年金ふわふわ

年金についての執筆やセミナー講師を生業とするFP・社労士が
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9月は標準報酬月額の変更月

2014年08月29日 | 新聞連載記事
9月は、社会保険の保険料や給付の基になる「標準報酬月額」が変わる月です。

会社員が加入する健康保険と厚生年金の保険料は、月給と賞与に一定率を掛けた額です。これを会社と本人が半分ずつ負担し、本人の給与からは保険料の半額が天引きされます。

たとえば、健康保険の加入者が病気で会社を休み、給与が支払われないとき支給される傷病手当金は、月給の日額の3分の2相当額です。また、老齢厚生年金の報酬比例部分は、加入中の月給と賞与の平均額に基づいて計算されます。

この月給は、月々の月給額がそのまま使われるのではありません。月給を、数千円から数万円刻みで区切られた標準報酬月額に変換し、その額に基づいて保険料や給付額が計算されます。

標準報酬月額は毎年4月、5月、6月の3カ月間に支払われた月給の平均額に基づいて年1回決め直され、9月から翌年8月までの1年間使用されます。その間、残業が多くて普段より月給が多い月があっても、また欠勤して月給が少ない月があっても、標準報酬月額は変わりません。

9月は新たに決め直された標準報酬月額が使われ始める月です。9月分の保険料は10月に支払われる月給から天引きされます。なお、月給が従前と変わらなければ、標準報酬月額も従前と同額ということもあります。

9月からの標準報酬月額は、会社を通じて本人に伝えられることになっています。ねんきん定期便にも、直近の標準報酬月額が記載されています。折に触れチェックしたいものです。

高齢者世帯の所得と年金

2014年08月22日 | 新聞連載記事
平成25年の「国民生活基礎調査」の結果が、先月公表されました。各階層約30万世帯、74万人を対象にした調査です。あくまでも平均値ですが、調査結果の中から高齢者世帯の所得や年金との関わりを見てみましょう。

調査では高齢者世帯を、おおむね65歳以上の者のみで構成される世帯としています。老齢年金を受給する世帯に当たります。高齢者世帯の平均所得金額は309万1000円。その総所得のうち、68.6%が公的年金や恩給、18%が給与や事業所得など、働いて得た所得となっています。平均値で見ると、総所得のほぼ7割を年金が占めているわけです。

また、高齢者世帯のうち年金を受給している世帯の中で、所得の全てが年金という世帯は57.8%、所得の8割以上が年金という世帯を含めると、全体の約70%となります。

一方、貯蓄の状況をみると、児童のいる世帯、母子世帯といった調査対象の全世帯平均が1047万円であるのに対し、高齢者世帯は1268万1000円です。一見余裕があるように思えますが、高齢者世帯の5割近くは貯蓄が減少しており、貯蓄を取り崩して生活費に充てていることがうかがえます。

さらに、生活意識の状況は、高齢者世帯の54.3%が、生活が苦しいと答えています。全世帯で見てもここ10年、生活が苦しいという世帯がじわじわ増えています。

調査結果のとおり、高齢者世帯は所得のほとんどを年金に頼らざるを得ませんが、今後、年金は給付水準が引き下げられます。個人としても、それを踏まえた備えが必要です。

障害年金と初診日

2014年08月15日 | 新聞連載記事
大阪地裁は先月末、ある女性が、初診日が確認できないことを理由にして、国が障害年金を支給しないのは不当だと訴えた訴訟の判決で、女性の請求を認め、国に支給を命じました。

障害年金においては、初診日が重要な意味を持っています。初診日に国民年金の加入者であれば障害基礎年金の対象とされ、厚生年金の加入者であれば障害厚生年金の対象とされます。(初診日要件)

障害基礎年金は、障害認定日における障害の程度が1級か2級の場合に支給され、障害厚生年金は1級または2級あるいは3級の場合に支給されます。障害認定日は、原則として初診日から1年6カ月経った日です。(障害等級要件)

さらに、初診日前の国民年金加入期間のうちの3分の2以上が、保険料納付期間または免除期間であること。それを満たせない場合は、直近の1年間に未納期間がないことという条件もあります。(保険料納付要件)

いずれの条件も初診日が基準です。初診日が確定しなければ「初診日要件」が判断できず、障害認定日における「等級」が判断できず、「保険料納付要件」の対象期間が定まりません。

初診日は、障害年金を請求する側が証明することとされています。障害年金請求の際に提出する診断書には、医師に初診日を記入してもらい、転院しているときは初診日に診てもらった病院の証明書を添付します。

