観自在

身辺雑感を気ままに書き込んでいます。日記ではなく、随筆風にと心がけています。気になったら是非メールください!

それでも前へ進む

2015-01-07 20:25:59 | 読書
 新刊を読むことはほとんどない私ですが、発売されたばかりの『それでも前へ進む』(伊集院静 講談社)を読みました。
 これはJRが出していて、新幹線に乗ると座席のポケットに入っている「トランヴェール」という雑誌に、氏が連載していたエッセイをまとめたものです。第一部の「車窓にうつる記憶」がそれで、今回は、特に第二部として、東日本大震災に寄せた「それでも前へ進む」を加えて出版されたようです。
 旅がテーマになっていることは間違いありませんが、季節の移ろい、花、幼少の頃の思い出など、氏のエッセイに共通する世界が描かれていて好感が持てます。氏は、これまでのエッセイの中では「夏目雅子」の名前はずっと出さずにこられたように思いますが、この本では前妻の名前として記されていたので驚きました。ちなみに、「家人」が「篠ひろこ」さんであることも編集者注として出ていました。伊集院氏の中で、気持ちの整理がつけられたのだろうと思いました。
 読んでいて、これほど心が落ち着き、人と人との出会いが人生のすべてなのだと教えられる本はありません。「元旦の空」と題したエッセイもありますので、お正月気分の抜けないうちに、1年の計を考えるためにも、ぜひ読んでいただきたいと思います。
 今年は、私もまた石巻へ行ってお金を落としてきたいと思っています。




詩を書くということ

2015-01-07 19:06:42 | 読書
 谷川俊太郎氏は現役としては日本で最も有名な詩人ではないでしょうか。かなり高齢にも関わらず、ますますお元気でご活躍です。
 谷川氏の本で『詩を書くということ~日常と宇宙と』(PHP研究所)を読みました。この本は2010年にBSハイビジョンで放送された「100年インタビュー」という番組をもとにして書籍化したものです。本でも、途中、ご自身で詩の朗読をされていたり、中島みゆき氏の質問に答えていたり、小室等氏との対談が挟まっていたりしていて、なかなか面白い番組だったことがわかります。番組をテレビで見られずに残念でした。
 全体が、司会者の質問に谷川氏が答える形で進行していますが、私が最も印象に残ったのは「僕は割と最初から言葉を信用していなくて」という発言でした。詩人たる者、言葉が生業という気がしますが、だからこそ、強くお感じになることでしょう。
 私自身、自分の真意を言葉にしようとすればするほど、言葉に裏切られ、もどかしさが募ったり、誤解を受けたりしました。こうしてブログを書いていても、自分が本当に書きたいことは、なかなか言葉にできず、むしろ、違うことを書いていると感じることもあります。人は言葉によってコミュニケートするわけですが、それには限界があるということをよく知っておくべきです。
 谷川さんの詩はやっぱりいいなと感じる1冊です。


カズオ・イシグロを読む

2015-01-07 19:02:52 | 読書
 年末から年始にかけて、休暇も利用して3冊の本を読みました。
 まず、カズオ・イシグロの『遠い山なみの光』(小野寺健訳 早川書房)。これは、王立文学賞受賞作『A Pale View of Hills』(1982)の邦訳です。
 私は以前、映画で「日の名残り」を見て感動し、原作を読みました。これは英国最高の文学賞であるブッカー賞を受賞した作品で、貴族の執事が過去を振り返る内容で、重厚で素晴らしい作品でした。二度と戻れない過去の輝きに胸が痛んだことを記憶しています。それから、カズオ・イシグロがずっと気になっていました。今回は出世作となった初期の作品を読みました。
 英国に住む一人の日本人女性が、娘の死を乗り越えていこうとする姿と、浮気な米兵に夢を託し、アメリカへ旅立とうとする女友達の姿を対比させながら、かすかな希望に向かって生きようとする女性の姿を描いています。人間が感じる日常の不安を実に丁寧に描いていると感じました。
 私は『日の名残り』と『遠い山なみの光』を読んで、カズオ・イシグロをリアリズムの作家だと思いますが、実は、2005年に世界的なベストセラーとなった『わたしを離さないで』などはだいぶ趣が違うようです。次回は、そんな別な面が感じられる作品を読みたいと思います。幼いころに日本を離れ、日本語を解さないカズオ・イシグロの存在は、日本文学を考える上で特異な存在です。