年金ふわふわ

年金についての執筆やセミナー講師を生業とするFP・社労士が
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無収入の者が死亡した場合、遺族給付は不要なのか?

2013年12月26日 | 年金ワンポイント
今回の生計維持要件(政令)の改正に対しては、各方面から懸念が表明されており、当初案から何らかの手直しが行われる雰囲気になってきました。

それはそれで当然のことだと思いますが、懸念する意見のほとんどが、「3号といっても無収入とは限らない。また一時的な3号もいる。だから問題だ」…という論調のように感じます。この根底には、「遺族給付は、家計の収入の多くを担っていた者が死亡したとき、あるいは一部を担っていた者が死亡したときの給付である」という考え方があるのでしょう。

そもそも当初案自体が、「3号=被扶養配偶者。扶養されていた者が死亡したときに遺族給付は必要ない。」という考え方です。

本当にそうでしょうか。収入が全く無い者が死亡したとき、遺族給付は必要ないのでしょうか。完全無収入の者が死亡した場合、家計には何の影響もないのでしょうか。収入が無い者は、家計に全く関与していないのでしょうか。私はそんなことはないと思うのですが。

家族は互いに支えあって生活しています。確かに、ある者が収入を得て、そのお金で生活費をまかなっていますが、収入が無い者が、家族の生活にまったく関与していないとは言えないと思います。

現行法では、無収入の者が死亡した場合であっても、要件を満たせば遺族給付が支給されます。当初案、あるいは懸念意見の考え方が正しいとすると、これが支給されなくなります。私は、それも問題だと思います。

生計維持要件の法律的な位置づけ

2013年12月26日 | 新聞連載記事
来年4月、遺族年金を受給できる遺族の生計維持要件が、「死亡者が国民年金3号加入者であるときは、生計維持に当たらない」と見直されることは、法律的な位置付けからも問題です。

例えば、厚生年金に25年以上加入している共働き夫婦の夫が失業し、一時的に3号になったとします。この夫が今死亡した場合、妻は遺族厚生年金を受給できます。ところが、夫が来年4月1日以降に死亡した場合は、受給できません。これは見直し前に国民が持っていた権利が、損なわれるということです。

今まで国民が持っていた権利を奪う見直しが、全面的に許されないわけではありません。合理的な理由があり、適切な手続き、例えば国民の代表である国会議員による審議などを経ていれば。

ところが、今回の生計維持要件の見直しは、国会の議決が必要な法律改正ではありません。

年金法は、生計維持要件を政令で定めるとしています。政令では、死亡者と遺族が生計を同じくし、遺族の年収が厚生労働大臣の定める額未満であることとし、その遺族の年収額をはじめとする具体的な基準が、通知(通達)で定められています。

今回の生計維持要件の見直しは、内閣で決定や改正ができる政令の改正です。政令は法律の委任がなければ、権利を制限する規定は設けられないものです。生計維持要件は確かに政令に委任されていますが、今回の見直しは、国民が今まで持っていた権利を奪ってしまいます。これは年金法の委任の範囲を超えるものだと思います。


★中日(東京)新聞生活面掲載「みんなで年金」から

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生計維持要件の見直し

2013年12月19日 | 新聞連載記事
遺族年金を受給できるのは、死亡者によって生計を維持していた遺族です。この生計維持要件は、年金の加給や加算の条件でもあります。

遺族年金における生計維持要件は、具体的には死亡者と遺族が生計を同じくしていて、遺族の年収が850万円未満であることです。

例えば年収100万円の妻は、年収600万円の夫が死亡した場合、生計維持要件を満たして遺族年金を受給できます。年収600万円の夫も、年収100万円の妻、あるいは収入がない妻が死亡した場合、生計維持要件を満たして遺族年金を受給できます。

生計維持要件は、遺族が死亡者より収入が少ないこと、あるいは遺族が死亡者によって扶養されていたことではありません。死亡者より収入が多い遺族、あるいは死亡者を扶養していた遺族も、生計維持要件を満たして遺族年金を受給できるのです。

国は、来年4月の遺族基礎年金の改正に伴って、生計維持要件を見直し、「死亡者が国民年金3号加入者であるときは、生計維持に当たらないとする」とのことです。3号は2号に扶養される者、世帯の生計維持者ではないからという理由です。

この理由からいえば、死亡者より収入が多い遺族、あるいは死亡者を扶養していた遺族は、遺族年金を受給できないことになります。
それとも、この点はそのままにして、単に死亡者が3号のときだけ、受給できないとするのでしょうか。3号だけを別扱いする理由はないと思います。

今回の生計維持要件の見直しは、大きな問題をはらんでいます。

★中日(東京)新聞生活面掲載「みんなで年金」から

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障害者特例の見直し

2013年12月12日 | 新聞連載記事
65歳前の老齢厚生年金について、定額部分と加給が支給される「障害者特例」の取り扱いが、来年4月1日から一部見直されます。

65歳前の老齢厚生年金は、以前は報酬比例部分と定額部分、それに加給が支給される「三階建て」の年金額でしたが、現在は報酬比例部分しか支給されません。

ただし、①3級以上の障害状態、②会社を辞めるなどして現時点では厚生年金加入者でない、③障害者特例の手続きをする、という3つの条件がそろうと、定額部分と加給が支給されます。なお、加給は加入期間が20年以上ある場合に限られます。

障害者特例は老齢厚生年金自体の受給手続きとは別 に、③の特例手続きが必要です。
例えば、以前から3級以上の障害年金を受給している人が、老齢厚生年金の支給開始年齢から、1年過ぎて受給手続きをし、同時に障害者特例の手続きをしたとします。

報酬比例部分は、手続きが遅れてもさかのぼって支給されます。しかし、定額部分と加給は、特例の手続きをした以後しか支給されません。以前から3級以上の障害年金を受給していて、厚生年金の加入者でなかったとしても、障害者特例の手続きをしていなかったからです。

これが来年4月1日から見直され、特例の手続きをした以前にさかのぼって、定額部分と加給が支給されるのです。

特例であるかどうかにかかわらず、65歳前の老齢年金と障害年金は、受給者が選択する、どちらか一つの年金が支給されます。


★中日(東京)新聞生活面掲載「みんなで年金」から

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3号死亡は不支給は遺族厚生年金にも!?

2013年12月05日 | 年金ワンポイント
現在、意見募集中のパブリックコメントの資料によれば、死亡者が3号であるときは「生計維持に当たらない」と政令で定めて遺族年金を支給しないという件は、国年令だけではなく厚年令についても同じだということです。

生計維持要件は国年と厚年で同じですから、当り前ですわね。ところがこうなると、支給されなくなるのは遺族基礎年金だけではなく、遺族厚生年金も…ということになりませんか?

たとえば、妻が厚生年金に30年加入して60歳前に退職したとします。夫は58歳。自営業が長かったのですが数年前から勤めに出て、現在は厚生年金の加入者。退職した妻は3号になりましたと。

で、この3号の妻が死亡します。死亡せんでもいいけど、死亡してもらいます。

妻は老齢厚生年金の受給資格期間満了者。58歳の夫は、妻死亡による遺族厚生年金の受給権者となり、60歳から支給開始。夫が長くサラリーマンをした人であれば、遺族厚生年金を受給するのは、60歳から老齢厚生年金の支給開始までですが、この夫は厚年加入が短いので、生涯、遺族厚生年金を受給します。

これが、改正後は、死亡した妻は3号なので生計維持に当たらないとされ、遺族厚生年金は支給されません。

いいのか、これ? レアケースかもしれないけど、改正前であれば支給されたものが支給されなくなるって、どうなんでしょうか。