NOTEBOOK

なにも ほしがならなぁい なにも きたいしなぁい

GATACCA

2009-07-01 | 休み
SFとだけ聞いていた『ガタカ』が先週放送されていたので、録画しておいてようやく見ました。録画すれば良いとは何とも安上がりな。でも久しぶりに身震いするような映画でした。



全体にポストモダンチックな意匠で統一された世界観や近未来ということであまり背伸びをしていない美術設定がとにかく美しいです。デバイスも液晶とキーボード。自宅も打ちっぱなし、車はクラシックカーボディの電気自動車などなど。それとなく、手に届く範囲での未来が表現されているところが痺れてしまいました。ポストモダンデザインやロストフューチャーなSF設定が堪らないものがあります。

そんな『ガタカ』の美術設定が美しいのはもちろんだけれど、何よりもラストのカタルシスが美しかったです。例えば日本で目にすることのできるエンターテイメント作品には無い部分なのかなぁと。どんな理由がるにせよ、不正を働いた主人公は普通その不正を追及され、苦境に陥って死を望む人もそれをなんだかんだで乗り越えて強く生きていくけれども。そういうのを安直だと、歯痒く思ってました。

サスペンスモノでしばしば復讐殺人がモチーフとして取り上げられますが、犯人が復讐リストの最後の人物を遂げようとする段になると、警察や探偵が登場して止めたりします。例い目的を成し遂げたとしても、目的を達し自らも命を絶とうとする段になると、それを止める誰かが登場し涙ながらに動機には理解を見せつつも、復讐という行為を否定し逡巡させる、というお約束が多々あります。



『ガタカ』に関してはそういったお約束とはまったく逆で、身分・人物を詐称したイーサン・ホークはその事実が露見しそうになるも、結局最後まで不正の事実が、一部の人々の前では暴かれるが、暴かれること無くまんまと目的、子供の頃からの夢を果たすことができ、一方で死を望んでいたジュード・ロウはイーサン・ホークが夢を果たしたのを見届けた後自ら焼却炉に入り死を選べました。


なかなかこういった物語が創り難かった背景にはもちろん倫理観があり、コメディ的な切り口でなければたいていの場合、法律を破れば罰を受けますし、障害者の存在を否定するような描写は社会道徳上許され無い様に思います。


けれどイーサン・ホークが劇中起こす身分詐称というそのディストピアでは重大な犯罪も現実社会の基準と照らしあわせば、それほど卑劣という犯罪でもないですし、特に被差別という部分があるので『白いカラス』みたいな感じでしょうか。ジュード・ロウのキャラクターが事故にあって下半身不随になったために死を決したのではなくて、自らの完璧さ故に死を望んだというのが味噌のように思えました。半身不随という状態も以前の自殺未遂の後遺症に過ぎなかったという設定ですし。


あの時間での枠なのいくつかのシーンがカットされていたし、原語のままで観ると更に美しいらしい(エスペラント語まで使ってる!)ので、BD版を買おう。脇でトニー・シャーループが登場してましたが、若くて痩せていて目張りが入っていて何とも。