年金ふわふわ

年金についての執筆やセミナー講師を生業とするFP・社労士が
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賃金と物価の逆転現象

2014年06月26日 | 新聞連載記事
公的年金の年金額は、67歳までは現役世代の平均賃金の動きに応じて「賃金スライド」され、68歳からは物価の動きに応じて「物価スライド」されます。

賃金上昇は物価上昇を上回るという前提からいうと、68歳以上の者の年金額の引き上げは、67歳以下の者の引き上げを下回ります。
たとえば、2005年度(平成17年度)の年金額は、67歳以下の者は0.3%引き上げられましたが、68歳以上の者は前年度額に据え置かれました。

2004年(平成16年)の改正で導入されたこの仕組みを、「賃金スライドの凍結」といいます。少子高齢化の下で年金制度を維持するために導入されたもので、現役世代の保険料負担が増えることから、受給者世代も年金額の引き上げを少し辛抱してください、というわけです。

最近はデフレで、賃金と物価が前提と逆の動きをすることがあります。09年度(平成21年度)の年金額のスライドに反映される賃金は0.9%の上昇ですが、物価はこれを上回る1.4%の上昇でした。

これを単純に当てはめると、67歳以下の者の年金額は0.9%の引き上げ、68歳以上の者はそれを上回る1.4%の引き上げです。これでは「賃金スライドの凍結」のねらいと逆の結果となるので、この年は68歳以上の者も、物価より低い賃金に応じた0.9%の引き上げとされました。

なお、以上は「本来水準」の年金額についてのことです。04年(平成16年)改正以後、実際に支給されてきたのは、本来水準を上回る「特例水準」の年金額です。特例水準の年金額は、05年度も09年度も前年度額と同額でしたが、特例水準は本年度で廃止されます。

来年度からは本来水準の年金額が支給されます。賃金や物価の動きに応じてスライドされ、さらにマクロ経済スライドでその引き上げが抑制されます。

年金額引き上げの前提

2014年06月19日 | 新聞連載記事
今年4月の全国消費者物価指数は、消費税引き上げの影響もあって、前年同月比で3.2%上昇しました。春闘では大手企業をはじめ、賃上げの動きが見られました。長く続くデフレに、ブレーキがかかり始めたのでしょうか。

公的年金の年金額は、現役世代の平均手取り賃金や、物価の動きに応じて上げ下げされます。その前提は「賃金や物価は時とともに上昇し、賃金の上昇は物価上昇を上回る」というものです。

賃金は現役世代の収入。物価は生活に必要な物やサービスの値段です。賃金が増えずに物価が上昇すると、生活が苦しくなります。賃金が物価と同じように増えれば、以前と同じ生活ができます。賃金が物価上昇を上回って増えれば、以前よりよい物が買え、よいサービスが受けられます。生活水準が向上するわけです。

年金額は、基本的には賃金上昇に応じて引き上げられます。公的年金の給付水準は、モデル年金額が現役世代の平均手取り賃金の何%にあたるのかという比率。「賃金スライド」といわれるこの仕組みよって、公的年金は給付水準が一定に保たれます。また、年金生活者と現役世代の生活水準が乖離しないようになっているのです。

ただし、68歳以後の年金額は、賃金より伸びが低い物価に応じた引き上げとされます。68歳以後は賃金スライドではなく、「物価スライド」となるのです。年金額は今後、マクロ経済スライドによって引き上げが抑制されますが、それを抜きにしても68歳以後の年金は、徐々に給付水準が低下します。

「賃金スライドの凍結」といわれる、この68歳以後の年金額改定の仕組みは、二〇〇〇年の制度改革で導入されましたが、以後はデフレが続いたので、影響が表面化しませんでした。でも今後、賃金と物価の動きが前提どおりの状況になると、この影響が徐々に現れてきます。

スキルアップ研修 「被用者年金一元化」

2014年06月16日 | 年金講座・研修・セミナー
ちょっと先ですが、毎度おなじみ「スキルアップ研修」のご案内。今回は、平成27年10月に施行される「被用者年金一元化」です。

