【社説】:こども家庭庁/社会全体で支える政策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:こども家庭庁/社会全体で支える政策を
政府は、「こども家庭庁」を2023年4月に創設する法案を国会に提出した。
この新しい組織は、子どもがもっと生きやすく、子育てがしやすい社会の実現に向け、関連政策を一元的に担う司令塔になるという。首相直属機関で内閣府の外局とし、民間の人材を登用して300人超体制でのスタートを目指す。
掲げられた目的は理解できるが、実効性ある取り組みとするには問題が多い。設置ありきとせず、徹底的に法案の内容を審議すべきだ。
岸田文雄首相は菅前政権からこども庁構想を引き継ぎ、「子ども目線に立って縦割り行政をなくす」と述べてきた。ところが法案で示された組織は、縦割り解消にはほど遠く、政権の本気度が疑われる。
保育所や虐待防止を担当する厚生労働省の部署と、子どもの貧困や少子化対策を受け持つ内閣府の部署は、こども家庭庁に移る。
一方、幼稚園や義務教育、いじめ対策は引き続き文部科学省が担う。権限の移管に文科省が反対したためだ。共働き世帯が増える中、保育所と幼稚園の垣根を取り払う「幼保一元化」の必要性が叫ばれてきた。にもかかわらず、この機会に実現しなかったのは残念と言うしかない。今後も検討を続けてもらいたい。
こども家庭庁の担当大臣は他省庁に政策の是正を求める「勧告権」を持つが、強制力はない。責任の所在があいまいなままで、司令塔の役割を果たせるのか疑問が残る。
肝心の財源確保策もはっきりしない。日本の子育て関連予算は欧米と比べて低水準にあり、政府の子ども政策の有識者会議は思い切った財源投入を求めている。次世代に負担を先送りしないよう、社会保障や税制を踏まえた議論が不可欠だ。
こども家庭庁の設置と併せ、急がれるのは、子ども政策の基盤となる基本法の制定だ。子どもの権利を保障し、政策に子どもや若者の声を取り入れる仕組みが求められる。
基本法案では、虐待やいじめなどについて調査、勧告する第三者機関「子どもコミッショナー」の新設が検討されている。英国やノルウェーに先例がある。子どもの多くは権利侵害を自ら訴えるのが難しい。自民党の一部議員は反発するが、行政から独立し、権限を持つ組織の重要性は高いといえる。
「今こそ、子ども政策を強力に推進し、少子化を食い止める」。こども家庭庁創設の基本方針は、こう記す。子育てを家族だけの責任にするのではなく、社会全体で支えるという共通認識を広げて政策に反映させることで、次世代の健やかな成長を後押しする必要がある。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年03月23日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。