●〔3〕立川志らく『らくご小僧』新潮社 2004 (2006.01.18読了)
市民図書館で借りました。自伝的作品で、落語家になるまでの物語でした。落語家になってからの話を期待していたので少しガッカリですが、スイスイと面白く読めました。落語、映画、文章と、立川志らくは才気あふれるマルチ人間(死語)ですね。
立川志らくは、はじめは金原亭馬生に入門しようとするのですが、馬生が死んでしまいます。その葬儀に参列した後、ふらりと池袋演芸場に立ち寄ります。
談志が高座に登場したのは八時半頃でした。(中略)
その夜はいつまでたっても古典落語に入りません。マクラだけ。それもお客の期待している毒舌漫談ではなく、ただただ馬生の思い出話を語っていたのです。客席から、笑いはほとんど起きません。
-馬生師匠はいい芸人だった。
-十八番のない人だったね。
-頭のいい人だった。
談志は、このようなことを淡々と喋っていたのです。
痺れをきらした客の一人が野次を飛ばしました。
「談志、落語やれ!」
談志はうつむき、暫くするとなんとも悲しそうな表情を浮かべて、
「今夜は落語をやりたくないんだよ。勘弁してくれ」
とお客に詫びたのです。
私は落雷に打たれたような衝撃を受けました。
なんて優しい人なんだろう! この人は真の芸術家!(中略)
私は、この人についていこうと決心していました。(pp.216~217)