◆バブル時代の負の遺産、五輪誘致も大失敗
企業進出は進まず、咲洲に建設された旧大阪ワールドトレードセンタービル(現在は大阪府咲洲庁舎)やアジア太平洋トレードセンターは空室だらけに。大阪市も出資する運営会社は経営破たんし、「テクノポート大阪」計画は2009年に白紙に戻されました。この間に投じられた事業費は、3島合計で8000億円に達したとされています。
大阪市はこの間、湾岸地区の起死回生を狙ってさまざまな策を講じました。その1つが夏季五輪の誘致です。当時の構想によると、「海のオリンピック」をテーマとして2008年の五輪を開催。主な会場を人工島とし、舞洲にはメーン会場のスタジアムを建設する一方、夢洲には選手村を整備し、五輪終了後には4万5000人が暮らす住居に転用するという計画でした。
ところが、開催地を決める2001年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で、大阪市は全102票中、わずか6票しか得られませんでした。立候補5都市の中では、ダントツの最下位。その瞬間、「五輪で港湾地区を活性化させる」という構想はあえなく潰えたのです。
その後、咲洲はコスモスクエア地区を軸として、研究開発・教育施設、ビジネス拠点、ホテル、集合住宅などが整備されていきました。舞洲にはプロ野球オリックス・バファローズの2軍施設ができたほか、野球場や陶芸館などのスポーツ・レクレーション施設が並びました。
土地の有効活用が最も遅れていたのが、今回の万博会場となる夢洲です。3つの人工島のうち最も西に位置し、大きさは東西に約2.5km、南北に約1.8km。総面積は約390ヘクタールに達し、甲子園球場のおよそ100個分の広さがあるとされています。
夢洲の歴史が始まったのは1977年でした。この年、国は大阪市に対して埋め立てを許可し、大阪市は廃棄物の最終処分場としての利用を開始。大阪湾の浚せつ土や建設残土、一般廃棄物、ゴミ焼却後の灰などが運び込まれ、埋め立てが進んでいきます。
しかし、当初の「6万人が暮らす新都市」を夢洲につくる構想は頓挫。広大な主要開発エリアの使途は東部の埠頭用地を除いてなかなか決まらず、他の2つの島と比べて「負の遺産」の度合いが濃くなっていました。
その窮地を脱する策として浮上したのが、カジノを軸にしたIR(統合型リゾート)構想と大阪・関西万博です。
◆カジノ構想はうまくいく?
夢洲を舞台としたカジノ構想が動き始めたのは、2000年代後半のことです。2009年、人工島の活性化を話し合う官民の協議会で、当時の橋下徹・大阪府知事は「コンベンション機能を強化するにはカジノが重要な視点になる」と表明。カジノ構想が動き始めました。そして、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」、いわゆるIR法に基づき、2023年9月に大阪IR計画が国の認可を受けました。
IRの用地は夢洲の中央部北側で、事業主体はオリックスや日本MGMリゾーツなどが出資する「大阪IR株式会社」です。
計画では、日本初のカジノ施設のほか、国際会議場や国際展示場、ホテル、劇場などを配置。日本では賭博罪に当たるカジノも例外的に合法になります。約5200億円と見込まれている年間売り上げの約8割はカジノによるものと予想されていますから、米国のラスベガスや韓国・済州島のようなカジノを核とした巨大な複合施設が稼働することになります。
夢洲で始まる大阪・関西万博の会場は155ヘクタールの広さがあり、大阪IR用地の南側に位置しています。万博の開催期間は半年間で、今年10月13日までですが、その跡地はどう利用されるのでしょうか。
大阪府と大阪市が公表している計画案によると、「万博の理念を継承し、国際観光拠点形成を通じて『未来社会』を実現するまちづくり」を目指すとし、用途ごとに用地を4区画に分けて開発します。
中心となるのは「グローバルエンターテインメント・レクリエーションゾーン」で、サーキットや高級ホテル、世界最大級のプールを整備。外国人旅行者を念頭に「非日常空間」を提供するとしています。また、別のエリアでは、先端医療や生命科学に関連する施設を導入する計画です。
大阪府の吉村洋文知事は跡地利用について、「圧倒的な非日常空間」を夢洲につくると語っています。大阪市の資料によると、2023年度までに費やされた夢洲の埋め立て事業費は約3400億円。テクノポート計画や五輪誘致に次々と失敗した夢洲は「ペンペン草が生える負の遺産。(過去に)数千億円をかけても何もできなかった」(吉村知事)場所でした。
1990年代には有害物質のPCB(ポリ塩化ビフェニール)を含む土砂が埋め立てられていたことが発覚したことがあり、万博会場の一角では今月に入って爆発しうる濃度のメタンガスも検出されています。
万博とカジノはこうした過去を帳消しにし、問題を解決し、夢洲を大阪・関西地区の繁栄の拠点にすることが本当にできるのでしょうか。
■フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。
元稿:JBPress 主要ニュース 経済 【企業・産業・大阪・関西万博】 2025年04月11日 08:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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