【大前研一氏が喝破】:石破政権が“愚策”を連発する理由 高校授業料無償化、「103万円の壁」引き上げ、中堅企業成長ビジョン…数え上げればきりがない
『漂流する日本の羅針盤を目指:【大前研一氏が喝破】:石破政権が“愚策”を連発する理由 高校授業料無償化、「103万円の壁」引き上げ、中堅企業成長ビジョン…数え上げればきりがない
「高校授業料無償化」「中堅企業成長ビジョン」など様々な政策を打ち出す石破政権に対して、「愚策ばかり」と苦言を呈すのは経営コンサルタントの大前研一氏。また、役人に対しても「国民の役に立たない組織に成り下がった」と断じる。いまの閣僚・役人を見て、大前氏は「日本にこそ『政府効率化省(DOGE)』が必要ではないか」と提言する。<button class="sc-1gjvus9-0 cZwVg" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button><button class="sc-1gjvus9-0 cZwVg" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="26"></button>
結局、石破政権の目的は「予算成立」と「参議院選挙対策」か(イラスト/井川泰年)(マネーポストWEB)
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石破茂政権が愚策を連発している。本連載では、納税者として看過できない日本政府の愚策について何度も批判してきたが、今回もそれを指弾したい。
たとえば、自民党・公明党が日本維新の会の要求を飲んだ所得制限のない「高校授業料無償化」は、目的がわからない。先行した東京都と大阪府の現状を見ると、生徒が公立高校から無償化の恩恵を受けた私立高校にシフトし、公立高校の定員割れと劣化を招いている。
大阪府内の公立高校の2025年度一般入試は全日制の平均倍率が1.02倍で、全128校のうち半数の65校で倍率が1倍を下回った。東京の都立高校も同様の状況で、全日制の平均倍率は現行制度になった1994年度以降最低の1.29倍だった。
今後はこの傾向が全国に広がるわけだが、それを防ぐ方法は議論されていないし、授業料を無償化した結果として高校生にどういう大人になってもらいたいのかという議論も全くない。
私が以前から述べているように、選挙権が与えられる18歳を前にした高校3年間は大学受験のための教育ではなく、真っ当な「成人」として生きていくための教育を行なわねばならない。その目的なら高校も義務教育にすべきであり、それによって無償化するのであれば理解できる。
だが、高校は義務教育ではなく、しかも未だに均質的な人間を育てる20世紀の工業化社会時代の教育を続けている。しかし、21世紀のAI(人工知能)社会時代の教育はそれをオールクリアして、一芸に秀でた人材を育てなければならない。
なぜなら、AI社会では文部科学省の学習指導要領に沿った知識偏重教育は役に立たないし、いま世界で活躍している日本人は、文科省教育の埒外で育ったスポーツ、音楽、アニメ、ゲーム、料理といった分野の人たちだからである。逆に言えば、今の文科省教育の下でどの教科の試験でもそつなく点を取る「オール5」の“偏差値秀才”は、21世紀のAI社会では活躍できないのだ。そういう本質的な教育改革ができていないのに授業料を無償化するのは、本末転倒ではないか。
さらに、義務教育ではない私立高校を無償化するのに、義務教育の私立小学校・中学校を無償化しないのも理屈に合わない。私立は小中高一貫校や中高一貫校も少なくないが、高校だけ無償化されることになる。
あるいは、所得税の課税最低限ライン「103万円の壁」の引き上げ。国民民主党は念仏のように178万円への引き上げを唱えているが、そうすると国と地方で7兆6000億円の税収減になるとされている。
このため与党は年収ごとに上乗せ額が異なり、年収200万?850万円の上乗せは2年限定という複雑な仕組みで課税最低限を税収減が1兆2000億円にとどまる160万円に引き上げたものの、178万円を譲らない国民民主党との協議は決裂した。
大半の人が年間2万?3万円の減税に収まるように調整されたというが、物価高が進む中、その程度で国民の負担がどれほど軽減するのか、甚だ疑問である。
なぜ、これほど愚策だらけなのか? 石破政権の目的が「予算成立」と「参議院選挙対策」だからである。国民民主党との協議を打ち切ったのも、高校授業料無償化で日本維新の会と合意して予算成立が確実となり、国民民主党に妥協する必要がなくなったからだ。
一方、役人は各省庁の幹部人事を一元的に掌握している内閣人事局に服従し、政治家に仕えることに汲々としている。国民のためではなく政治家のために働いているわけで、役人と言いながら本来の役目を果たさず、国民の役に立たない組織に成り下がっているのだ。
アメリカではイーロン・マスク氏が「政府効率化省(DOGE)」を率いて連邦予算削減に大ナタを振るっている。2月には全連邦政府職員に「先週、何をした?(What did you do last week?)」という上司が部下を詰問する時に使う慣用句のタイトルの一斉メールを送って過去1週間の成果を5項目返信するよう求め、対応しなければ辞職と受け止めると伝えた。マスク氏のやり方は極端で、その横暴さが批判を浴びたのは当然だが、日本でもこれほど愚策ばかりを連発されると、閣僚と役人に「先週、国民のために何をした?」と問い質したくなる。今の日本にこそ「政府効率化省」が必要なのではないか。
◆大企業・金持ちを優遇してどうする
ほかにも石破政権の愚策は数え上げればきりがない。たとえば、2月に策定した「中堅企業成長ビジョン」。その中身は、全国に約9000社ある従業員数2000人以下の「中堅企業」を2030年に1万1000社に増やすことを目標とし、生産性の向上、M&A(合併・買収)、賃上げなどを促すために補助金や税制優遇で総額約1兆4000億円を支援するというものだ。
だが、企業にはそれぞれ目的がある。どんどん成長したい企業もあれば、成長しなくても長く続きたい企業もある。にもかかわらず、国が“上から目線”で「支援するから成長しろ」と言うのは余計なお世話だ。
賃上げも各企業が業績などによって判断することであり、国が号令をかけるのはおかしい。昨年度の「労働分配率(企業が生み出した付加価値に占める人件費の割合)」は大企業が34.7%、中小企業が66.2%だった。現状で大企業は賃上げ余力があるわけだが、国は大企業にも賃上げ税制優遇制度を設けている。これは全く理解できない。
また、日本は3年連続で実質賃金がマイナスだ。賃金の伸びが物価の上昇に追いついていないのである。しかも、2024年の「エンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)」は28.3%で、1981年以来43年ぶりの高水準となった。つまり、国民は全体として貧乏になっているのだ。
国が生活困窮者を援助するのは当たり前である。だが、たとえば冒頭で指摘した所得制限のない高校授業料無償化は筋が通らない。義務教育ではない高校で金持ちを無償化の対象にする必要はなく、その分の予算を生活が苦しい人たちの支援に回すべきである。
本来、そういう政策を考えて国民に奉仕するのが役人の役割のはずだ。しかし、彼らは政治家の顔色をうかがいながら政策を立案し、しかも2年ごとに担当が代わるので継続性がない。だから、この国は30年以上も迷走しているのである。
ただ、石破政権の愚策は、貧乏だったはずの石破氏が首相になった途端、新人議員に商品券を配って進退を問われる、という笑い話で終わるのかもしれない。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年4月11日号
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元稿:㈱小学館 主要出版物 週刊ポスト マネーポストWEB 主要ニュース 政治・経済・社会 【政策・岸田政権の愚策】 2025年04月05日 07:15:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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