年金ふわふわ

年金についての執筆やセミナー講師を生業とするFP・社労士が
風の吹くまま気の向くまま 日々の出来事をつづる

60歳時に給与が下がっても受給権者ではないので

2012年10月29日 | 新聞連載記事
60歳定年後も、定年前と同じ会社で勤め続ける場合、一般的に給与は60歳前と比べて大幅に低下します。

厚生年金や健康保険の加入者は、月給や賞与から保険料を天引きされます。ただし、保険料は月々の月給額にかかるのではなく、月給を一定の幅で区切った標準報酬月額にかかります。

月給が下がったときには、下がった月から3カ月間の月給の平均額に応じて新たな標準報酬月額が決められ、4カ月目から新たな標準報酬月額が使われ始めます。

ところが、そうなると、月給が下がってから3カ月間は変更前の標準報酬月額なので、保険料も変更前のままです。

そこで、60歳以上の人が定年等で退職し、1日の空白もなく同じ会社に再雇用されたときには、同じ日付の加入者資格喪失届と取得届を提出しても差し支えないとされています。

こうすると、形の上ではそれまでの会社を退職して別の会社に再就職したことと同じなので、届け出た月から新たな標準報酬月額になります。3カ月間待たなくても、月給が下がった月から保険料も安くなるのです。

この取扱いが、来年度から60歳時点ではできなくなります。

先ほどの同日付の届出をしても差し支えないとされているのは、特別支給の老齢厚生年金をもらえる人とされています。

2013年度以降に60歳になる、1953年4月2日以後生まれの男性は、60歳からは年金がもらえません。なお、女性で60歳からもらえないのは、5歳年下の58年4月2日以後生まれの方です。

これらの方は60歳時点で月給が下がっても、同日付の届出による取扱いができないので、3カ月間は変更前の保険料を天引きされます。

定年年齢を引き上げる会社が出始めているようですが、仮にそうなっても少なくとも当面は、60歳時点で給与が低下するのは変わらないと思われます。

対象者の見直しを求めたいと思います。



★中日新聞生活面掲載「みんなで年金」から

【ご注意】本文下の広告は、gooブログに自動掲載される広告で、本ブログの書き手とは何ら関係ないものです。

厚生年金基金の積立不足は結局誰が負担するの?

2012年10月24日 | 新聞連載記事
厚生労働省の特別対策本部が厚生年金基金制度の廃止方針を打ち出したのは、多くの基金に積立不足があるからです。

不足を埋め合わせる責任は、いうまでもなく基金すなわち母体企業にありますが、仮にそれが難しい場合、積立不足はどこまで埋め合わせするべきでしょうか。また、誰がそのお金を負担すべきでしょうか。

厚生年金基金は、厚生年金保険法に定められた制度です。また、代行部分は国の老齢厚生年金を肩代わりする部分です。基金を公的な制度とみれば、最終的には国全体で対応するのもいたしかたないという議論になります。

ただ、基金は国から強制される制度ではありません。むしろ基金のない企業のほうが多いほどです。また、加算部分は母体企業の退職金にあたる年金で、その掛け金はほとんどが企業負担です。基金を私的な制度とみれば、関係しない人に負担を求めるのは筋違いです。

基金の加入者は代行部分の掛け金を給与から天引きされます。また、加入者個人が積立金の運用にかかわっているわけではありません。運用の失敗、とくに代行部分の不足の責任を加入者に負わせるのは酷です。

ただ、積立不足が顕著なのは中小企業が集まる総合型基金です。資金力が弱い企業に埋め合わせを強要する、倒産につながりかねません。そんな企業が増えれば、基金自体が立ち行かなくなります。

純粋な公的制度とはいえないものの、基金について国に全く責任がないとはいえません。少なくとも、加入者の代行部分は守られるべきではないでしょうか。



★中日新聞生活面掲載「みんなで年金」から

【ご注意】本文下の広告は、gooブログに自動掲載される広告で、書き手の私とは何ら関係ないものです。

厚生年金基金廃止?

2012年10月16日 | 新聞連載記事
AIJ問題をきっかけにして、多くの厚生年金基金が厳しい財政状況にあることが表面化しました。これに対応するため厚生労働省に置かれた特別対策本部が、先日、基金制度を廃止する方針を決定しました。

廃止までの期間や廃止の方法はこれから検討されますが、現在基金に加入している人、あるいは基金のある会社を退職して支給開始を待っている人、さらには既に基金の年金を受給している人は、制度が廃止されたらどうなるのでしょうか。

基金の年金は、国の老齢厚生年金を肩代わりする代行部分と、その基金の母体企業の退職金にあたる加算部分で形作られています。

今までの仕組みでは、基金が解散すると代行部分の積立金は企業年金連合会に移されて、連合会から年金として支給されていました。連合会は基金をはじめとする各種の企業年金の連合体です。
加算部分については加入期間などに応じて、連合会に移換されて年金として受給するケース、一時金として受給するケースなど、加入期間などに応じて対応が異なります。

