◎無条件降伏は皇国を滅亡に導く(佐々木武雄)
藤本弘道『陸軍最後の日』(新人社、1945)から、「大局は動かず」の章を紹介している。本日は、その三回目。
これらよりも、十五日払暁〈フツギョウ〉、学生を使唆〈シサ〉して機銃掃射、放火等によつて、鈴木〔貫太郎〕首相官邸及び私邸、平沼〔騏一郎〕枢府議長邸を連続襲撃した、東京警備軍の佐々木武雄大尉一味の事件の方が、暴発的行為とはいひながら、軍人の狷介〈ケンカイ〉なものの見方とそれに最初は強要されつゝも最後は共鳴してしまつた国民の一部が、如何ともすべからざる大勢に抗してまでも我意を張らんとした姿が如実に現はれてをり、むしろ我等としては注目すべきであらう。
横浜工業専門学校三年生村中諭、同上田雅紹、同石井孝一、同尾崎喜男、東京工業大学一年生川崎吾郎、筏〈イカダ〉回漕業豊組現場監督福田軍男、横浜機甲隊指導員山口倉吉等はいづれも前橫浜工業専門学校長鈴木達治氏の主宰する「必勝懇談会」の幹部だつたが、かねて東京警備軍第三旅団隸下旭部隊横浜隊所属の佐々木武雄大尉の講説を聴いて戦局の前途を憂慮してゐたところ、偶々〈タマタマ〉終戦の大詔が玉音放送せられるその前夜、八月十四日に佐々木大尉より日本の無条件降伏は皇国を滅亡に導くものであり、これを挽回するためには斯くあらしめた鈴木首相及び重臣等を打倒する非常手段に訴へで皇国の降伏を阻止し、陸軍を主軸とする武断派内閣を樹立して徹底抗戦をするよりほかないのであるといふ勧説を受けて共鳴、彼等は佐々木大尉よりそれぞれ武器を受けとつてその実行に参加し、十五日午前四時二十分一同は山口の操縦する軍用トラツクに同乗して麹町区永田町の首相官邱を襲撃したが、鈴木首相不在のためその目的を果さず、直ちに小石川区丸山町〈マルヤマチョウ〉四〇の私邸に向つた。こゝで先着の佐々木大尉とその部下将兵約二十名がボロと重油によつて放火しつゝあつたのに協力してこれを全焼せしめ、更に鈴木首相を暗殺せんと探し求めたがそれも果し得ず、同四時四十七分一同は更に淀橋区西大久保一ノ四二の平沼枢府議長邸に向ひ、鈴木首相邸と同様の行動に出たが、遂に当局の捕縛するところとなつたのである。【以下、次回】
東宝映画『日本のいちばん長い日』(1967)では、天本英世(あまもと・ひでよ、1926~2003)が、佐々木武雄大尉に扮していた。鬼気迫る怪演であった。
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