観自在

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戦争について新しい知見が得られました

2015-05-22 21:25:39 | 読書
『街場の戦争論』 内田樹 (ミシマ社)

 明治日本の産業革命遺産登録に韓国が反対しています。また、核拡散防止条約で世界の指導者に被爆地訪問を呼びかける日本の提案が中国の反対で合意文書から削除されたようです。ますます関係はこじれるのでしょうか。
 この本の初めに、内田氏は敗戦国が負うのは「無限責任」で、相手がいいというまで謝罪し続けなければならないと述べ、ドイツ大統領の例を挙げていらっしゃいます。もし、過去にあった日本と、中国や韓国の関係が逆転していたとしたら、戦後70年たつのだから相手国を許せと言われて、簡単に許せるでしょうか。侵略にあい、家族や知人を殺され、文化まで殲滅しようとした相手を簡単には許せないと思います。
 氏はあえて「もしもあのとき」という議論を持ち出し、1942年のミッドウェイ海戦に敗北したときに、当時の日本が終戦を決断したら、「ふつうの敗戦国」になれていたのではないかと述べています。日本は無益な戦争を続けたために、戦後の再建を担う人材を失い、敗戦の検証すら自力でできないほどに完膚なきまでに負けた。その結果、アメリカに永久に従属する属国になってしまったというのです。日本は敗戦によって、日本としてのアイデンティティーを失い、アメリカの顔色を窺って、アメリカの気に入る国になろうとしている。でも、そのアメリカにしても、忠誠を尽くす日本を軽蔑しこそすれ、同盟国などとは思っていないのです。
 日本政府には政策決定権がないと述べられています。2012年、安倍首相が村山談話を否定した時、アメリカが東アジアの混乱を避けるために圧力をかけ、安倍首相に発言を撤回させたのはその通りでしょう。日中の国交回復を行ってアメリカの激怒をかい、ロッキード事件で失脚した田中角栄元首相の例もありました。アメリカは自国が作った憲法を変えることは自国の理想を傷つけることになる上に、世界情勢が不安定な時期にこれ以上アジアで混乱が起これば手が回りません。9条が空洞化することはアメリカの国益を損ねるのです。
 筆者は、安倍政権を「経済成長に特化した国づくり」を目指していると指摘しています。経済成長のために国民を一極集中させて競わせ、安定した生活や健康を奪うなどの犠牲を強いて、都合が悪くなれば責任を押し付けて逃亡してしまうのでしょう。私も直接知っているわけではありませんが、まさにあの時代に戻っているような気がしてきます。
 国内の景気対策が手詰まりになったとき、戦争は新しい利益を生み出す格好の秘策でしょう。どうしても戦争がしたい人たちは、改憲を棚上げして、特定秘密保護法で表現の自由・集会結社の自由を奪い、集団的自衛権で海外での戦闘を可能にしました。改憲することなく解釈によって9条を空洞化したのです。
 東京オリンピックの誘致に浮かれた我々ですが、マドリード、イスタンブールでは大規模なテロが発生し、東京の安全性が「おもてなし」以上にアピールしたようです。日本が安全なのは9条によって海外の戦闘に参加していないためです。戦争を放棄している国をテロの対象にすることはいかなる国にもできないでしょう。しかし、今後、自衛隊が海外で戦争をすれば、その地域の憎しみをかい、テロの対象になることは目に見えています。私たちは、そんな選択をしたのです。
 日本はアメリカに依存しているとは思っていました。しかし、世界的に見ても異常な属国であるということに気づかされました。主権を取り戻すことは大切でしょうが、あの戦争の総括ができない国には、まだそれは無理な相談なのだろうと思いました。