【社説・05.29】:私的情報漏えい/知事は自らの責任直視を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.29】:私的情報漏えい/知事は自らの責任直視を
県政のトップ自らが情報漏えいを指示した可能性を指摘される異例の事態である。進退が問われてもおかしくない。
兵庫県の斎藤元彦知事らへの告発文書問題で、文書を作成した元西播磨県民局長(故人)の私的情報を前総務部長が県議らに漏らしたとされる疑惑を調べた県の第三者調査委員会が報告書を公表した。前総務部長が県議3人に漏えいしたと認定し、「知事や元副知事の指示により県議会への『根回し』の趣旨で開示した可能性が高い」と結論づけた。
きのうの会見でも知事は「漏えいの指示はしていない」と関与を否定した。だが知事以外の関係者の証言とは食い違っており、県民の納得は得られまい。知事は「組織の長としての責任」を理由に自身の減給処分を表明したが、文書問題を巡る一連の対応については「適切だ」との見解を繰り返す。自ら設置した第三者委の結論を受け入れない態度は、存在意義を否定するようなものだ。
前総務部長は井ノ本知明(ちあき)氏で、県は停職3カ月の懲戒処分とした。地方公務員法(守秘義務)違反の疑いが強く、県庁内には「処分が軽すぎる」との指摘もある。井ノ本氏は「知事や元副知事の指示に基づき、部長の職責として正当業務を行った」と主張し、審査請求をするという。
報告書によると、県議3人が昨年4月、元県民局長の私的情報が印刷された資料を総務部長(当時)から見せられたと証言した。井ノ本氏は当初漏えいを否定したが、後に提出した弁明書で、知事から「そうした文書があることを議員に情報共有しといたら」との趣旨の指示を受け、県議に口頭で説明したと認めた。
他の元幹部らも井ノ本氏の主張に沿う証言をしており、知事の説明だけが異なる。第三者委は知事の供述は不自然で「採用は困難」とした。知事は説明を尽くすべきだ。
見過ごせないのは、漏えいの目的だ。第三者委は「元県民局長の人格や人間性に疑問を抱かせ、告発文書の信用性を弾劾する点にあった」とする県議の見方を支持した。私的情報は告発内容とは無関係で、告発者をおとしめる行為は許されない。
私的情報は政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏も入手し、交流サイト(SNS)に投稿、拡散された。調査した別の第三者委は県職員関与の可能性が高いとした。県は運営企業に削除を申請したが、プライバシー侵害は今も続く。
知事は自身のパワハラや公益通報者保護を巡り、第三者委から違法性などの問題を指摘されながら正面から受け止めてこなかった。自らの非を認め、責任の重大さを直視しない限り、信頼回復は望めない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年05月29日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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