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●違法・違憲オジサン…《「裸の王様」…取り巻きの同調意見ばかり聞き入れ、学者の正論に耳をふさげば、宰相はそう呼ばれてしまいます》

2020年11月22日 00時00分11秒 | Weblog

[※《自助》大好きオジサン・元最低の官房長官と学商日刊ゲンダイ 2020年9月7日 )↑]



東京新聞の【社説/憲法と学問の自由 迫害の歴史の果てに】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/66202?rct=editorial)。

 《◆戦前には学説も弾圧 でも身辺は一変します。一八三七年に新しい国王は自由主義的な憲法の無効を宣言しました。旧体制を復活させようとしたのです。そんな国王の専横に立ち上がったのがグリム兄弟でした》。

 《芦部信喜氏は「憲法」(岩波書店)…<学問の自由ないしは学説の内容が、直接に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて、とくに規定されたものである>》…そんなことも理解できない違法・違憲オジサン。なぜ6人「だけ」を任命拒否したのか?、こんな簡単な質問に答弁できず…《政府を批判する者は排除する》のが本音でしょうに。《そういえばアンデルセンの名作には「裸の王様」も…。取り巻きの同調意見ばかり聞き入れ、学者の正論に耳をふさげば、宰相はそう呼ばれてしまいます

   『●《キンモクセイで世間の鼻をごまかし、学問の自由、言論の自由を
         脅かしかねない「腐臭」に気付かせぬようにしている》(筆洗)
   『●西日本新聞【例えるなら、こんな話か。授業が始まるのに数人の
     子が…】…取り巻きが《デマを流してまでも、必死で政権擁護》の醜悪

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https://www.tokyo-np.co.jp/article/66202?rct=editorial

社説
憲法と学問の自由 迫害の歴史の果てに
2020年11月4日 07時23分

 「シンデレラ」「赤ずきん」「白雪姫」…。「グリム童話集」にあるお話です。十九世紀にグリム兄弟がドイツの民話を集め、まとめたことで知られます。

 もともと兄のヤーコプと弟のウィルヘルムは言語学者・文献学者でした。ドイツ北部に当時あったハノーバー王国のゲッティンゲン大学で教えていました。兄は講義の初めに「思想は稲光であり、言葉は雷鳴である」と語ったそうです。文学者らしい逸話です。


◆戦前には学説も弾圧

 でも身辺は一変します。一八三七年に新しい国王は自由主義的な憲法の無効を宣言しました。旧体制を復活させようとしたのです。そんな国王の専横に立ち上がったのがグリム兄弟でした。法学者や物理学者ら五人の仲間とともに、抗議文書を提出したのです。

 兄弟ら七人は免職処分になってしまいました。三日以内に王国を去れと…。「ゲッティンゲン七教授事件」と呼ばれます。兄弟は後にプロイセン王に招かれベルリン大学に勤め、「ドイツ語辞典」の編さんに人生をささげます。

 学者の研究や学説、あるいは意見に対し、国家権力が迫害を加えた事例はいくらもあります。日本では戦前の滝川事件がそうです。

 一九三三年に京都帝大の刑法学者・滝川幸辰(ゆきとき)教授の講演や著書に危険思想があるとして、休職処分にされた事件です。法学部の教授たちは抗議して辞表を提出。当時の新聞には「京大法学部は閉鎖の運命」などの見出しが躍りました。

 三五年には天皇機関説事件がありました。国家を法人にたとえ、天皇はその最高機関である。そんな美濃部達吉氏の学説を右翼などが攻撃しました。美濃部氏は公職を追われ、著書も発禁となりました。やがて日中戦争、太平洋戦争です。戦争への序曲に「学問」への弾圧があったのです。


◆自由への政治介入だ

 明治憲法にない「学問の自由」が、なぜ日本国憲法に定められたのか。名高い憲法学者の芦部信喜氏は「憲法」(岩波書店)で、滝川事件や天皇機関説事件を引きつつ、こう記しています。

 <学問の自由ないしは学説の内容が、直接に国家権力によって侵害された歴史を踏まえて、とくに規定されたものである

 学問研究や発表の自由にとどまりません。自由な研究を実質的に裏付けする研究者の身分保障、さらに政治的干渉からの保護−条文にはそんな意味があります。学問領域には自律がいるのです。

 憲法制定当時の議論も振り返ってみます。四六年の衆院で新憲法担当大臣の金森徳次郎氏は中国・始皇帝の焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)や、ダーウィンの進化論、天動説・地動説の論争を採り上げて答弁しています。

 <公の権力を以(もっ)て制限圧迫を加えない。(中略)各人正しいと思う道に従って学問をしていくことを、国家が権力を以て之(これ)を妨げないことです

 実は金森氏自身が天皇機関説事件に巻き込まれました。当時、法制局長官だった金森氏は帝国議会で「学問のことは政治の舞台で論じないのがよい」と答弁し、自著にも機関説の記述があったため、議会でつるし上げられ、三六年に退官に追い込まれたのです。「学問の自由」は弾圧の歴史を踏まえた条文だと当時は誰もが思っていたことでしょう。

