮かんでくるようだ。
母から聞き出した話は父の暴露話が多く、これは今回の作品解釈に必要な内容だか本当に文章にして良いのか、また間違いはないのかと印刷する前に母に確認しておくことにした。

居間でこたつにあたる母に私が読んだ文章を聞いてもらう。
じっと目をつぶり、一字一句耳で校正している。
全て聞き終えると、「おまえ、文うまいね。よくこれだけまとめたね」
この話が公開されることに多少異議を唱えるかと思いきや、全く問題は無いという。それどころか、「いかに私は当時たいへんだったか」と思い出話の追加が始まった。これらが載せられて恥ずかしい思いをするのは父だけなのかも知れない。
こんなやりとりを終え、母からひとしきり褒められ、パンフレットがあらかたできたことに充実感を味わい、こたつに料理を並べ始め、展示大仕事が終わった夫達が居間に集合したその時だった。

白いチョウが舞った。

「テルさんが喜んでいるよ」と夫。

やりたい放題だった若き頃の話を公開することを父が認めたのか。
倉庫にしまいっぱなしの力作を展示したことを喜んでいるのか。
それとも、力仕事を終えた夫達をねぎらったのか。
なんだか幸せな気分に包まれた大晦日だった。