《社説①・04.02》:25年度予算成立 「熟議の国会」はまだ遠い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・04.02》:25年度予算成立 「熟議の国会」はまだ遠い
熟議の結果とは言えないだろう。
2025年度予算が成立した。衆院で少数与党となった石破政権は、野党の要求を踏まえて、衆院に続いて参院でも予算案を修正した。
参院で修正された予算案が衆院の同意を得て成立するのは、現行憲法になって初めてだ。異例の展開である。
石破茂首相はきのうの記者会見で「党派を超えた協議の成果を取り入れ、成案が得られた。熟議の国会の成果」と強調している。
実態は異なる。非公開の与野党協議が水面下で進み、政策決定の不透明さが際立った。高校授業料無償化などの審議では踏み込み不足が明らかだ。高額療養費制度を巡っては政権が迷走した。
恒久財源の確保を先送りして予備費に頼ったことも、責任ある政党の姿勢ではない。夏の参院選を控えて、主要野党がそれぞれ目玉とする政策をアピールすることを優先した結果である。
衆院での修正は、高校授業料無償化と、所得税が生じる「年収103万円の壁」の160万円への引き上げだ。さらに参院送付後、石破首相が高額療養費制度の自己負担額上限引き上げについて全面凍結を表明し、再修正した。
与野党協議は細部まで議論が尽くされなかった。高校授業料無償化は都市部に恩恵が集中し、公立離れが加速する懸念が拭えない。
年収の壁見直しは、減税効果を幅広い層にもたらす一方、歳入減を抑えるため制度が複雑化した。高額療養費制度では政府が当初、批判を受け止めず、結果的に3度にわたって方針を転換した。
財源も問題だ。高校授業料無償化では1064億円、高額療養費制度関連では160億円が必要になった。年収の壁引き上げでは税収が6210億円減った。
いずれも恒久財源が必要なのに、25年度予算は一般予備費などを活用して穴を埋めた。26年度から始まる高校授業料無償化の私立加算引き上げの財源は未定のままだ。熟議不足は明らかである。
とはいえ、少数与党が野党の主張を取り入れ予算案を修正したことは、あるべき国会運営の一端を示した面もある。自民党1強時代に国会軽視が目に余ったことを顧みれば、民主主義の熟成に向けた一歩ととらえたい。
後半国会では、与野党で主張が大きく異なる企業・団体献金の在り方や、選択的夫婦別姓制度などが焦点になる。公開の場で与野党が議論を尽くし、国民が納得できる結論を出さなければならない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年04月02日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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