金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【株価と物価】 日米の株価水準に大きく差が開いた30年 その原因の半分が物価⁉

2023-01-18 05:02:34 | 金融マーケット

 自分は、若い頃に米国株のファンドマネージャーをやっていたので、特に1987年10月19日のブラックマンデー当時のことをよく覚えております。この日のNYダウは500ドル以上の下落幅になりましたが、NYダウそのものの水準は2000ドルを挟んだ急落でありました。このあとの一週間は、急騰と急落を繰り返していたので、大体の水準と言う意味では、米国株は2000ドル近辺でした。ちなみに、同じ日の日経平均株価は、3800円近くの急落後で22000円程度の水準でした。

 あれから35年経過した現在現在のNYダウは34000ドル近辺なので、あの時から16倍になっています。一方の日経平均株価は25000円前後ですから、20%の上昇も出来ておらず、ほぼ同水準のまま。失われた30年と言われますが、この日米の株価水準に大きな差が出来た理由は「経済成長率の差」と言えます。

 ただ、ここからが本日のテーマなのですが、この「経済成長率の差」とは、物価上昇分も含めた「名目成長率の差」であります。当たり前のことですが、株価も名目ベースの指標でありますから、物価上昇率の差はすなわち、そのまま株価の差にも加わってくるということ。

 

 35年前の話に戻りますが、当時の帝国ホテルの宿泊料は2万円を少し超えるくらい。同じくNYのウォルドルフ・アストリアホテルの宿泊料は250ドルから300ドルで、両者に大きな差はありませんでした。しかし、今の料金を比べてみると、帝国ホテルの宿泊料は少し上がりましたが、2万5千円程度。一方のウォルドルフ・アストリアホテルは、900~1000ドルが当たり前となっており、為替レート130円で換算しても帝国ホテルの5倍から6倍となっています。

 今度は「一蘭」のラーメンで比較してみましょう。現在、東京で一蘭のラーメンの値段は980円。少し前は700円台でしたが、大きく値上げをしました。しかし、全く同じラーメンをNYで食べると、チップを入れて35ドル程。130円で換算すると4500円近くになります。一蘭ラーメンで比較すると、物価は4倍から5倍ということ。

 あくまでザックリとした試算ではありますが、この35年間で開いた株価水準の差のうち、半分あるいは1/3程度は物価上昇率の差と言うことが出来ます。日本企業は、デフレ経済の中で、値段を上げるのではなく、企業努力でコストを下げることで対応してきました。そう言うと、なんだか綺麗ごとに聞こえますが、実態はそれだけではありません。コスト下げにおいては、下請け業者を泣かせたり、労働者の賃金を切り下げたりして、値段を上げることを避けてきました。値段を上げることを避けたのは、消費者からの反発が怖くて、売上が伸びなくなるのを恐れていたから、であります。

 その結果、日本人労働者の給与水準は30年間、ほとんど据え置かれたままでしたし、下請けの中小企業の利益水準も、縮むことはあっても、拡大するケースは殆どありませんでした。いつしか、適正利潤を得るということが『悪いこと』のように思われてきました。

 

 北米やロンドンでは全く逆のことが行われていました。世論の反発はもちろんありましたが、物価を上げることで企業・生産者が適正利潤を得ることは悪いことではなく、その代わり、労働者への賃金アップも同時に行われてきたのです。毎年毎年の積み重ねが35年分溜まった結果が、上記の物価水準の違いでありますし、かつ株価水準の違いとなっています。

 もう手をこまねいている時ではありません。適正利潤を得るための物価上昇を「是」として、その代わり、それを補う賃金上昇をちゃんと実現し続けること。このサイクルを守っていくしかないと思います。

 

 政府が補助金を使って、無理やり石化エネルギー価格を抑制している国なんて、世界中どこを見ても見当たりません世論の支持率を下げないために、ますます財政を悪化させて、しかも株価にマイナスな施策を続けているのが、わが国 日本であります。


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