年金ふわふわ

年金についての執筆やセミナー講師を生業とするFP・社労士が
風の吹くまま気の向くまま 日々の出来事をつづる

自助努力が必須に

2016年03月31日 | 新聞連載記事
たとえば、厚生年金に40年間加入して、その間の平均月給が35万円だった場合の老齢年金は、基礎年金と厚生年金を合わせて月額約16万5,000円です。
また、これが夫だとして、夫が死亡したとき妻に支給される遺族厚生年金は月額約7万5,000円です。いずれもそう多いとはいえません。しかもこれが今後、マクロ経済スライドによって目減りしていきます。

公的年金をはじめとする社会保険は、現役世代の保険料によって、給付の多くを占める高齢者世代を支える仕組みです。少子高齢化によって負担が増え給付が減ることは避けられません。
公的年金の上乗せに当たる自助努力は、以前はより豊かな生活を目指してのものでしたが、今や年金だけでは不足する生活費を補うためのものに変化しています。年金の他に何らかの備えがなければ、生活に窮するのが現実です。

年金制度に対しては多様な意見があります。年金は私たちが安心して生活していくための一つの道具に過ぎません。絶対に守らなければならないものでもなく、また廃止してしまえばよいというものでもありません。それを決めるのは私たちです。決めるためには、年金の本質と仕組みを知らなければなりません。

2005年3月に始まった本コーナー(新聞連載)は、そんな思いで続けてきましたが、本日でいったん終了となります。10年以上に渡るご愛読まことにありがとうございました。またいつかお目にかかれる日を楽しみにしています。

遺族年金は所得補償か?

2016年03月25日 | 新聞連載記事
遺族基礎年金は、国民年金の加入者などが死亡したとき、死亡者の子、またはその子と生計を同じくする死亡者の配偶者に支給されます。子は高校生以下の子どもです。

以前は夫には支給されませんでしたが、2014年4月の制度改正によって、妻が死亡して子と夫が残されたときにも支給されるようになりました。

この改正の際、「国民年金の3号加入者が死亡したときは遺族年金を支給しない」という案が検討されました。これは「遺族年金は家計を支える者が死亡した場合に、残された遺族の所得保障を行うものである」という考え方からです。

たとえば、夫が厚生年金に加入する会社員で妻が収入のない専業主婦だとすると、妻は3号加入者とされます。この妻が死亡しても、妻は収入を得ていたわけではなく、残された遺族の所得が減ったわけでもないから、遺族年金は必要ないという理屈でしょうか。

国民年金法には、「年金制度は憲法の生存権の理念に基づき、老齢、障害、死亡によって国民の生活の安定がそこなわれることを防ぐことを目的とする」とされています。厚生年金保険法も同様です。

専業主婦の妻が死亡して、会社員の夫と幼い子どもが残された場合、その家庭の生活の安定はそこなわれないのでしょうか。年金は所得保障ではなく、生活保障だと思います。案は結局見送られましたが、いまだに年金審議会などにおいて検討課題とされています。

障害年金の特徴

2016年03月17日 | 新聞連載記事
障害年金は、国民年金や厚生年金の加入者が一定の障害を負った場合に支給されますが、老齢年金や遺族年金と違い、請求手続きが支給されるかどうかに影響を与えるという特徴があります。

老齢年金や遺族年金支給のポイントは、請求者あるいは死亡者の過去の加入期間などです。加入記録に誤りがなければ、本人が請求しても、あるいは専門家に請求手続きを依頼しても結果は同じです。

障害年金支給のポイントは、初診日と障害の程度です。初診日に国民年金加入者であれば障害基礎年金が支給され、厚生年金加入者であれば障害厚生年金が支給されます。ただし、障害基礎年金は障害の程度が二級以上、障害厚生年金は三級以上でなければ支給されません。また、いずれも初診日前の保険料納付要件を問われます。

初診日がいつであるのかは、その当時診療を受けていた医師に証明してもらいます。年月が経って証明が取れない場合があります。障害の程度は、医師に記入してもらった年金請求用の診断書に基づいて認定されます。診断書が正しく記入されていないと、支給されるはずの障害年金が支給されません。

厚生労働省や日本年金機構は、請求手続きの改善や認定基準の明確化などに努めていますが、請求手続きが支給に影響するという障害年金の特徴は変わりません。誤りのない手続きをするには、障害年金を専門とする社会保険労務士などに相談するのも一つの方法です。

年金だけでは生活できない?

2016年03月10日 | 新聞連載記事
年金加入者を対象とした厚生労働省の調査によると、老後を過ごすための収入として「年金」を挙げている人が最も多くなっています。身近な親世代の生活ぶりを見て、「老後は年金で生活するもの」と漠然とイメージしてのことでしょうか。

たしかに別の調査によれば、年金受給世帯のうちの約57%が「所得は年金のみ」という世帯です。ただし、これから年金を受給する世代は、年金だけで生活するのは難しいと思います。

公的年金は今から30年前の1986年、少子高齢社会の到来を見据え給付水準が大幅に引き下げられました。具体的には、そのとき59歳の人から1歳ごとに20年間かけて、年金額を計算する際の乗率が徐々に引き下げられたのです。

たとえば、厚生年金に40年間加入し、その間の平均月給が35万円だとすると、乗率引き下げ前の世代、当時60歳で現在90歳に当たる人の老齢年金は、年額約288万円です。これだけあれば、年金だけでもある程度安心して生活できるでしょう。

これが、引き下げ途中の世代、現在80歳の人になると約237万円となり、引き下げ完了世代の現在70歳未満の人は、90歳の人と比べて3割以上低い約198万円となります。この世代の人は年金だけで生活できるでしょうか。

これは、あくまでも一例にすぎません。また、ことさら世代間の不公平を言うものでもありません。年金だけで生活できるだろうと安易に考えるのは禁物ということです。

保険料、来年9月で上限に

2016年03月03日 | 新聞連載記事
厚生年金の保険料率は毎年引き上げられていますが、あと1年半で上限に達します。国民年金の保険料額も同様です。

公的年金は、加入者から集めた保険料によって支給されています。制度を続けるには、収入に当たる保険料総額と支出に当たる年金支給総額がつり合うことが必要です。

少子化によって加入者が減って保険料総額が減り、高齢化によって受給者が増えて支給総額が増えると、つり合いが崩れます。2004年の年金改革では、給付水準を保ったままつり合いをとるには、例えば当時13.58%だった厚生年金保険料率を2倍程度にまで引き上げなければならないと見込まれました。

ただ、加入者や企業が耐えられないほどの負担を強いると制度を危うくすることから、2倍より低い1.35倍ほどの引き上げで上限とされたのです。それが来年9月の18.3%です。

これでは、改革前、現役世代の平均手取り賃金の60%だった給付水準は維持できません。そこで、賃金や物価上昇に応じた年金額の引き上げを抑制することによって給付水準が引き下げられます。これがマクロ経済スライドです。

04年の年金改革では、引き下げ後も50%の給付水準を維持するものとされ、その後の財政検証でも50%は維持できると見込まれました。ただし、上限とされた保険料率で収支のつり合いがとれるかどうかは、実際には今後の経済や少子化の動向にかかっています。