 さて日本学術会議の会員に六人の学者が首相によって任命を拒否された問題は混迷を極めています。なぜ拒否したのか首相は国会でも明言を避け、暗に政府を批判する者は排除するがごとき風潮をつくっています。

 むろん多くの団体などが「違憲・違法な決定だ」と抗議の声明を発表しています。「自由への介入」で、権力の乱用にあたると考えます。何より歴代政権も「首相の任命は形式」だったのですから。どんな理由があれ、法令の読み方に従い、学術会議の推薦どおり首相は任命すべきです。

 そもそも学者の意見は、仮に政府と正反対であっても、専門性ゆえに尊重すべきです。原子爆弾に結びつく理論の発見をしたアインシュタインも戦後、英国の哲学者ラッセルとともに核廃絶と科学技術の平和利用を訴えた宣言を出しました。人類への忠告でした。


◆見識には耳を傾けて

 学者には政治から離れた良心に基づく見識が求められているのです。この境界線を突破されれば、またも全体主義への道を進みかねません。

 グリム兄弟と同時代を生きた童話作家にデンマークのアンデルセンがいます。「ヤーコプ・グリムは人が愛さざるをえないような人柄」との人物評が残っています。

 そういえばアンデルセンの名作には「裸の王様」も…。取り巻きの同調意見ばかり聞き入れ、学者の正論に耳をふさげば、宰相はそう呼ばれてしまいます
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●《キンモクセイで世間の鼻をごまかし、学問の自由、言論の自由を脅かしかねない「腐臭」に気付かせぬようにしている》(筆洗)

2020年10月24日 00時00分17秒 | Weblog

[※《自助》大好きオジサン・元最低の官房長官と学商 (日刊ゲンダイ 2020年9月7日 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/278353)↑]



週刊朝日の記事【「杉田官房副長官、和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る】(https://dot.asahi.com/wa/2020100400007.html)。
西日本新聞のコラム【春秋/「学匪(がくひ)」とは、学問や知識で民心を惑わし…】(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/650789/)。日刊スポーツのコラム【政界地獄耳/東大総長選考にも疑惑…菅は裸の王様か】(https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202010070000088.html)。

 《安倍政権は人事権によって官僚や審議会を支配してきました。その中心にいたのが菅さんです。気に入らない人間は飛ばす、気に入れば重用する。これは彼らの常とう手段なんです》。
 《▼今は日本国憲法23条に「学問の自由」が明記されている。戦前、戦中のような圧力や弾圧はあり得ない…はずだが。かつてこの国を覆っていた空気と通底するような嫌な感じに胸がざわつく》。
 《ただ、この学術会議への介入の前に東大総長選挙にも政治関与の疑いがある。★2日、東大総長・五神(ごのかみ)真の任期満了に伴う総長選考では、来年4月からの次期総長に理事で副学長だった藤井輝夫が決まった。従来は「第2次総長候補者」が決まると候補者の氏名が公表され、全学の教授会構成員(教授、准教授、教授会を構成する講師)による本選投票が行われ、通常はこの本選で過半数を得た候補を、総長選考会議が「総長予定者」として文科相に上申、任命となる。しかし2次選考では代議委員会の投票で選ばれる1次選考でトップだった理事で副学長・宮園浩平の名前が消え、学内には2次選考の過程で「公平性・透明性に大きな問題がある」との指摘がある》。

 今度は《人事介入》大好きオジサンに。その源流はアベ様にあったようで、これも《継承》。法的には学術の実績での判断しかないのに、《総合的・俯瞰》に何を検討したのか? しかも、6人が既に除外(←これまた大変に失礼)された99人のリストしか見ていないと言い始めるとはね…。

   『●〝前川喜平になるな佐川宣寿になれ〟!?
      「官邸べったり」藤原誠官房長の文科事務次官への昇格人事
    「「前川喜平になるな佐川宣寿になれ」ってこと!?  つまり、
     《政権・官邸の意向に服従しろ》。文部科学省内で《安倍首相が力を入れる
     教育の国家主義化、愛国主義化の強化》してくれそうな、《官邸べったり》
     《官邸のイエスマン》藤原誠官房長の文科事務次官への昇格人事。
     こんな好き勝手な人事、《ロコツな“官邸人事”》で各省がズタズタに…。
      それでも少しはましな「人物」ならまだしもね…。下足番紙にデマを
     リークした官邸の意を受け、《和泉洋人首相補佐官の代理人として前川氏を
     黙らせるために暗躍》。それに、続・大惨事アベ様内閣の文科相が
     アレですものねぇ」

