「止まった日常」
ページを閉じた 日常が止まる
宙ぶらりんの時間がしのび込む
楽しくもなく苦しくもない宙ぶらりんの時間
一体何を知ればいい
コップの水を飲み干した 日常が止まる
予定になかっためまいに襲われ
楽しくはないが苦しくもない未定の時間が延びているばかり
一体何をしろというのだろう
深夜のテレビはうつろな器
深夜のラジオは電波障害
該当項目のない求人情報
もうないのかも まだあるとでも
ひとこまひとこま書き出してみる
正しい線はまっすぐで ところどころが途切れてもいる
この日の夜もまた意識だけがさまよっているような
止まった日常を始めることも止めてしまった
ここは牢獄 たいくつな牢獄(’17.7.31)
BGM-A
「ごきげんよう、浮き世夫人よ」
浮き世はこなごなに砕かれている
かつてわたしたちは浮き世を大いに愛した
今はもう死ぬことも
それほどわたしたちをこわがらせない
浮き世をさげすんではならない
浮き世は色どりと野生に富んでいる
古い古い昔からの魔力が
今も変らず、浮き世のまわりにただよっている
感謝して別れよう
浮き世の大きなたわむれから
浮き世は楽しみと悩みを与えてくれた
愛を豊かに与えてくれた
ごきげんよう、浮き世夫人よ
また若くつややかにお化粧なさい
わたしたちは、あなたの幸福にも
悲嘆にも満ち足りた(高橋健二訳「ヘッセ詩集・P.264~265」小沢書店)
BGM-A
「写真」
手紙が届いていたらしい こんな時代に
手紙でなければならなかったらしい こんな時代に
違うのさ よく見て
一九七二年なのさ
それが書かれた本当の日付け
銃撃戦の吐く息が止まっているだろう 雪降る
死体が浮んでいたらしい こんな浜辺で
死体でなければならなかったらしい こんな浜辺で
違うのさ よく聞いて
一八七二年なのさ
死体の頭が散髪して居る
怖かっただろうな 凄みの冴える美麗な髪だ(’17.7.28)
BGM-A
「不眠症」
思ったことはないだろうか 生まれてきたことが間違いだったと
思ったことはないだろうか 愛したことが間違いだったと
思ったことはないだろうか 独りで死ねたらどれほどいいかと
思ったことはないだろうか 誰かのために生きているのでないのなら
誰のためをも思わずいっそ勝手に死ねたらどんなにいいか
それはどれほど楽だろう 子供の飴より甘味だろう
思ったことはないだろうか 誰が何を考えていようといまいと
たった独りであったなら たった独りであったなら(’17.7.27)
BGM-A
安物のストリングス 立ちのぼる’70年代 病んできた無数の言葉が痛み一つない言葉へ途端に吸い寄せられながら置き換えれる 街の手品師たち 石畳に立ち尽くして見上げる月はいつも無口で気まぐれで 幾つもの痛みの群れ 置き去りにされた幾つもの情念 小さな想いが不意に本当になったりした街(’17.7.26)