-今日の独言- 今年の三冊
18日付、毎日新聞の書評欄-今週の本棚では、総勢32名の書評者各々が勧める今年の「この三冊」を掲載していた。書評者たちの専門は広く各界を網羅しているから、挙げられた書も多岐にわたって重なることはかなり少ないが、複数人によって重ねて挙げられている書を列記してみると、
大江健三郎「さようなら、私の本よ」-大岡玲、中村桂子、沼野充義の三氏。
三浦雅士「出生の秘密」-大岡玲、村上陽一郎、湯川豊の三氏。
筒井清忠「西條八十」-川本三郎、山崎正和、養老孟司の三氏。
リービ英雄「千千にくだけて」沼野充義、堀江敏幸の二氏。
と4書のみだが、残念ながら私はいずれも読んではいない。
因みに、32名によって挙げられた書の総計は89冊になるが、この内、私が読んだのは2冊のみ、高橋哲哉「靖国問題」と佐野眞一「阿片王-満州の夜と霧」だけで、些か時流に外れた読書人と言わざるをえないか。
<歌詠みの世界-「清唱千首」塚本邦雄選より>
<冬-13>
雪のうちにささめの衣うちはらひ野原篠原分けゆくや誰
守覚法親王
北院御室御集、冬、雪。久安6年(1150)-建仁2年(1202)。後白河院の第二子、姉に式子内親王、弟に以仁王。幼少より出家、歌道・学才にすぐれ、御子左家歌人の俊成・定家・寂蓮や六条藤家歌人顕昭・季経・有家らともよく交わる。
ささめ-莎草、茅・萱・菅の類、狩り干して蓑の材料にする。
ささめの蓑を着て、降り積もる雪を打ち払い打ち払い、ひたすらに野を急ぐ旅人を遠望する景。
邦雄曰く、第四句「野原篠原」の重なりも、「誰」と問いかけて切れる結句も、心細さをさらにそそりたてる。新古今歌風からやや逸れたところで、清新素朴な詞華を咲かせている、と。
冬の夜は天霧る雪に空冴えて雲の波路にこほる月影
宜秋門院丹後
新勅撰集、冬、千五百番歌合に。生没年未詳、平安末期-鎌倉初期。源頼行の女、伯父に源頼政。はじめ摂政九条兼実に仕え摂政家丹後と呼ばれ、後に兼実の息女で後鳥羽院中宮任子(宜秋門院)に仕えた。歌人として後鳥羽院に「やさしき歌あまた詠めりき」と評価が高い。
天霧る-あまぎる、空一面を曇らせる。雲の波路-雲の重畳、たなびくさまを波に比喩。
邦雄曰く、水上に空を見、天に海原を幻覚する手法は、古今集の貫之にも優れた先蹤を見るが、第四句「雲の波路」なども、実に自然に錯視現象を生かしている。丹後の歌には気品が漂う、と。
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