医師日記

「美」にまつわる独り言です
水沼雅斉(みずぬま まさなり)

野獣の美意識 9

2008年10月17日 09時23分44秒 | Weblog
 同じレ・ザネ・フォル(狂騒の時代)、エコール・ド・パリのイタリア人モディリアーニもそうですが、珍しいフランス人のユトリロはアル中で知られます。

 ユトリロは、10代でアルコール中毒になり、治療のため医師に勧められて絵を描き始めたのは有名な話。

 彼が描いたのは、モンマルトルの裏通り・・・。

 静寂さが表現され、品がいいが独特の暗さももつと言われる・・・。

 ユトリロの「白の時代」・・・それは『漆喰』の白。

 絵の具に石灰や鳩の糞、朝食に食べた卵の殻、砂などを混入したそうです。

 彼がそれほどまでにこだわった「漆喰の白」。

 母親にほとんどかまってもらうことのなかった孤独な少年時代を、部屋の隅に崩れ落ちている「漆喰」で遊ぶことで紛らわせていたからのようです。

 唯一の友達が漆喰ですよ・・・。

 友人が「パリの思い出に何か1つ持っていくとしたら何にするか」と問うと、ユトリロは迷わず「ひとかけらの漆喰」と・・・。

 十分病んでくれている・・・。

 重すぎる十字架・・・。

 ご本人に失敬なのは承知の上、画家としての屈折ぶりがすばらしい。

 そしてその「白の時代」は、ユトリロがもっともアルコールにおぼれていた時期という・・・。

 壁はくすみ、空は重苦しく、建物はゆがむ・・・だからこそいい。

 決して人を愉快にさせることはない、重苦しい個性。





 色男で酒びたり・・・ユトリロの飲み友達、モディリアーニも好き嫌いは別にして、画風は個性あふれており及第点だ。

 2歳下の同じアル中のモディリアーニは35歳で死に、ユトリロは72歳まで生きた。





 知性的で破天荒なキヨシローよ、調子はどうなんだ?

 そうだ、じゃあ、町田康について、やろう。