また、加算部分を確定給付企業年金や確定拠出年金といった別の企業年金制度に移し換えることもあります。このとき代行部分は連合会ではなく国に移換されて、老齢厚生年金として受給します。これを代行返上といいます。

今回の廃止が、これら今までと同じ方法になるのか、それとも新しい方法が考え出されるのかは、今のところ何ともいえません。また、肝心の積立不足の解消方法によっては、基金に直接関係していない人にも影響が及ぶ恐れがあります。


★中日新聞生活面掲載「みんなで年金」から

【ご注意】本文下の広告は、gooブログに自動掲載される広告で、書き手の私とは何ら関係ないものです。

3号が死亡しても遺族基礎年金は支給されない?

2012年10月09日 | 新聞連載記事
今般の年金改正によって、2014年(平成26年)4月1日以降は、妻が死亡して夫と子供が残されたときにも遺族基礎年金が支給されるようになります。

ところが、この改正に合わせて、「国民年金の3号加入者が死亡したときには遺族基礎年金を支給しない」という新たな条件が、政令によって設けられるもようです。

なお、改正条文の上では今までの「妻」が「配偶者」に変わるだけで、3号ウンヌン…という条件はありません。この条件は、政令で定めるのだそうです。

ちなみにこの条件が、条文上の死亡者の要件である国民年金の被保険者から「3号を除く」とするのか? もしそうだとすると、3号が死亡しても遺族基礎年金の受給権そのものが発生しません。

あるいは、3号死亡の場合も受給権は発生させ、ただし夫や子供の支給を停止する…とするのかは、今のところわかりません。夫はさておき、子供に対しては少なくとも受給権は与えておくべきだと思うので、支給停止の方法をとるのかしら?

今まで妻が死亡したときに遺族基礎年金が支給されなかったのは、日本の年金制度が「家計の支え手は夫。妻は収入的には補助的な立場」という、昔の一般的な夫婦関係の影響を受けているからでしょう。この影響はとくに遺族年金に強く表れています。

妻が夫を亡くしたときには、遺族厚生年金に寡婦加算がついたり寡婦年金が支給されたりします。一方、夫が妻を亡くしたときには、夫が55歳以上でなければ遺族厚生年金をもらえません。

今は、共働きも増えています。また、共働き世帯、専業主婦世帯にかかわらず、妻が死亡して遺族基礎年金の支給対象となる幼い子供が残されたときには、それまで夫婦二人で分担していた役割を夫一人でしなければなりません。例えば、子供を保育所に預けようとすれば経済的な負担も増えます。

新たな条件の根拠が、2号に扶養される3号が死亡しても一家の収入が減るわけではないということだとすると、ちょっと単純すぎる決めつけに思えます。

今回の改正は、遺族年金における男女差の解消を狙ったものといわれますが、新たな条件はその効果を相殺する可能性があるのではないでしょうか。


★中日新聞生活面掲載「みんなで年金」から

【ご注意】本文下の広告は、gooブログに自動掲載される広告で、書き手の私とは何ら関係ないものです。

父子家庭にも遺族基礎年金が支給されることになります

2012年10月03日 | 新聞連載記事
先ごろ決まった年金の改正項目のうち、最も早く実施される予定のものは、2014年(平成26年)4月からの「父子家庭にも遺族基礎年金を支給する」という改正です。

遺族基礎年金は、国民年金の加入者などが死亡したときに支給される遺族年金です。例えば、共働きの夫婦に小学生の子供が1人いるとします。現在は、この夫婦のうち夫が死亡したときには遺族基礎年金が支給されますが、妻が死亡しても遺族基礎年金は支給されません。

これを改正して、妻が死亡して父子家庭になったときにも支給しようというものです。

遺族基礎年金をもらえるのは、今までは、死亡した人の子供、又はその子供と生計を同じくする死亡した人の妻だけでした。夫はそもそも、もらえる人ではなかったのです。なお、子供はおおむね高校生以下の子供です。

先ほどの夫婦のうち夫が死亡したときには、遺族基礎年金をもらえる妻と子供が残ります。子供の年金は妻が受給している間は支給停止されるので、実際には妻が受給します。年金額は、基礎満額に子供の加算がついて、年額1,012,800円です(12年度額)。

妻が死亡したときには、もらえるのは子供だけです。しかし、子供の遺族基礎年金は父と生計を同じくしていると支給停止されるので、結局、今までは妻が死亡しても遺族基礎年金は支給されなかったのです。

改正後は、子供と生計を同じくする夫ももらえる人になるので、14年4月1日以後に妻が死亡したときには、夫に遺族基礎年金が支給される予定です。

★中日新聞生活面掲載「みんなで年金」から

【ご注意】本文下の広告は、gooブログに自動掲載される広告で、書き手の私とは何ら関係ないものです。