   『●前川喜平さん《社会全体が子どもたちを支えられるように、子ども
     たちに税金を使う仕組みを作らなければいけない》…逆行するアベ様政権

 人事介入も《継承》。
 リテラの記事【日本学術会議への不当人事介入は安倍政権時代から始まっていた! 安倍の意向を汲んだ杉田官房副長官と菅首相が…】(https://lite-ra.com/2020/10/post-5665.html)によると、《やはり問題の発端は安倍政権だった──。菅首相による日本学術会議の任命拒否問題をめぐり、安倍政権時代から露骨な官邸による人事介入がおこなわれていた、その詳細がわかってきたからだ。その詳細を証言しているのは、2011年から2017年まで日本学術会議の会長を務めた大西隆・東京大学名誉教授。大西元会長に取材をおこなった毎日新聞の本日朝刊記事によると、〈14年10月以降のある時点で、官邸側から「最終決定する前に候補者を説明してほしい」と要求された〉という。本格的な介入がおこなわれたのは、2016年の夏。会員が定年を迎えたことで〈人文・社会科学系の1人と理工学系の2人〉の3つのポストが空いたことに伴う補充人事でのことだ。このとき、日本学術会議側は安倍官邸からの要求に沿うかたちで〈1ポストにつき各2人計6人〉を報告。しかし、安倍官邸は理由を説明することもなく2ポストで優先順位1位と2位の差し替えを要求したというのだ。この要求を日本学術会議側は応じなかったため、3人の補充はおこなわれず欠員となったが、これにより、さらに安倍官邸はより強権的な態度に出た。2016年12月、大西会長は官邸で官房副長官と面会したが、ここで官房副長官は2017年10月の会員半数改選にかんして〈総会承認前の選考状況の説明と、改選数より多めに候補者を報告すること〉を要求してきたというのである。大西元会長は毎日新聞の取材でどの官房副長官かその名前を出してはいないが、この人物は杉田和博官房副長官だと朝日新聞が報じている。言わずもがな、杉田官房副長官といえば、安倍政権下で菅義偉氏が“官僚の監視”を担わせ、自身が総理就任にあわせた人事でもそのまま再任させた人物である。結果として、この杉田官房副長官による“横やり”に対し、大西会長は2017年6月、改選人数の105人に数人を加えた110人超の会員候補者リストを杉田官房副長官に提示。このときは安倍官邸から異論は出なかったといい、日本学術会議が推薦した105人をそのまま安倍首相は任命した》。

 《▼だが、軍国主義が台頭する中で、天皇を絶対的な主権者とする軍部と衝突。その圧力で学説は公然と否定された。美濃部は不敬罪で告発され、著書も発売禁止処分となった ▼今は日本国憲法23条に「学問の自由」が明記されている。戦前、戦中のような圧力や弾圧はあり得ない…はずだが。かつてこの国を覆っていた空気と通底するような嫌な感じに胸がざわつく》。

   『●壊憲…「緊急事態という口実で、憲法が破壊される恐れが
          …ヒトラーは非常事態を乱用して独裁を築いた」
    《歴史の読み方として、一九三五年を分岐点と考えてみる。
     天皇機関説事件があった年である。天皇を統治機関の一つで、
     最高機関とする憲法学者美濃部達吉の学説が突如として猛攻撃された。
     なぜか。合理的すぎる、無機質すぎる-。現人神である天皇こそが
     統治の主としないと、お国のために命を捧(ささ)げられない。
     「天皇陛下万歳」と死んでいけない。機関説の排除とは、
     戦争を乗り切るためだったのだろう。それまで「公」の場では
     神道と天皇の崇拝を求められたものの、「私」の世界では何を
     考えても自由なはずだった。だが、事件を契機に「公」が「私」の
     領域にまでなだれ込んでいった。それから終戦までわずか十年である》

 別件なのですが、通底。《ただ、この学術会議への介入の前に東大総長選挙にも政治関与の疑いがある》。
 あぁぁ…これって色々な大学で起きていることなのでは…。《1次選考でトップだった理事で副学長…の名前が消え》ていた。一体どんな論理? 《総長選考会議》的なものが…文科省への何かの忖度?

   『●ジャパンライフ元会長が詐欺容疑で逮捕…一体何年放置? そして、
      大惨事アベ様政権は「桜を見る会」の中止を表明して疑惑・腐臭に蓋

 腐臭に蓋する大惨事アベ様政権。
 東京新聞のコラム【筆洗/十月になってキンモクセイの甘い匂いが濃くなってきた。別名に…】(https://www.tokyo-np.co.jp/article/60202?rct=hissen)によると、《…「九里香」。春先の沈丁花(じんちょうげ)が「七里香」なので、キンモクセイの方が二里分、香りが強く遠くまで届くということか。…▼その陰でいやな臭いも漂う。日本学術会議の問題である。政権の気にいらぬ学者をメンバーに加えることを拒否し、その理由さえ説明できない。キンモクセイで世間の鼻をごまかし、学問の自由言論の自由を脅かしかねない「腐臭」に気付かせぬようにしているとは言い過ぎか▼匂いの実験によるとネズミはどんなに食欲をそそる匂いの中にいても、ひとたびネコの匂いを嗅ぐとその場を離れるそうだ。ネズミの鼻だけは働かせておいた方がよさそうである》。

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https://dot.asahi.com/wa/2020100400007.html

「杉田官房副長官、和泉補佐官に政権批判した学者を外せと言われた」学術会議問題を前川喜平氏語る
吉崎洋夫 2020.10.4 12:42 週刊朝日

     (菅義偉首相(C)朝日新聞社)
     (前川喜平元文科事務次官(C)朝日新聞社)

