よみびとしらず。

あいどんのう。

海へ

2020-04-06 11:11:37 | 散文
海へ出た
羅針盤も持たずに
たやすくわたしは迷子となり
行き先を見失ったわたしは海へ潜った
地獄の釜の底を探すため
夜空の如くにきらめく海を
どんどんくだってわたしは海底に着く
歯を食いしばり
苦しさを超えて蹴破った先には大空ありて
わたしは海水とともに空へと落ちた
空を飛ぶ術(すべ)を持たぬわたしに
鳥は近づきその背に乗せた
鳥の羽は傷つきぼろぼろの姿で
それでも空を舞う鳥の背に乗りわたしは
海で覚えた歌を口ずさむ

あちらこちらと
ふらふら ゆらゆら
鳥の理(ことわり)も魚の道理も
その境目なくたゆたう我らは
空の飛び方さえ忘れたままで
ずいぶんと不自由な体になったものだと
年老いた亀は笑ってその背に人乗せた
海の調べとは異なる調べの
地上はなんと美しき世界かと
憧れたその地にも諍(いさか)いありて
それでも憎みきれないいとしさに
輝夜姫は月を見上げて涙をこぼす
こぼした涙は月にかかりて
現れた虹の橋は海を渡った
あちらこちらと
ふらふらゆられて
その境目なくたゆたう我らは
大空に出でて空を舞う
空の飛び方は忘れたままで
それでも我らは

だから世界は美しく
わたしは舟を漕ぎ出でて海へ入る

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