宗教法人法81条1項1号「法令に違反」に、民法(709条、不法行為)は含まない。
理由は以下のとおりである。
1 H7オウム高裁判例
(1) オウム真理教のH7.12.19高裁決定は、「法令に違反」を、「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範違反」と限定した。
(2) この高裁決定は、個別事例のみに当てはまる「事例判例」ではなく、普遍的な要件を定めたもの。
(3) 「民法を含む『法令』すべて」なら、このような限定不要。
(4) 29人を殺害したオウム真理教と比べて、家庭連合の場合に解散要件を緩和する(民法を含む)必要性なし。
(5) 以下のH9.7.11最高裁判例等から、不法行為は禁止規範・命令規範ではない。
「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は…将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない。(中略)我が国においては…将来の同様の行為を抑止することは、刑事上又は行政上の制裁にゆだねられている」
2 会社法等との比較
(1) 会社法824条は、株式会社の解散命令を「刑罰法令に触れる行為をした」場合に限定している。
(2) 精神的自由に関わる宗教法人の解散は、より限定的に考えるべき。緩やかに解釈するのはアンバランス。
3 その他
(1) 不意打ち
不法行為責任が確定するのは、民事裁判を経た数年後。「何が悪い行為か」の予見可能性なく、不意打ち。
(2) 空文化
「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」場合は、常に何らかの不法行為は成立するだろう。
そうすると、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」という条文からすると、「法令に違反」に不法行為成立を含むなら、わざわざ定めた「法令に違反」という要件が空文化する。
(3) 民法709条に「違反」していない
不法行為を定める民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めるところ、709条の「違反」として賠償責任が生じるのではない。
むしろ、709条を「適用」して賠償している。実際、法律家は「709条違反の損害賠償請求」とは絶対に表現しない。「709条に基づく損害賠償請求」と書く。709条に違反しているのではなく、「適用」しているのである。
敗訴判決で命じられた賠償責任を果たしてきた家庭連合は、709条をむしろ遵守してきた。違反していない。 以上