 菅義偉首相が日本学術会議の推薦した委員の任命を拒否したことを受けて、学術界に激震が走った。政府からの独立を維持してきた学術界をも、菅政権は官僚と同様に支配しようと踏み込んできたからだ。いったい何が起こっているのか。元文部科学省事務次官の前川喜平氏が本誌インタビューで問題点を語った。

*  *  *

 今回の問題は菅政権で起こるべくして起こったという感じですが、手を出してはいけないところに手を出してしまいました。

 安倍政権は人事権によって官僚や審議会を支配してきましたその中心にいたのが菅さんです気に入らない人間は飛ばす、気に入れば重用するこれは彼らの常とう手段なんです。

 私が事務次官だったとき、文化審議会文化功労者選考分科会の委員の候補者リストを官邸の杉田和博官房副長官のところにもっていきました。

 候補者は文化人や芸術家、学者などで、政治的な意見は関係なしに彼らの実績や専門性に着目して選びます。それにもかかわらず杉田さんは安倍政権を批判したから」として、二人の候補者を変えろと言ってきました。これは異例の事態でした。

 他にも菅さんの分身とも言われる和泉洋人首相補佐官が文化審議会の委員から西村幸夫さんを外せ、と言ってきたこともありました。西村さんは日本イコモス委員長です。安倍首相の肝入りで「明治日本の産業革命遺産」が推薦され、15年に世界遺産に登録されましたが、この産業革命遺産の推薦を巡り難色を示していたのが、西村さんでした。任期が来たときに、文科省の原案では西村さんを留任させるつもりでしたが、和泉さんが「外せ」といい、外されました

 官僚についても同じようなことを繰り返してきましたよね。本来、内閣から独立している人事院を掌握し、憲法の番人」と言われた内閣法制局も人事で思い通りにした成功体験を積み重ねてきた。それで検察の人事にも手を出したが、これは失敗。でも、まだ諦めていないでしょうね。そしてその支配の手を学問の自由にも及ぼそうとしている

 今回も官僚や審議会の人事に手をつっこむような感じでやってやろうと思ったんでしょうね。しかし、致命的なのは、日本学術会議が科学者の独立した機関だという理解がなかった点です。

 憲法では学問の自由」「思想の自由が保障されている。国家権力が学問や思想を侵害してはならないとなっている。だから、日本学術会議の独立性は強いんです。

 しかし、今回の任命の問題は、日本学術会議の独立性を脅かすことになる日本にいる約87万人の科学者を敵に回したといっても過言ではありません。安倍さんも菅さんも法学部出身なのに、憲法を理解していないんでしょうかね。授業中、寝ていたのでしょうか。任命しないというのであればその理由をはっきりと説明するべきです。

 日本学術会議法には「会員は(日本学術会議の)推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」とあります。「推薦に基づいて、任命する」というのは、原則的に、推薦通りに任命するということを意味します

 総理大臣の任命についても、憲法に「天皇は、国会の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する」とありますが、天皇陛下は拒否することはできません。「推薦に基づいて~」というのは、推薦通りに任命するのが原則なんです。

 1983年の国会答弁を見ても、「推薦をされたように任命する」ということを政府が認めています。ただ、100歩譲って、任命しないというのであれば日本学術会議が推薦した以上の理由をもって、説明しないといけない。彼らは学術的な実績を理由に推薦を受けています。その実績に「論文を盗用していた」などの明らかな問題があれば、拒否する理由になるでしょう。

 日本学術会議は内閣総理大臣の所轄です。菅さんには推薦を拒否する理由を説明する責任がありますが、「自分たちの意に沿わないからという以上の理由を説明できないでしょうね。

 政権にとって都合の悪い人間を排除していけば、学術会議が御用機関となります。それでは彼らの狙いは何かそれは軍事研究でしょう。

 政府は日本の軍事力強化に力を入れてきています。防衛省では15年に「安全保障技術研究推進制度」を導入しました。防衛省が提示するテーマに従って研究開発するものに、お金を提供する制度です。導入当初は3億円だった予算規模は、今では100億円にもなっています。

 他方で、日本学術会議では、1950年と67年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」と、「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」の二つの声明を出している。戦争に協力した反省からです。2017年にはこの二つの声明を継承することを表明しています。

 このときの日本学術会議会長の大西隆さんは「自衛目的に限定するなら、軍事研究を容認していい」という考えでしたが、他の委員から反対があり、「認めるべきではない」となった。

 菅政権にとっては学術会議のこういった人たちが目の上のたんこぶなんですね。最終的には日本の大学で軍事研究を進め、独自の軍事技術を持って、兵器をつくっていきたい、ひいては戦争に強い日本をつくりたいのでしょう。

 学者の方々は官僚のように“大人しい羊の群れ”ではないので、一筋縄ではいかないと思います。今回任命されなかった方々は憲法学者や刑法学者、行政法学者など日本のトップクラスの人たちです。

 しかし、今回の任命拒否は非常に怖いものでもある。1930年代に起こった滝川事件天皇機関説事件といった学問の弾圧を思い起こさせる。大学や学術の世界を国の意向に沿ったものにしようとしている

 安倍政権では集団的自衛権や検事長の定年延長について、憲法や法の解釈を都合よく変更してきました。定年延長では法を変えようとまでした今度は日本学術会議法まで変えようとするかもしれません

