路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【日米安保】:「宗主国なき属国」という最悪の形態 ①

2024-08-09 23:52:20 | 【日米安保・地位協定・在日米軍・在沖米軍・オスプレー・普天間移設、米兵の犯罪】

【日米安保】:「宗主国なき属国」という最悪の形態 ①<内田樹氏>

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日米安保】:「宗主国なき属国」という最悪の形態 ① <内田樹氏>

◆揺らぎつつある日米同盟。日米安保条約の正体

 
 

 日米安保条約改定から60年を迎えようとしている今、日米同盟が大きく揺らぎつつある。  アメリカのトランプ大統領は以前から在日米軍の撤退をちらつかせるなど、日米安保を軽視する姿勢を見せてきた。最近では駐留経費の負担を増やすように要求してきている。「「米軍に駐留してほしければもっとカネを出せ」という態度は、とても同盟国のものとは思えない。 『月刊日本 2020年1月号』では、揺らぎつつあるニチベイ安保について、「日米安保条約の正体」と題した特集を組んでいる。今回はその中から、思想家、内田樹氏の論考を転載・紹介したい。

日米関係イメージ

たわばう / PIXTA(ピクスタ)

◆アメリカの自己都合によって作られたシステム

 
 

―― 2020年で日米安保条約改定から60年になります。アメリカから日米同盟を軽視するような発言が聞こえるいま、改めて日米安保のありかたを考える必要があると思います。 内田樹氏(以下、内田):日米安保条約について議論する際には、個々の条文を取り上げて、その適否や有効性を議論してもあまり意味がないと思います。それよりは、どうしてこのような条約が締結され、今に継続するに至ったのか、その歴史的な文脈を見ないと日米安保の本質は見えてきません。  当時の経緯を振り返ると、第二次世界大戦終結後、日本の占領政策を決定する極東委員会は、天皇制の廃止を検討していました。アメリカ国内での世論調査でも昭和天皇を裁判にかけて刑に処すべきだという意見が7割に達していました。しかし、マッカーサーの現場感覚では、ここで天皇を法廷に引き出し、天皇制の存否の議論を始めると、日本統治が難しくなることが分かっていた。すでに東西冷戦が始まっており、朝鮮半島情勢も不安定でしたからアメリカには日本の治安維持のために何万もの軍人や行政官を送り込む余裕はありません。  とはいえ、「アメリカの抱え込む統治コストを削減するために天皇制を維持する」という理屈では国際社会を説得できない。そこで、仮に天皇制を残しても、日本が今後国際社会にとって脅威になる可能性が一切ないことを示すために、戦力も交戦権も持たない国にしたのです。これが憲法9条2項の意味です。天皇制存続と戦争放棄はバーターされていた。  しかし、直近まで東アジア最大の軍事国家であった日本の軍事力が突然ゼロになってしまうと、地政学的な不安定が生じる。なにより日本列島の防衛が不可能になる。ソ連は直前まで北海道に領土的野心を示していましたから、領土喪失のリスクは確かにあった。そこで、日本政府の要請に応えて米軍が駐留するというかたちで米軍駐留を正当化する日米安保条約が成立した。日米安保条約は天皇制維持・9条2項と三点でセットのものです。アメリカのこの時点での国益を最大化するために選択された一種の「不平等条約」です。  アメリカの国益最大化のための条約ですから、日本に米軍を駐留することのコストとベネフィットを按配して、損が多いと判断すれば、米軍は日本から引き上げるでしょう。トランプは「米軍に駐留してほしかったらもっと金を出せ」と言っています。それは今のアメリカは日本に米軍を駐留させる特段の必然性はないという考え方に多くのアメリカ市民が同意しているということを示しています。  そもそも現代は人間ではなくAIが戦争の中心ですから、沖縄の海兵隊のような原始的な兵科の有用性は減じている。  日本国内の日米同盟基軸論者たちも、内心ではアメリカが日本を見捨てるリスクを考え始めていると思います。だからこそ彼らはアメリカにとっての日本の軍事的有用性を必死にアピールしようとしている。特定秘密保護法案や安保法制はどちらも「米軍が日本列島でより活動しやすくする」ための出血サービスです。

◆日本人がベトナム戦争に感じた「やましさ」

 
 

