「インスリン療法とは?」
糖尿病とは、インスリンが不足してしまい、そのために血糖値が上がってしまう
病気です。つまり、インスリンを補うことで血糖値を下げることができます。
ですから、インスリンを体に直接取り入れる治療があります。それがインスリン療法
です。インスリンは口から飲んで取り入れることができないので、注射によって
体内に取り入れます。
つまり、インスリン療法とは、インスリンを注射によって直接体内に取り入れる
薬物治療です。
インスリンの注射は病院で行うのではなく、糖尿病の方が自分でおこないます。
「自分で注射?!」と驚かれる方もいらっしゃるでしょう。でも注射といってもよく
ある注射器のようなものとは違う形で、注射の痛みも少なく、
注射をするときも特別に難しいことはありません。
最初は自分の体に注射をすることが「怖い」と思うかもしれませんが、
今では性能のいい専用の注射器がありますので、だれでも簡単にできます。
そして、注射をしなければならないほど、自分は重症なんだ、とは思わないでください。
インスリン療法は確実な治療法ですし、インスリン注射をすすめる医師もいます。
インスリン療法は最後の手段という間違ったイメージは持たないでくださいね。
インスリン療法が必要かどうかは、糖尿病の方の症状によって判断されますが、
ここでは、インスリン療法が必要な方の条件について見ていきましょう。
インスリン療法が必要な方
・1型糖尿病である方
・2型糖尿病で、糖尿病性昏睡を起こしたとき
・2型糖尿病で、糖尿病の飲み薬を飲むと、アレルギーなどの副作用がでてしまう方
・2型糖尿病で重い感染症(肺炎、胆嚢炎など)を起こしている方
・大きな怪我をしたり、手術をする場合に一時的に必要
・血糖コントロールが悪く、妊娠している方
インスリン療法が必要な場合もある方
・2型糖尿病の方で、食事療法、運動療法、飲み薬療法を全てしっかりおこなっても、血糖コントロールがうまくいかない方
・2型糖尿病の方で、肝臓や腎臓に障害のある方
・2型糖尿病の方で、血糖コントロールを悪くしてしまう薬をのむ必要のある方
インスリン製剤(インシュリン製剤)とは、インスリン注射で使う薬剤のことです。
インスリン製剤は、牛や豚の膵臓から抽出されていたのですが、今では遺伝子工学の
進歩により開発された、ヒトインスリン製剤が使われています。
インスリン製剤は、「効果があらわれる時間」と「作用の持続時間」の違いにより、6種類あります。
・速効型インスリン製剤
速効型インスリン製剤は、使用後から作用があらわれるのが速く、30分ぐらいで
効果が出てきます。作用の持続時間は短めで約 5~8時間です。
・中間型インスリン製剤
注射後、約 1時間30分ぐらいで効果が出始めます。作用の持続時間は約 18~24時間です。
・混合型インスリン製剤
速効型と中間型のインスリン製剤の混合タイプです。注射した後、約30分ぐらいで
効果が出ます。作用の持続時間は、18~24時間です。
・持続型インスリン製剤
効き方は遅いが長持ちするインスリン製剤です。注射した後、約 4時間でゆっくり
効果があらわれます。作用の持続時間は 24~28時間です。
・超速効型インスリン製剤
作用があらわれるのが非常に速いインスリン製剤です。注射した後、数分後には
効果が出ます。食事直前に使います。作用の持続時間は短く、3~5時間ぐらいです。
・時効型インスリン製剤
1日 1回の注射で 24時間、安定した効果が続きます。作用は持続型よりも速くあらわれます。
これらの種類のどのインスリン製剤を使うか、どれだけの量をつかうかなどは、
糖尿病の方の症状、年齢、合併症があるかどうかなどで、医師が判断します。
インスリン製剤の副作用として、注射した所が赤くはれたり、皮膚がかたくなったり、
痛みやかゆみが出たりなどの症状が出ることがあります。
これをインスリンアレルギーといいます。これらの副作用が長く出続けるときは、
注射するインスリン製剤の種類を変えたりなどの対処をする場合があります。
そして、インスリンを注射し始めたときは、体にむくみがでることがあります。
むくみが 1週間以上つづくようならば、治療が必要なので医師に相談しましょう。
健康な方のインスリンの分泌は、1日中、絶えることなく少量のインスリンが分泌されています。
これを基礎分泌といいます。
さらに、ご飯を食べると、その分量にあった量だけのインスリンが急速に分泌されます。
これを追加分泌といいます。
健康な方のインスリンの分泌には、上の様な 2つのパターンから成り立っています。
ですが、糖尿病の方は健康な方のようにはインスリンの分泌がうまくいきません。
ですから、インスリンの分泌パターンを健康な方のパターンに近づけるようにするために行われる治療があります。
それが、強化インスリン療法です。
強化インスリン療法とは、インスリンの分泌パターンを健康な人と同じように
するために、1日に 3~4回インスリン注射をする方法です。多くの糖尿病の
医師が注目している治療法の 1つです。
例えば、 4回インスリン注射をするのであれば、朝、昼、晩の食前に速効型インスリン製剤を
1回ずつ注射し、寝る前に中間型インスリン製剤を 1回注射します。
速効型、中間型、持続型のインスリン製剤を組み合わせて、糖尿病の方の症状などに