 今回の問題は、これまでの人事とは異次元の問題と見るべきだと思います。

(構成・本誌 吉崎洋夫)

※週刊朝日オンライン限定記事
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https://www.nishinippon.co.jp/item/n/650789/

春秋
「学匪(がくひ)」とは、学問や知識で民心を惑わし…
2020/10/3 10:40

 「学匪(がくひ)」とは、学問や知識で民心を惑わし、社会に悪影響を及ぼす学者や学生を指す。そう非難されて弾圧された人がいる。憲法学者の美濃部達吉

▼統治権は国家にあり、天皇はそれを行使する国家の最高機関とする「天皇機関説」。この美濃部の学説は大正デモクラシーや政党政治の思想的基盤となった

▼だが、軍国主義が台頭する中で、天皇を絶対的な主権者とする軍部と衝突。その圧力で学説は公然と否定された。美濃部は不敬罪で告発され、著書も発売禁止処分となった

▼今は日本国憲法23条に学問の自由が明記されている。戦前、戦中のような圧力や弾圧はあり得ない…はずだが。かつてこの国を覆っていた空気と通底するような嫌な感じに胸がざわつく

▼政府機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補105人のうち、6人の任命を菅義偉首相が見送った。安全保障法制や特定秘密保護法、「共謀罪」法、辺野古埋め立てなど、安倍晋三政権の看板政策に異を唱えた人たちだ。政府は見送りの理由を明かさないが、官房長官として前政権を支え、政策も継承するという首相だけに、なるほどね、とふに落ちる

▼「学匪」と呼ばんばかりに政権に批判的な学者を排除するのならば、学問の自由を踏みにじるものだと言われても仕方ない。首相は、指示に従わない官僚は「異動させる」と脅した人事で圧力をかける菅流は、学問の世界にまでも
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https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202010070000088.html

コラム
政界地獄耳
2020年10月7日7時55分
東大総長選考にも疑惑…菅は裸の王様か

★首相・菅義偉の日本学術会議への人事介入で首相は「日本学術会議というのは、省庁再編のなかで大議論を行ったところです。その結果として、総合的・俯瞰(ふかん)的活動を求めることになってますから、まさに総合的・俯瞰的活動を確保する観点から判断をした。これに尽きます」と任命拒否を説明したが、ご本人はこの説明を理解しているだろうか。6人の任命拒否された学者は省庁再編の犠牲者というのか。ただ、この学術会議への介入の前に東大総長選挙にも政治関与の疑いがある。

★2日、東大総長・五神(ごのかみ)真の任期満了に伴う総長選考では、来年4月からの次期総長に理事で副学長だった藤井輝夫が決まった。従来は「第2次総長候補者」が決まると候補者の氏名が公表され、全学の教授会構成員(教授、准教授、教授会を構成する講師)による本選投票が行われ、通常はこの本選で過半数を得た候補を、総長選考会議が「総長予定者」として文科相に上申、任命となる。しかし2次選考では代議委員会の投票で選ばれる1次選考でトップだった理事で副学長・宮園浩平の名前が消え、学内には2次選考の過程で「公平性・透明性に大きな問題がある」との指摘がある。

★「政策に反対する(幹部)官僚は異動してもらう」と公言する首相は法解釈の変更をしてでも権限を行使したいようだが、就任早々、裸の王様化している。「それだけは、やめた方が」などと意見を言おうものなら、即クビになるから官邸官僚や関係官僚全員が「おっしゃるとおり」と日々拍手している状態なのだろうこれぞ強烈な裸の王様だろう。今回は与党幹部からも苦言がでたが、その後ははっきりしない。つまり杉田水脈騒動と同じ構図、同じレベルかもしれない。このままうやむやか。(K)※敬称略
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●壊憲…「緊急事態という口実で、憲法が破壊される恐れが…ヒトラーは非常事態を乱用して独裁を築いた」

2016年09月11日 00時00分55秒 | Weblog


東京新聞の桐山桂一豊田洋一熊倉逸男の三氏による壊憲批判の10本の社説シリーズ。そのうちの後半5つ。
【今、憲法を考える(6) ドイツ「派兵」の痛み】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090502000140.html)、
【今、憲法を考える(7) 変えられぬ原則がある】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090602000128.html)、
【今、憲法を考える(8) 立憲・非立憲の戦いだ】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090702000131.html)、
【今、憲法を考える(9) ルソーの定義に学べば】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090802000138.html)、
【今、憲法を考える(10) 戦後の「公共」守らねば】(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090902000145.html)。

