spin out

チラシの裏

二重の影

2014年10月24日 | SF
最近なにかと話題のサンリオSF文庫で、「二重の影」という作品が出ていました。
オーストラリアの作家(というより詩人、編集者)、フレデリック・ターナーの唯一の翻訳です。
これに「源氏物語」の六条御息所から取られたとおぼしき「高級娼婦六条」が出てきます。
その侍女が葵という名であるところからも、「源氏物語」からの借用であることは確かですし、
後書きにある作者の覚書で「モデルの一つとして紫式部の書いた日本の10世紀の宮廷を選んだ」とあるので、
「源氏物語」からいくつかインスパイアされていることは明らかです。


大筋は、超科学で変容した火星世界の王族の2つの家が「資格戦争」という大儀で戦うというハナシですが、
プロローグで火星をテラフォーミングする集団の一人が書いた小説、という設定がなされているので、
小説内小説、ですね。
超科学により物質的な欲望はすべて叶えられている社会で
(自殺さえ選ばなければ死からよみがえることも可能)、
ヒトが行動する規範はなにか、というエクスキューズに対して
作者は「美学」しかないと言いきっています。

2組のカップルが主役を演じるのですが、片方はフツーの男女の組み合わせに対し、
両性具有者同士(しかも姉と弟)というタブー破りのペアが絡んできます。
小難しそうな観念小説、というわけでもなく、ちゃんとチャンバラもありますし、
火星の大渓谷を舞台にした生身の空中戦闘もあります。

両性具有者同士はクレオパトラとナルキッソスという名前がありつつ、
ストーリーはまるでオイデップス神話のようなハナシへとスライドしていきます。

ナノテクノロジー、遺伝子工学など、プロパーのSF作家ではないはずなのに、
濃厚なSF描写に驚きます。さらにエロ要素も満載です。
こう言ってはホントに失礼ですが、超高踏的なラノベと見ることも可能ではないかと。

大昔に読んだときは最後まで「?」だったのですが、
ちょいと「源氏物語」関係のところだけ読むつもりが、結局最後まで読んでしまいました。
いま読んで面白かったのは、こっちがそれなりに成長したからか。
ディレーニイ(とくに「ノヴァ」あたり)が好きな人にはオススメですよ、これ。
裏表紙の解説はイミフなので、あまり気にしないほうがいと思います。

ターナーの汽罐車 山下達郎
作品中にもターナーの絵のことが出てきます。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« サンリオSF文庫総解説 | トップ | 人情裏長屋・ぶらり信兵衛道... »

コメントを投稿

SF」カテゴリの最新記事