【社説①】:自民党の派閥政治 国民の目線で政策論争を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:自民党の派閥政治 国民の目線で政策論争を
9月前半にも想定される内閣改造・自民党役員人事や来年の総裁選をにらんで、自民党内の派閥の動きが活発化している。
岸田文雄政権を麻生太郎副総裁の麻生派、茂木敏充幹事長の茂木派が支える構図が鮮明だ。最大派閥の安倍派は安倍晋三元首相の死去後、体制再建に苦慮している。
政治理念を共有する議員が集まって総理総裁候補を輩出し、政治を活性化する機能が派閥にはあるだろう。だが、国民生活に必要な政策を打ち立てて政治に反映する役割を忘れてもらっては困る。
巨大与党である自民党の派閥が政権に与える影響力は大きい。国民への責任を自覚してほしい。
かつて自民党各派は選挙の公認や閣僚・党役員ポストを巡る政争を繰り広げ、金権政治の温床ともなってきた。「密室政治」の暗い影は今もつきまとう。
岸田首相は、自民党総裁として政治の意思決定の透明化に努め、派閥力学よりも国民感覚を優先して政策を遂行してもらいたい。
■重要な会談が密室で
岸田首相は政治の重要局面で麻生、茂木両氏と会談する機会が目立っている。衆院解散・総選挙が取りざたされた6月の通常国会閉幕後も、3氏は夕食を共にして政権運営を語り合ったとされる。
こうした傾向は昨年の安倍氏死去後に強まった。「安倍1強」と言われた構図は一変し、麻生、茂木、岸田の第2~第4派閥が連合して主流派を形成し、安倍派は非主流の立場に回った感がある。
問題なのは政権中枢にある政治家たちが何を話してどう判断したかが伝わってこないことだ。
マイナンバーカードとの一体化に伴う健康保険証の廃止や東京電力福島第1原発の処理水放出など、国民の関心が高い課題にどう道筋を付けるのか。政策判断の過程を明らかにすべきではないか。
政治家が内輪の会合を重ねる慣習は長年続いており、政治の当たり前の姿ととらえられがちだが、「国民の声に耳を澄ます」と繰り返す岸田首相の政治姿勢とはかけ離れているように見える。
■基盤弱く妥協相次ぐ
岸田首相は就任以来、自らの派閥「宏池会」の伝統を意識した政策を掲げるが、力不足は否めない。
「資産所得倍増プラン」は宏池会の創設者池田勇人元首相の「所得倍増計画」を思わせる。だが、その実績は少額投資非課税制度(NISA)の拡充にとどまる。
大平正芳元首相の「田園都市国家構想」を受けた「デジタル田園都市国家構想」では地方のデジタル化支援の交付金を創設したが、大平氏が目指した「都市と地方が調和した社会」の姿は見えない。
一方で目立つのは、宏池会のハト派イメージとは逆のタカ派的政策だ。専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力の保持を含む安全保障関連3文書の閣議決定や、防衛費の大幅増額などである。
首相は、「現実主義」が宏池会政治の本質だとして正当性を主張する。だが実際は党内保守派に配慮して、政策の優先順位を逆転させているのではないか。
政権基盤の脆弱(ぜいじゃく)さに起因する政治的妥協を、現実主義という言葉で正当化するのには無理がある。
独協大の福永文夫教授(政治学)は「宏池会の創設者たちは保守政治の安定のために民主主義や平和に対する国民の意識を重視した。彼らが師と仰いだ吉田茂には欠落したものだった」と分析する。
宏池会政治の継承者を自任するのであれば、各派の意向を忖度(そんたく)するのではなく、国民の声を優先する姿勢が首相には求められよう。
■不信を招く権力闘争
自民党各派間の力関係が変化する中、党内保守派は政権への影響力確保に苦心している。
保守派が多く所属する安倍派は塩谷立・元文部科学相を座長とする常任幹事会を設置する集団指導体制を取ることにした。最大派閥維持のため結束を誇示する一方、政策面での構想は明瞭さを欠く。
安倍派の下村博文元政調会長は「秋の臨時国会で憲法改正の発議に至るかで岸田政権の本気度を見極めたい」と語る。しかし、内外の課題が山積する中で改憲が最優先されるべきテーマかは疑問だ。
主流、非主流の立場にかかわらず、無派閥議員も含めて、政治不信を招く内向きの権力闘争から脱却する覚悟が求められる。
自民党はリクルート事件などで派閥が金権政治を生じさせているとの批判を受け、首相や閣僚、党幹部の派閥離脱を決めた。
「自民党をぶっ壊す」と訴えた小泉純一郎元首相の派閥解消論も結局は自らの出身派閥「清和会」の独り勝ちの構造を生んだ。自民党の歴史は派閥政治の弊害とともにあったと言わざるを得ない。
岸田首相は派閥会長の座に居続けているが、より開かれた姿勢で国政課題に専念すべきだろう。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年08月21日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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