共済年金が廃止されて厚生年金に統合されるのですが、両者の制度の差異は、厚生年金に合わせると一般的にいわれますが、逆に共済年金に合わることもあって、一筋縄ではありませんね。

また、会社員期間と公務員期間がある者には、老齢厚生年金や遺族厚生年金が、国と共済組合から2つ支給されたり、両方合わせて20年あると加給が加算されたりと、いろいろ面白いこともあります。

ご興味がありましたら、8月の月末で、暑いは忙しいわで申し訳ありませんが、ぜひお申込みください。


給付水準の引き下げ

2014年06月12日 | 新聞連載記事
厚生労働省は今月3日、公的年金財政の将来見通しを発表しました。経済や人口について複数の前提を設けた、ケースごとの見通しです。

年金財政を検証する際のモデル年金額は、40年間その時々の平均賃金で厚生年金に加入した夫と、40年間専業主婦であった妻の「モデル夫婦」に支給される老齢年金額です。あくまでもモデルに過ぎませんし、このモデルが適切かどうかも疑問ですが、これが年金財政を検証する目安とされます。

今回公表された見通しのうち、標準とされるケース(Eケース)の2014年度のモデル年金額は21.8万円。これは、現役世代の男性の平均手取り収入34.8万円の62.7%にあたります。所得代替率と示されたこの比率が、公的年金の給付水準です。

公的年金は、平均手取り収入の上昇に応じて引き上げられます。約30年後(2043年度)の平均手取り収入が、現在の約1.4倍の48.2万円になるとすると、モデル年金額は本来なら1.4倍に引き上げられ、30.2万円になります。そうなれば、給付水準は30年後も62.7%です。年金額が引き上げられ、給付水準が一定に保たれることは、公的年金の特徴です。

ところがケースEの30年後の給付水準は50.6%です。モデル年金額は21.8万円から24.4万円に増えていますが、給付水準は62.7%から50.6%へと12.1ポイント引き下げられるのです。年金額の引き上げを抑制し、給付水準を引き下げるこの仕組みを、「マクロ経済スライド」といいます。

マクロ経済スライドは、平均手取り収入の上昇率から現役世代の減少率や平均余命の延び率を差し引き、年金額の引き上げを調整する仕組みです。少子化で現役世代が減り、高齢化で受給者が増え、その平均余命が延びているため、2004年の改正時に導入されました。

これまでは特例水準の年金額が支給されてきたため適用されませんでしたが、今年度初めて一部適用され、来年度から本格的に調整が始まります。

時効による年金不支給

2014年06月05日 | 新聞連載記事
先ごろ大阪地裁は、夫の死亡から28年後に遺族年金を請求した女性に対し、国が時効によって23年分を支給しなかったことは信義則に反するとして、その遺族年金約2200万円の支給を命じました。

年金の支給は5年で時効とされます。夫の死亡によって妻に支給される遺族年金は、夫が死亡した月の翌月分から支給されます。ただし、妻が請求手続きをしないと、その支給を受ける権利は5年で時効消滅します。

例えば夫の死亡から3年後に請求すれば、5年たっていないので過去3年分の年金は全て支給されます。今回は28年後に請求しているので、過去5年分だけが支給され、それ以前の23年分は支給されなかったのです。

この時効の取り扱いは、老齢年金や障害年金についても同じです。なお、加入記録が訂正されたことによる年金の支給については、特例的に時効は適用されないことになっています。

今回の女性は、「何度も年金事務所に足を運んだのに、夫の記録を見つけられなかったのは国の責任だ」として時効特例を主張したようです。裁判所は時効特例とは認めませんでしたが、年金事務所の対応に問題があったとして過去分の支給を命じました。

今回とは別の障害年金の裁判では、「年金の支給を受ける権利は請求してはじめて行使できるものだから、時効は請求してからスタートする」という判決もあります。これらが全てのケースにあてはまるものではありませんが、時効についても、よりきめ細やかな対応を求めたいと思います。


★中日(東京)新聞生活面掲載「みんなで年金」から
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