―― 最近ではアメリカから「駐留経費をもっと出せ」などと言われても、安保批判や安保見直しの声があがることはほとんどありません。しかし、60年安保や70年安保の際には日本でも激しい安保闘争が繰り広げられていました。 内田:60年安保の時には、ふたたび日本人が今度は米軍の「二軍」として戦場に送られるのではないかという直接的な恐怖がありました。戦争が終わってからわずか15年ですから、「もう二度と戦争はしたくない」、「アメリカの戦争に巻き込まれるのはごめんだ」という厭戦気分は市民の間に非常に強かった。だからこそ、あれほど多くの人たちがデモに参加したのだと思います。ふだんは政治にかかわりをもたない町の蕎麦屋や魚屋までが「本日休業」の張り紙をして、デモに行った。あれほど多くの市民が参加した政治闘争は、日本近代史上では、後にも先にも60年安保が唯一のものでしょう。  逆に、70年安保闘争時点では、市民の間に「戦場に送られる恐怖」はもうほとんど感じられませんでした。あれは、本質的にはベトナム反戦闘争だったと思います。僕もリアルタイムで70年安保闘争の現場にいたので記憶していますが、運動の駆動力になっていたのは「やましさ」でした。日本は米軍の後方支援基地として戦争に加担し、戦争特需によって大きな利益を得ていました。いわばアジア人民の膏血を絞って経済的利得を手にしていたのです。  一方、ベトナムは最新鋭の武器を持つ世界最強国を相手に本土決戦を行い、アメリカを打ち負かしました。このことも日本人に深い「恥の感覚」をもたらしたと思います。大日本帝国はベトナムよりはるかに強大な軍事力を持ち、数百万人の兵士を擁して、「本土決戦」をむなしく呼号しながら、アメリカに屈服した。それに比べて、日本よりもはるかに国力で劣るベトナムが、日本が戦った当時よりもさらに強大になった米軍に対して一歩も引かず戦い抜いている。そのことにもいても立ってもいられないほどの恥かしさを感じていた。

◆「永続属国体制」の確立

 
 

―― なぜ当時のような安保反対の声がなくなってしまったのでしょうか。 内田:変わったのは小泉政権以降だと思います。小泉政権はアメリカに対して「のれん分け戦略」をとっていました。対米従属を通じての対米自立という自民党の伝統的な対米戦略ですが、小泉政権はそれをさらに徹底させ、誤った政策を含めて、アメリカの全政策を支持するという極端な対米従属を実施した。そうすることによって、アメリカからイーブンパートナーとして信頼され、「これからはお前も独立して、自分の店の主となって、あとは自分の才覚で商いをしなさい」という許諾をいただくというのが「のれん分け戦略」です。  当時のアメリカ大統領はジョージ・W・ブッシュアメリカ史上最も無能な大統領の一人でした。彼は国際社会では評価されず、国内でも支持率が低かったにもかかわらず、小泉首相はその政策のすべてを支持するという荒業により、かつてないほど親密な日米関係を築きました。そして、その信頼関係をベースにして、アメリカと「五分の盃」に持ち込んで、事実上の対米自立を果たすことができるのではないか・・・と考えて、2005年に日本は国連安全保障理事会の常任理事国へ名乗りを上げます。安保理でアメリカと机を並べ、国際社会をリードすることでアメリカからも一目置かれる存在になることを夢見たのです。  でも、結果は惨憺たるものでした。アジアで日本の安保理入りを支持してくれたのは、ブータンとモルディブ、アフガニスタンの3か国だけだったのです。国際社会は日本が常任理事国入りしてもアメリカの票が一票増えるだけだと考えた。アメリカに完全従属することで日本はたしかにアメリカの信頼を獲得したわけですけれど、それとトレードオフで国際社会からの信頼を失った。こうして、政治大国化することで対米自立を果たすという「のれん分け戦略」は無残な失敗に終わりました。この時点でもう日本には対米自立のためのカードがなくなったのです。  その後、2009年に鳩山政権が誕生して、沖縄米軍の基地の県外・国外移転を求めたとたんに、日本の日米同盟基軸論者たちが襲い掛かって、彼を政権の座からひきずり下ろしました。これは別にアメリカが主導したものではないと思います。日本の「対米従属マシーン」が発動したのです。外務省や防衛省、さらには検察までをフル動員し、鳩山・小沢という対米自立論者の政治生命を奪おうとした。  この時点で、日本のエスタブリッシュメントはもう対米自立という国家目標を放棄したのだと僕は思います。もう永遠にアメリカの属国として生きていくという覚悟を固めた。その永続属国体制を前提に、属国内部で出世して、個人的な利益をはかるという方向に目標を下方修正した。  その帰結が現在の安倍政権とそれを取り囲む縁故政治受益者たちの群れです。彼らにはもうアメリカから独立して、国家主権を回復するような壮図はありません。属国体制を永続させ、その中でどれだけ自分が「いい思い」をできるか、それだけを考えている。  さらに深刻なのは、「もう属国のままでいい」というこの堕落した指導者たちを日本の有権者が支持しているということです。有権者たち自身がすでに属国民マインドを深く内面化してしまった。内閣支持の理由の第一は「安倍さんしかいないから」というものですが、それは「ホワイトハウスが安倍政権を信認しているから」という意味です。日本の統治者の最優先の資格は「宗主国の王様に属国の代官として認証されていること」だと有権者自身が信じているのです。

 

(12月4日インタビュー、聞き手・構成 中村友哉) うちだたつる●神戸女学院大学名誉教授。Twitterは@levinassien

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

 HARBOR BUSINESS online 【政治・経済】 2019年12月23日 09:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 


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