よみびとしらず。

あいどんのう。

深呼吸

2021-03-11 20:59:57 | 散文
苦しいと
なにも締めつけられていない首元をさする
寂しいと
見つめるその先にはたくさんの人がいた

深呼吸ひとつしてもそれは変わらずに
全ては自分の勘違いだと思い違えて
それでも呼吸は変わらずに
苦しくなくても締めつけられている首元と
寂しくないのはひとりでいるからだという理は
古くから続いて地面は水を浸透させぬまま干からびている
渇いた喉元は熱さも忘れて再び自分は傷つけられて
刃を持つ手は自分の両腕に重なった
深呼吸をひとつして
苦しさと寂しさは変わらずに
それでもここにある意味を求めて
逃げ出した彼は裸の身ひとつ
蛇に呑まれて輪廻の道を後にした

寂しさに意味を求めて
苦しさを吐き出して
何も変わらないと叫ぶ身体は常に消滅と再生を繰り返す
いまここにいる当然は
再生の悲しみと消滅の愉楽から
巻き戻されて生きる歓びにつながった

意味の分からぬいざこざに
ため息をはけば
さらに息を吐き出して呼吸は深まる
ぜんぶ吐き出しきった後のこと
身体は否が応でも息を吸い込む
この身勝手な道理の染みついた
わたしは苦虫を噛み潰した顔をして苦虫を探す
蝶の美しさには見向きもせずに
蝶よりも美しいなにかを願いながら
わたしの世界にある美しさを
たぶん誰よりもわたしは必ず知っている

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