礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

拙著のメッセージを受けとめていただいたご感想

2014-10-05 06:48:44 | コラムと名言

◎拙著のメッセージを受けとめていただいたご感想

 昨日、拙著『日本人はいつから働きすぎになったのか』、および『戦後ニッポン犯罪史』をお読みいただいた読者の方から、そのご感想を含む私信をいただいた。本日は、これを紹介させていただきたい。
 ただし、紹介させていただくのは、『日本人はいつから働きすぎになったのか』のご感想の部分を中心とし、他の部分は割愛させていただいた。また、この読者については、お名前もお仕事も存じあげているが、直接の面識がないということもあって、今回は、匿名ということにさせていただく。

 八月の末に「日本人はいつから働きすぎになったのか」を拝読しました。ちょうど、すき屋のワンオペ問題やら、ニート株式会社やら、働き方についての問題が多く取り上げられていた時期ですね。あとがきにもあった「おバカツイッター」の問題では、バイトとはいえ、そもそもの仕事についての考え方が違うのだなあ、自己アピールを履き違えているなあ、という程度の感想でした。この件が働きすぎの「自発的隷従」(すごく的確な用語ですね)に属する組とセットの問題であるとは、思ったこともありませんでした。
 私自身の話しですが、前職で、徹夜厭わず、終電当然、常に頭の中は本日のやる事リストで一杯いっばいの生活を、卒業後13年間しておりました。東京観光したいので、と一週間泊めてやった(ウサギ小屋に)知人フランス人に、あまりに帰らない私に呆れ「クレイジー」と言い残して恩義もなく去っていかれました。「急に体調が悪くなって」と、メールで欠勤を知らせてくる同僚に激怒しました。(今でこそ普通なのでしょうが、当時はメールでというのが衝撃でした。)
 その人達は怠け者で、私が正しい。仕事とはかくあるべし、と常にピリピリとして働いていました。
 そんな「頑張ってる私って、素敵」幻想の根源が、仮説14の通り、一体どこから来るのか考える間もないままで日々を過ごし、気が付けば体調を崩し転職し今に至ります。
 読後は、まさにこのようなわが身を振り返ってしまい、現在の仕事で得ている充足感は「勤勉」を超えたことで成立したのだと、認識いたしました。
「怠惰」ではいけないのか、との問いには、思わず笑ってしまいました。
 それにしても、落語の中で描かれるような江戸時代の長閑な生活から、過労死の今にいたる日本人のメンタルに線を引いて思索なされた二宮尊徳、浄土真宗、農民の生活、戦争、高度成長という経緯は、本当に目からうろこでした。
 昭和45年生まれの私自身の「頑張ってる私」幻想は、今思えば、高度成長期を過ごした「傾張れば良い暮らしがてきる、怠惰はいかん」という親の思想の影響でしょう。おしんを見たり、学生時代の「水を飲んではいけない」運動部の練習のような、理不尽な思いをすることが良しとされたような所から体に染みていったのでしょう。
 先日の「プレジデント」誌は、老後の家計についての特集でした。その中で、いくつかのマネープランを提示しているのですが、「無職の子供」がいるというサンプルがありました。「いい学校を出して一流企業で働いていた息子が、心身を壊し無職でいる」という設定。プレジデントの読者ですら、有り得る状況なのかと何とも複雑な気持ちになりました。
 今回は、学生時代に読んだプロ倫や、共同幻想論や、歎異抄がもやもやと一部脳裏をかすめました。先生の本で少し刺激を受けた今の頭なら、少し理解できるかしらと本棚を探しました。本書はまさに今、読んでよかったと思う一冊でした。ありがとうございました。

 文中、「仮説14」とは、拙書で最後に示した仮説「日本人は、みずからの勤勉性を支えるものが何であるかについて、深く考えようとしていない」のことである。また、「プロ倫」とは、拙著でたびたび引用したウェーバーの主著『プロテスタンティズムの論理と資本主義の精神』の略称である。
 さて、上記のご感想に接した礫川としましては、拙著で発した様々なメッセージを、有効な形で受けとめていただけたようで、書いた甲斐があったという気持ちになりました。特に、仮説14に言及していただいたのは光栄でした。実は、この仮説14こそが、本書における最も主要なメッセージとして提示したものだったのです。

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