ところが、初診日から時が経って障害年金を請求する場合、病院のカルテが廃棄されていたり、病院そのものが廃院していたりしていて、初診日が証明できないケースがあります。これにより請求の道が絶たれてしまうことが障害年金の特徴です。

今回の判決は、「客観性の高い資料がない場合、本人の供述や病気の経過などを総合判断し、個別的に認定すべきだ」として、本人の証言などから女性の主張する初診日を認めたものです。今回のケースは、裁判によって救われたケースですが、逆にいえば裁判という方法を取らなければ救われないのが現実です。

年金額スライドのご質問(コメント)に応え

2014年08月08日 | 年金ワンポイント
ikkaiさんのコメント「H12の厚生年金はどうなる(2014-08-06)」に応えて。ちなみに、以下はあくまでも私の考えです。

ikkaiさんのご質問は、次の3つの報酬比例部分の計算式(額)について。

Ⅰ 法改正後の本来の計算式    …いわゆる5%適正化額
Ⅱ 法改正後の従前額保障の計算式…いわゆる従前保障額
Ⅲ 法改正前の従前額保障の計算式…いわゆる特例水準

■質問1 「H27年度においても「Ⅲ式」は存続するのか?」
存続しません。特例水準解消法により、特例水準はH26年度まで適用されることとなりました。よって、H27年度以降「Ⅲ式」はありません。H27年度以降は、「Ⅰ式」と「Ⅱ式」の丈比べです。

一般的に「平27.4に特例水準と本来水準の残る差0.5%が解消される」と説明されますが、それは正確ではありません。H27年度においては、「Ⅲ式」が消えてなくなっているので、結果的に残る差が解消されましたね」というわけです。

なお、H27年度から本格的にマクロ経済スライドが適用されます。マクロはマイナス改定の年は適用されず、またプラス改定であってもマクロを適用した額が前年度額を下回るときは、マクロによる年金額引き上げの調整(抑制)は前年度額までとされます。これを、「名目年金額下限方式」などといます。H27年度におけるマクロの「名目年金額下限方式」の比較対象は、H26年度の「Ⅲ式」による特例水準の額とされます。

■質問2 「H27年度以降、「Ⅱ式」は存続するのか?」
存続します。H27年度以降、報酬比例部分は「Ⅰ式」と「Ⅱ式」の丈比べです。

なお、おおむね昭12.4.2以後生まれの者は、「Ⅰ式」の5%適正化額が「Ⅱ式」の従前保障額を上回っており、原則としてこれが逆転することはないので、これらの者にとって「Ⅱ式」は不要ですが、だからといってこれらの者に「Ⅱ式」が適用されないというわけではありません。比較するまでもないけれども、法律上は丈比べです。

後納申込み100万件超える

2014年08月08日 | 新聞連載記事
国民年金保険料の「後納制度」の申し込みが、100万件を超えました。

自営業者など1号加入者は、1カ月ごとに保険料を納めます。毎月の保険料の納付期限は翌月末ですが、期限を過ぎても2年以内であれば納められます。2年間は滞納状態というわけです。

納付期限から2年過ぎた保険料は、保険料徴収権の時効消滅によって納めることができません。2年経つと、滞納ではなく未納となるわけです。未納期間があるとその分、老齢基礎年金の額が少なくなり、ときには受給資格期間が不足して年金が受給できないことがあります。

後納は、過去10年以内の未納保険料を納めることができる制度です。低年金、無年金対策として2012年10月から始まった、15年9月までの3年間に限った措置です。対象と思われる者、つまり過去10年以内に未納期間がある約2000万人に対して、制度を案内するお知らせが郵送されました。

後納をする場合は、最寄りの年金事務所に申し込みをして保険料納付書をもらい、その納付書を使って銀行やコンビニで保険料を納めます。後納する額は、未納当時の保険料額に利息相当額が上乗せされた額。その年度にもらった納付書は、その年度中しか使えません。

申し込み件数は、制度開始から1年6カ月経った今年3月末に100件を超え、6月末時点で約112万件となりました。ほとんどは年金額を増やすために後納した人と思われますが、後納したことによって受給資格期間に達し、老齢年金が受給できるようになった人も1万7000人ほどいます。

とはいえ、お知らせの送付数からいえば、申し込んだのは5%ほど。これからいえば、実際に後納をした人は多いとはいえません。現在の後納制度は15年9月で終了しますが、引き続いて過去5年以内の未納保険料を納付できる後納制度が始まります。