観自在

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星の王子さま

2015-05-08 22:36:41 | 読書
星の王子さま

  2005年に集英社文庫から発売された池澤夏樹氏新訳の『星の王子さま』は2014年6月には25刷に達しています。根強い人気のある作品だけに、池澤氏の新訳を読んでみたいという方も多いのでしょう。
  私も久しぶりに再読しましたが、現代的な口語訳になっていて親しみやすいと感じました。
  ボアがゾウを消化している、あの帽子の絵から始まって、大人になることは硬直したものの見方しかできなくなり、奇妙な思考やいびつな人間関係を作っていくということが、王様の星やうぬぼれ男の星、ビジネスマンの星、地理学者の星などを遍歴することから理解されていきます。そして、地球に来てから出会ったのが、サンテグジュペリ自身と思われるパイロットやキツネなどでした。特に、キツネからは「飼いならす」ことから互いが多数の中から特別な存在になるというオンリーワンの思想を教えられます。また、「肝心なことは目では見えない」という有名な台詞もありました。このあたりから、コミカルな童話の中に哲学的な要素が加わり、大人と子供、人間と動植物が対比されて深さを増しているようです。池澤氏の新訳では、そうした流れや対比が、鮮明になったように思いました。
  私が最も新訳で感じたのは、登場人物の性格描写が生き生きと描かれたことでしょう。純真な王子さまと、自分の気持ちを素直に出せないバラの花、子供の心をキープしつつもやはり大人にならざるを得ないパイロット、斜に構えるようであっても関係性の根本を理解しているキツネなど、これまでにはなかったキャラクターを見たような気がしました。
  最後に、王子さまは、自分の星に残してきたバラが、自分にとってオンリーワンの存在であることに気づき、星に帰っていきます。何ともミステリアスでシリアスな結末です。ここでは、死についても考えさせられます。