 《退役後も心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ若者の手記はベストセラーになった。独週刊誌シュピーゲルは、いやおうなく激戦に巻き込まれていった検証記事を掲載し、派兵を批判した。戦場では見境もなくエスカレートし、命を奪い合う。政治の論理や机上の作戦では、修羅場は見えない派兵への歯止めを外したドイツは今も苦しむ》。
 《戦勝国の米英仏は、基本法に盛り込むべき人権、自由の保障などの基本原則を示した。しかし、議会評議会議長アデナウアー(のちの首相)が主導権を握り、「押し付けられた」との意識はない。…改正が許されない基本原則もある。基本法七九条は、人間の尊厳の不可侵、民主的な法治国家、国民主権、州による連邦主義などに触れることは許されていないと規定している。いずれもヒトラー政権下で踏みにじられてきたものだ》。
 《もし「人権を奪う法案」が国会で可決されたらどうなるか…。たとえ多数決でも人権は奪えないと考えるのが立憲主義である。憲法に明記すれば、人権は守られる。どんな政治権力も暴走する危険があるから憲法の力で制御しているのだ》。
 《自民党は憲法を全面改定する草案を掲げ、安倍晋三首相が「それをベースに」と改憲を呼び掛けている。本丸は国防軍の創設だといわれる。だが、日本国憲法は軍事力を持つようにできていないので、九条を変えれば、書き換えねばならない箇所がいくつも出てくる。例えば首相の職務には軍事の規定が入るであろう。そもそも現行憲法とは思想が相いれない》。
 《だから、戦後のスタートは天皇が人間宣言で神格化を捨てた。政教分離で国家神道を切り捨てた。そして、軍事価値を最高位に置く社会を変えた。憲法学者の樋口陽一東大名誉教授は「第九条の存在は、そういう社会の価値体系を逆転させたということに、大きな意味があった」と書いている。軍国主義につながる要素を徹底的に排除した。そうして平和な社会の実現に向かったのは必然である。自由な「公共」をつくった》。

 壊憲批判シリーズの前半はこちら。

   『●「ト」な自民党改憲草案の押し付け…
     押し付けられた「押し付け憲法論は、賢明なる先人に対する冒涜」
    「東京新聞の壊憲批判の社説シリーズ5つ」

 壊憲し、9条を捨て去ればその先に待っているのは…? 《緊急事態という口実で、憲法が破壊される恐れがあると指摘したのだ。戦前の旧憲法には戒厳令などがあったヒトラーは非常事態を乱用して独裁を築いた》…トンデモの「ト」な自民党改憲草案がやろうとしていること。
 「ト」な自民党改憲草案は「国民主権の縮小、戦争放棄の放棄、基本的人権の制限」をやるそうです。凄いな~。2016年7月参院選では、そんな自公や「癒(着)」党の議員に鹿や馬のごとくバカバカと投票したわけです。オメデタイ。投票してしまって後悔していないのでしょうね。確信的? もし、投票してしまって後悔しているのであれば…「あとの祭り」。

   『●争点は「壊憲」: 「ト」な自民党改憲草案は
       「国民主権の縮小、戦争放棄の放棄、基本的人権の制限」
   『●「憲法九条…戦争放棄はGHQの指示ではなく、
       当時の幣原喜重郎首相の発意だったとの説が有力」
    《憲法九条です。戦争放棄はGHQの指示ではなく、
     当時の幣原喜重郎首相の発意だったとの説が有力》。
    《日本国憲法は、連合国軍総司令部(GHQ)に強いられたものであり、
     自らの手で作り替えたい》。
    「…押し付け? これまた、古い呪文、昔の名前をひたすら唱える
     アベ様の自公政権。「積極的平和主義」を愛する公明党も壊憲を
     あと押し。自公お維大地こそが壊憲を市民に強いているし、押し付けている

   『●花森安治さんの「「武器を捨てよう」は
      憲法押し付け論を批判し、9条の意義を説く一編」
   『●壊憲派の沈黙、押しつけ憲法論という思考停止: 
       「二項も含めて幣原提案とみるのが正しいのではないか」

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090502000140.html

【社説】
今、憲法を考える(6) ドイツ「派兵」の痛み
2016年9月5日

 日本と同じく敗戦国でありながらドイツは一九五〇年代、基本法(憲法)を改正し、再軍備を明記した。基本法を起草した西ドイツの議会評議会は、軍国ドイツ復活を警戒する米英仏を刺激することを避け、自国防衛の規定を入れなかった。
 ところが、冷戦の激化で情勢は一転。米国など西側陣営は、朝鮮戦争に危機感を強め、ソ連に対抗する北大西洋条約機構(NATO)を設立、再軍備を認める。
 基本法改正で軍を創設徴兵制(最長時兵役十八カ月、今は凍結)を導入した。
 ただし、派兵はNATO域内に限った。
 さらなる転機は一九九一年一月の湾岸戦争だった。ドイツは日本と同様、派兵を見送り、巨額の支援をしながらも国際的批判にさらされた。
 保守中道のコール政権は基本法は変えないまま、NATO域外のソマリア内戦国連平和維持活動(PKO)に参加し、旧ユーゴスラビア紛争では艦隊を派遣する。国内で激化する違憲・合憲論争を決着させたのが、連邦憲法裁判所だった。
 九四年、議会の同意を条件に域外派兵は可能、と判断した。指針が示され、軍事力行使拡大への道が開かれた。
 よりリベラルなはずの社会民主党・緑の党連立のシュレーダー政権は、ユーゴからの独立を宣言したコソボ問題でNATO軍のユーゴ空爆に加わった。「アウシュビッツを繰り返さない」-少数民族の虐殺を許さないという人道上の名目だった。
 同盟国と軍事行動に参加し、国際協調を貫く-そんなきれいごとだけでは終わらなかった。さらに戦争の真実を知らしめたのは、アフガニスタンへの派兵だった。
 ドイツが任されたのは安全とされた地域だったが、十三年間にわたる派兵で、五十五人の兵士が亡くなった市民百人以上を犠牲にした誤爆もあった
 退役後も心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ若者の手記はベストセラーになった。独週刊誌シュピーゲルは、いやおうなく激戦に巻き込まれていった検証記事を掲載し、派兵を批判した。
 戦場では見境もなくエスカレートし、命を奪い合う政治の論理や机上の作戦では、修羅場は見えない派兵への歯止めを外したドイツは今も苦しむ。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090602000128.html

