Information<四方館Dance Cafe>
風姿花伝にまねぶ-<18>
問答条々-1
問ふ。抑、申楽を初むるに、当日に臨んで、先づ座敷を見て、吉凶をかねて知る事は、いかなる事ぞや。
答ふ。此事、一大事也。その道に得たらん人ならでは、心得べからず。
能舞台には、嵐窓と称する連子窓があり、見物席の様子を鏡の間から覗くことができるようになっている。会場の雰囲気を窺って、その日の舞台が成功しやすいか否かを見定め、いかに対応するかを思案するのは、一座の長の重い役目でもあろう。まずは、見物席が静まること、見物の心が一つになって、今や遅しと心待ちとなる頃合を捉えて、幕を上げ、シテの登場となれば、「万人の心、為手の振舞に和合して、しみじみとなれば、何とするも、その日の申楽は、早やよし」ということになる。
かように<場>を心得る、ということについて、世阿弥は「夜の申楽」と「昼の申楽」を陰陽の論理を用いて演じ分けるべし、と説く。夜の申楽ではとかくしめりやすいから、初めが大切。初めに侘しくしめりこんでしまえば、いかにも立ち直りがたい。陰の気の支配しがちな場には、営為ある陽の活力を、陽の気の支配しがちな場には、物静かな心を満たした陰の気を配し、陰陽の和に心配ることが成功の秘訣だ、という。
――参照「風姿花伝-古典を読む-」馬場あき子著、岩波現代文庫
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