金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【UBSとクレディスイスに調査入り】 米国司法当局 対ロシア制裁違反容疑で‼

2023-03-29 04:37:34 | 金融マーケット

 株式マーケットがいったん落ち着いて、ホッとしていたら、また変なニュースが報じられてしまいました。

 富裕層相手のビジネスでは世界で1位2位を争うUBSとクレディスイスに、米国司法当局が「対ロシア制裁違反容疑」で調査に入ったとのこと。

 

 少し前まで、世界中にいらっしゃる『超スーパーな富裕層』と言えば、アラブ諸国の王族の皆さんや、ロシアのエネルギー関係の新興財閥オーナー、あるいは中国共産党の幹部といったところが代表例でありました。ちなみに、昔からの伝統的な欧州の大地主の金持ちは、危ない投資には手を出さず、したがって急激に財産を伸ばすような方々ではなく、先代から引き継いだ膨大な資産を大切に守り続けていらっしゃいます。また、歴史的な知見を代々引き継いでいるので、相続税対策なども万全な方々が多い

 それに対して、急に大富豪になってしまったロシアのエネルギー成金の方々は、取り合えず、米国の金融機関と、永世中立国のスイスの銀行に資産を預けていて、万が一、ロシア内で粛清させそうになったら、米国宛て亡命とか、スイスの山奥の別荘に逃げるとかを企てるしかないという方々。当然ながら、アメリカによる対ロシア制裁などが発せられると、もう逃げようがない。アメリカに作っておいた資産口座は財産と一緒に凍結されてしまうし、やむなく、スイスの銀行に対しては、『泣きついて』『泣きついて』、何とか少しだけでも、財産を使用できるように内緒の「裏資金ルート」を構築していたのかもしれません。

 

 もともと、スイスの銀行は、あのゴルゴ13も顧客として口座を開いているように、かつては「顧客情報は絶対秘密」であり、例えスイス政府であっても、アメリカ政府であっても、そこだけは絶対に譲らないという存在でありました。当然ながら、世界中の訳アリの金持ちの皆さんはスイスの銀行の顧客になりましたし、米国のマフィアや、各地のテロリストのような存在にとっても、有難い金融機関だったのです。

 しかし、テロリストやギャング組織などの反社会的勢力によるマネーロンダリング防止のため、FATFという国際組織が出来てからは、スイスの銀行と言えども、そうはいかなくなりました。このFATFのルールを守らない銀行は、SWIFTのような国際的な銀行ネットワークから除外されてしまうため、世界で銀行業務を続けていくためには、FATFに従わざるを得なくなりました

 

 ところが、今回は、クレディスイスだけでなく、これを買収して救済したUBSまでも、米国司法当局は「対ロシア制裁」に違反する行為があったのでは?と疑惑の目を向けているのです。調査の結果で、もし両行ともに「クロ」の判定が出てしまった時は、また金融市場は大きな混乱に包まれることになると思います。

 まぁ確かに、200年以上も前から、スイスの銀行は、世界中の超富裕層の我が儘に手際よく対応してきた実績があるだけに、ロシアの成金から裏で『泣きついて』頼まれたら、「NO!」とは言わない替わりに、彼らの全資産の丸抱えを条件に協力したのかもしれません。

 

 というのは、スイスの銀行が、なぜ世界の超富裕層から200年以上も信頼されてきたかというと、前述の「秘匿主義」に加えて、「金持ちの我が儘に即時に対応できる独自のノウハウ」があったから。例えば、週末に急に現金が必要になる事情が発生した(=例えばギャンブルで大負けするとか、急なオークションで欲しい美術品が出てきた等)場合、即時に、2億円とか3億円のキャッシュを用意できるか?

 普通の金融機関では無理。例え相手がお得意様の超富裕層であっても、3億円の融資を稟議無しに実行できる銀行は日本には存在しません。しかも、休日において、2億~3億円の現ナマを即座に揃える準備も出来ません。でも、UBSとかクレディスイスは、これを実現してしまうのです。

 これだけ、世界の我が儘な超富裕層を手の上で転がしてきたスイスの銀行ですから、アメリカが主導するFATFに対して、ウラでは「舌を出して反抗していた」可能性はあります。あるいは、リーマンショック以降の負の資産を解消できないまま、窮地に陥っていたが故に「暗黒サイドに落ちていた」のかもしれません

 いずれにしても、もし『疑惑』が事実だった場合、これらの銀行が支払う罰金額は膨大な規模となり、スイス政府の支援なしで生き残る可能性は小さい、となります。また、これだけ大きな銀行を救済できる民間金融機関は当面の間、出てこないと思いますので、スイス政府支援の基盤となる、スイス国民の民意が持たなくなった時は、金融マーケットは未曽有の混乱に陥ることになります。

 

 また新たな火種が出てきてしまったと思います。

 


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