合わせて使うタイミングや量を判断します。
これまでのインスリン療法よりも正確に血糖コントロールができ、高血糖に対しても
より効果的である、より強力である、ということから、強化インスリン療法と呼ばれます。
強化インスリン療法が必要かどうかは、医師の判断によるものですが、絶対に血糖値を
上げたくない若い方や妊娠している方が行う場合があります。
インスリンの注射器は、「ペン型」と「シリンジ型」の 2種類があります。
「シリンジ型」は、よくある注射器と同じ形です。インスリン製剤を容器から
注射器へ吸引して、体に注射します。
「ペン型」は、持ち運びに便利で、どこでも使いやすく、扱うのも簡単、注入量も
正確にできるなど、今では主流となっているインスリン注射器です。注射針の長さは
5~8mm程度で細いため、痛みも少ないです。
ペン型は、インスリン注射を毎日しなければならない方には負担が軽いのでいいですね。
「注射」と聞くと怖くなってしまう方もいらっしゃると思いますが、ペン型の注射器
は扱い方が普通の注射器とは違って簡単なので、すぐに慣れることができます。
インスリン製剤の注射器が「シリンジ型」と「ペン型」の 2種類があり、今では
ペン型が主流であることは、前のページで解説しました。
このページではさらにくわしく、ペン型インスリン注射器について見ていきたいと思います。
ペン型の注射器には、2種類あります。それは、カートリッジタイプと使い捨てタイプです。
カートリッジタイプの注射器
インスリン製剤の入ったカートリッジを、専用のペン型の注射器に装てんするタイプです。
カートリッジは万年筆のインクを付け替えるような感じで替えられます。
専用の針をつけて、インスリン製剤の注射する量を設定して、ボタンを押せば注射
できます。セットしたインスリン製剤のカートリッジを使い切ったら、
また新しいカートリッジを付け替えます。
使い捨てタイプ
軽いプラスチック製の注射器で、最初からインスリン製剤が内臓されています。「インスリンキット製剤」ともいわれます。
使い方はカートリッジタイプとほとんど同じです。内臓されたインスリン製剤を使い切ったら本体ごと捨てます。
使い捨てタイプ
1日にインスリン製剤を使う回数や量は、糖尿病の方の症状、状態によって違います。
基本として、インスリン療法は、朝食前と、夕食前に、中間型か混合型のインスリン製剤を注射します。
インスリン製剤を注射する回数は、 1日に 1~4回以上です。日本では 1日 1回が基本とされています。
もちろん、糖尿病の方の症状などに合わせてインスリン製剤の量や注射回数を医師が
判断します。年齢や合併症があるかどうかなどを考慮して判断されますが、
特に、糖尿病の方が、 1型糖尿病か 2型糖尿病かが判断材料として重要とされます。
インスリン注射を 1日にどれだけの回数と量が必要なのかは前に解説しました。
ここでは 1型糖尿病 と 2型糖尿病の方の場合に、どれだけインスリン注射を使うのかを見ていきましょう。
1型糖尿病の方の場合
1型糖尿病の方は、膵臓からのインスリンの分泌量がとても少ないので、
中間型インスリン製剤を 1日 1回注射するだけではうまく血糖コントロールができません。
ですから 1型糖尿病の方の場合は、強化インスリン療法を中心に治療を行います。
2型糖尿病の方の場合
2型糖尿病の方は、それぞれの症状によって、膵臓からインスリンがどれだけ
分泌されているのかが違うので、インスリンの分泌能力が低い方はそれだけ注射の
回数が多くなります。
2型糖尿病の方で、インスリンの分泌量がある程度ある方は、1日 1回のインスリン
注射で大丈夫なこともあります。
通常、食事をすると 15分ぐらいで血糖値が上がり始めます。
そして、インスリン製剤の効果は注射してから 30分ぐらいで効果が出てきます。
そのため、インスリン注射は、基本的に食事の 30分前に打つのが効果的です。
インスリン注射は、体の一番 外の皮膚と、中の筋肉の間の部分に行います。これを「皮下注射」といいます。
インスリン注射をする体の場所は、上腕、腹壁(おなか)、臀部(でんぶ、お尻のことです)、ふともも、です。
その中でも、一番よい場所が、腹壁(おなか)です。腹壁は最も吸収が速く、痛みも少ないからです。
ただ、へその周りは避けましょう。
注射部位は毎日変えないようにしたほうがいいです。だいたい前に注射した場所から
3cmぐらいはなした場所に注射するのがよいでしょう。
注射部位は、もんだりしないようにしましょう。
注射した後は、激しい運動は控えた方がいいです。
さて、明日はいよいよ最終日です。
インスリンの副作用「低血糖」について説明します。
長くなってしまいましたが、糖尿病はそれだけ、国民の大多数に関係する大きな
疾患なのです。成人の5人に1人以上が発病の可能性があるのです。
とりあえず今は関係ない方も、どのような疾患なのかを理解しておいて損はないでしょう。
今後雑学を織り交ぜた情報を公開していきますが、このシリーズで述べたことを
原点として、展開したいと思います。
寒いですね。今日はでしたが、先日までの暖かさが体感温度を
より厳しくしているようです。風邪が流行りつつありますが、皆さんも気をつけましょうね。