【社説】:日大の再発防止策 口先だけでは許されぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:日大の再発防止策 口先だけでは許されぬ
大学のトップが脱税で有罪となった事実は極めて重い。日本大は不退転の決意で信頼回復に努めなくてはならない。
日大は、所得税法違反罪で有罪が確定した田中英寿前理事長(75)の巨額脱税事件など、一連の不祥事の再発防止策を文部科学省に提出した。理事長を学外から選出し、学長や他の理事も一新するという。
文科省は事件発覚後から日大に理事選任方法の見直しなどの改革を求めてきた。ようやく大幅なガバナンス(統治)改革に取り組む姿勢が示された形だ。
だがこれで一件落着とはいえない。肝心なのはその方針がどれだけ実現できるかだ。改革が口先だけに終われば信頼回復は果たせない。このことを肝に銘じて取り組む必要がある。
日大が示した再発防止策によると現在の理事長、理事、評議員らは全員退任。新たな理事長は学外から選び、任期を2期8年までとする。理事会や評議員会の3分の1以上を外部から登用し、評議員会に理事長、理事の解任権も持たせる、などを柱とする。前理事長には大学に損害を与えたとして損害賠償を請求するという。
外部有識者で作る「日本大学再生会議」の提言をほぼ受け入れた内容である。前理事長に権限が集中し、支配権が強化された過ちを改めるのは当然だ。
一連の事件では日大板橋病院の取引で4億2千万円の損害を日大に与えた背任罪で元理事の男が起訴されている。前理事長は取引業者からの1億2千万円ものリベートを申告しなかった所得税法違反で有罪となった。大学経営を食い物にした犯罪を繰り返してはならない。
日大側は再発防止策で前理事長と「永久に決別する」と宣言した。にもかかわらず前理事長は最近も大学施設に出入りし、関係者と面会していたことが分かった。これでは宣言は形だけと言われても仕方ない。
日大は事件を受け、年90億円の私学助成金を打ち切られた。経営が改善されれば5年で満額交付に戻る可能性があるが、前理事長の影響が本当に排除されたのか確認作業が欠かせない。
他の私立大も「対岸の火事」と思ってもらっては困る。わいせつ事件で実刑判決を受けた東京福祉大の大学創設者は学長に復帰した。大阪観光大など運営する学校法人の元理事長は21億円の横領で懲役刑が確定した。不祥事は度々問題化している。ずさんな大学経営は何も日大に限った話ではないだろう。
文科省は私立学校改正案を国会に提出する予定だ。理事長に権限が集中し、不祥事を招いた日大のようなケースを繰り返させない、との趣旨である。
文科省は昨夏に設置した有識者会議で、学外者だけの評議員会に重要事項の決定権を委ねる考えを示した。これには私大側が「学外評議員だけでは私大運営の責任は取れない」と猛反発。評議員会の権限を絞り込むことで決着した経緯がある。
私大側の言い分は分かる。学問の自由や独自の教育方針は尊重されるべきだ。ただ襟を正すべきは正す必要がある。
全国の大学・短期大の80%以上が私大であり、その役割が大きいことに疑いはない。日大のみならず、大学側は役割の重さに見合った適正で健全な経営を実現する責務を自覚すべきだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年04月17日 06:25:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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