【社説】
今、憲法を考える(7) 変えられぬ原則がある
2016年9月6日

 基本法(憲法)を六十回改正したドイツを例に挙げ、日本国憲法改正を促す声もある。国の分断時に制定された基本法の暫定的性格が改正を容易にした面もある。
 ドイツは、人間の尊厳不可侵など、基本法の基本原則は曲げてはいない。
 芸術を愛したバイエルン国王ルートウィヒ二世が築いた城があるヘレンキームゼー島。敗戦後、湖水にうかぶ景勝地に州首相らが集まって、草案をまとめた。
 草案をもとに、各州代表六十五人による議会評議会は、西ドイツの首都ボンで、八カ月かけて基本法を制定した。日本国憲法施行二年後の一九四九年だった。
 戦勝国の米英仏は、基本法に盛り込むべき人権、自由の保障などの基本原則を示した。
 しかし、議会評議会議長アデナウアー(のちの首相)が主導権を握り、「押し付けられた」との意識はない
 占領下だった。将来の東西統一後、選挙で選ばれた代表によって「国民が自由な意思で」憲法を制定するとし、基本法と名付けた。分断を固定させまいとの思いを込めた。
 しかし九〇年、新たな憲法制定より統一を急ぐことを優先し、基本法を旧東ドイツ地域にも適用する手法を採った。
 基本法の呼称のまま、国民に定着している。
 改正には上下両院の三分の二以上の賛成が必要だが、日本と違って国民投票の必要はない。
 国の根幹に関わったのは、軍創設と徴兵制導入に伴う五〇年代の改正、防衛や秩序維持など「非常事態」に対処するための六八年の改正だった。
 冷戦の最前線にあった分断国家が必要に迫られてのものだった。
 改正が許されない基本原則もある。基本法七九条は、人間の尊厳の不可侵、民主的な法治国家、国民主権、州による連邦主義などに触れることは許されていない、と規定している。
 いずれも、ヒトラー政権下で踏みにじられてきたものだ。ナチスのような暴政を繰り返すまいとの決意表明である。国是と言ってもいいだろう。
 日本にもむろん、守るべき憲法の精神がある。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090702000131.html

【社説】
今、憲法を考える(8) 立憲・非立憲の戦いだ
2016年9月7日

 もし「人権を奪う法案」が国会で可決されたらどうなるか…。
 たとえ多数決でも人権は奪えないと考えるのが立憲主義である。憲法に明記すれば、人権は守られる。どんな政治権力も暴走する危険があるから、憲法の力で制御しているのだ。
 ちょうど百年前、一九一六年に京都帝大の憲法学者佐々木惣一が「立憲非立憲」という論文を発表した。「違憲ではないけれども、非立憲だとすべき場合がある」という問題提起をしたのだ。
 人権を奪う法案のたとえは、非立憲そのものだ。国民主権も多数決で奪えない平和主義もまたそのような価値である
 民意を背景にした政治権力でも間違うことがあるから憲法で縛りをかける。過半数の賛成も間違うことがある。だから多数決は万能ではないと考えるわけだ。
 対極が専制主義である。佐々木は「第十八世紀から第十九世紀にかけての世界の政治舞台には、専制軍に打勝(うちかっ)た立憲軍の一大行列を観(み)た」と記した。専制軍とはフランス王制、立憲軍とは人権宣言などを示すのだろう。佐々木が心配した「非立憲」の勢力が、何と現代日本に蘇(よみがえ)
 集団的自衛権行使を認める閣議決定はクーデターとも批判され、安全保障法制は憲法学者の大半から違憲とされた。憲法を無視し、敵視する。そして改憲へと進む民意で選ばれた政治権力であっても専制的になりうることを示しているのではないだろうか。
 緊急事態条項を憲法に新設する案が聞こえてくる。戦争や自然災害など非常事態のとき、国家の存立を維持するために憲法秩序を停止する条項だ。奪われないはずの人権も自由も制限される
 他国にはしばしば見られるのに、なぜ日本国憲法にこの規定がないか。七十年前に議論された。一九四六年七月の帝国議会で「事変の際には(権利を)停止する」必要性をいう意見が出た。新憲法制定の担当大臣である金森徳次郎はこう答弁した。

   <精緻なる憲法を定めましても口実を其処(そこ)に入れて
     又(また)破壊せられる虞(おそれ)絶無とは断言し難い

 緊急事態という口実で、憲法が破壊される恐れがあると指摘したのだ。戦前の旧憲法には戒厳令などがあったヒトラーは非常事態を乱用して独裁を築いた「立憲」を堅持しないと、権力はいろんな口実でかけがえのない人権を踏みにじりかねない
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090802000138.html

【社説】
今、憲法を考える(9) ルソーの定義に学べば
2016年9月8日

 国家とは法人である。国民との間で、社会契約が結ばれている。そして戦争は国家と国家の間で生じる。つまり、戦争とは他国の社会契約を攻撃することだ-。
 ルソーは戦争をそう定義した。十八世紀に活躍した思想家で、「社会契約論」などで有名だ。フランス革命時の人権宣言に影響を与えた。「戦争状態は社会状態から生まれるということ」(ルソー全集四巻)にこう記す。

   <ある主権者に戦争を挑むとはどういうことだろうか。それは国家の協約と
     その結果生じるあらゆる現象とを攻撃することだ。(中略)社会契約が
     ただの一撃で断ち切られるようなことがあれば、たちまち戦争は
     もう起きなくなるに違いない>

 社会契約を暴力で断ち切るのだから、憲法原理が変われば戦争は終わる。憲法学者の長谷部恭男早大教授は「ルソーの想定は、単なる空理空論ではない」と著書「憲法とは何か」に書いている。そして、東欧諸国が共産主義の憲法を捨て、議会制民主主義を採用した事例を挙げる。確かに「冷戦」という戦争は終結した。
 自民党は憲法を全面改定する草案を掲げ、安倍晋三首相が「それをベースに」と改憲を呼び掛けている。本丸は国防軍の創設だといわれる。だが、日本国憲法は軍事力を持つようにできていないので、九条を変えれば、書き換えねばならない箇所がいくつも出てくる。例えば首相の職務には軍事の規定が入るであろう。
 そもそも現行憲法とは思想が相いれない立憲主義では憲法は「名宛て人」を国家にして権力に憲法を順守させる草案は国民に順守させる書きぶりだ。しかも、「公益」や「公の秩序」の方を人権より上に位置付ける権力ではなく国民を縛ろうとするのは立憲主義の放棄であろう。
 憲法改正の限界説も無視している。日本国憲法のアイデンティティーを損なう改正は限界を超えて、不可能と考える学説である。人権や国民主権、平和主義は三大原則と呼ばれるから本来、手を付けられないはずだ草案は世界でも先進的な平和的生存権もばっさり削る国民に国防義務を負わせることと関連していよう。
 自民党草案が仮にそのまま成立するなら憲法破壊となる。憲法典の転覆だから、法学的意味で革命と指摘する声もある。ルソーに学べば社会契約に対する戦争と同じ事態だともいえる。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016090902000145.html

【社説】
今、憲法を考える(10) 戦後の「公共」守らねば
2016年9月9日

 歴史の読み方として、一九三五年を分岐点と考えてみる。天皇機関説事件があった年である。天皇を統治機関の一つで、最高機関とする憲法学者美濃部達吉の学説が突如として猛攻撃された。
 なぜか。合理的すぎる、無機質すぎる-。現人神である天皇こそが統治の主としないと、お国のために命を捧(ささ)げられない。「天皇陛下万歳」と死んでいけない。機関説の排除とは、戦争を乗り切るためだったのだろう。
 それまで「公」の場では神道と天皇の崇拝を求められたものの、「私」の世界では何を考えても自由なはずだった。だが、事件を契機に「公」が「私」の領域にまでなだれ込んでいった。それから終戦までわずか十年である。
 だから、戦後のスタートは天皇が人間宣言で神格化を捨てた。政教分離で国家神道を切り捨てた。そして、軍事価値を最高位に置く社会を変えた。憲法学者の樋口陽一東大名誉教授は「第九条の存在は、そういう社会の価値体系を逆転させたということに、大きな意味があった」と書いている。
 軍国主義につながる要素を徹底的に排除した。そうして平和な社会の実現に向かったのは必然である。自由な「公共」をつくった。とりわけ「表現の自由」の力で多彩な文化や芸術、言論などを牽引(けんいん)し、豊かで生き生きとした社会を築いた。平和主義が自由を下支えしたのだ。九条の存在が軍拡路線を阻んだのも事実である。
 ところが、戦後の「公共」を否定する動きが出てきた。戦後体制に心情的反発を持ち、昔の日本に戻りたいと考える勢力である。強い国にするには、「公」のために「私」が尽くさねばならない。だから愛国心を絶対的なものとして注入しようとする。国旗や国歌で演出する-。そんな「公共」の再改造が進んでいまいか。
 憲法改正の真の目的も、そこに潜んでいないか。憲法は国の背骨だから、よほどの動機がない限り改変したりはしないものだ。動機もはっきりしないまま論議を進めるのはおかしい。戦後の自由社会を暗転させる危険はないか、改憲論の行方には皆で注意を払わねばならない。 =おわり


(この企画は桐山桂一豊田洋一熊倉逸男が担当しました)

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 ご意見、ご感想をお寄せください。〒100 8505(住所不要)東京新聞・中日新聞論説室 ファクス03(3595)6905へ
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