ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

「自分が得できればよい」の主権者教育

2017-11-11 07:58:02 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「自分が得をする」11月4日
 『保湿薬 処方制限しないで』という見出しの記事が掲載されました。『美容目的の不適切な使用が横行している』と問題になっている保湿塗り薬の処方制限を巡る動きを伝える記事です。
 記事によると、『この薬は雑誌などで「美肌になれる」と紹介され、医療保険を使って安く入手できるため処方を求める女性が急増(略)アトピー性皮膚炎など治療を伴わず単独で処方する場合は保険適用外とすべき』という意見に対し、『がん患者が処方を受けられなくなる恐れがある』と患者団体から懸念が示されているそうです。
 私はこの記事を読んで、主権者教育の在り方を考えさせらられました。どんな関係があるのかと首を傾げる方もいらっしゃると思いますが、キーワードは、視野の狭さと利己主義です。
 今、選挙権が18歳から認められるようになったことを受け、主権者教育が注目されています。そこでは、「政治は難しい」と考える高校生に対して、自分の身近なことから考えようという、自分にとって望ましいのはという視点で選択しようという、身近主義が蔓延っています。
 私はこうした風潮を疑問視し、民主主義や立憲主義、自由と権利など、根本的なことについて、歴史的な経緯を踏まえきちんと学ぶことが大切だと主張してきました。そうでないと、近視眼的に損か得かが基準になってしまい、それは民主主義を破壊すると考えたからです。
 保湿薬を美容目的で処方させる行為は、近視眼的には、自分にとって得になる行為です。国民健康保険の3割負担制を「活用」すれば、市販薬を購入するのに比べ格安で入手できるのですから。賢い選択、生活の知恵なのかもしれません。しかし一方で、こうした「活用(悪用)」が拡がれば、我が国の大きな財産である国民皆保険制度は崩壊してしまいます。そうなれば、長期的には大損害を被るのです。これが視野の狭さと指摘したい点です。
 また、自分は得をしたかもしれませんが、本当に保湿薬を必要としているがん患者たちは、治療や生活に支障を来してしまう結果となってしまうのです。少し考えれば、分かることです。でも、自分さえよければ見たこともないがん患者などどうでもよいという考え方です。そこには社会の構成員としての連帯感はありません。しかし、この連帯感は、健全な社会の構築と運営のためには不可欠なものであり、公民にとって不可欠な資質なのです。
 もちろん、主権者教育がこうした不正行為を生んだわけではありません。両者の間には因果関係は存在しないでしょう。でも、身近主義に基づいた主権者教育が続けば、こうした視野狭窄・利己主義をさらに助長することにつながるような気がします。小さな記事ですがとても気になりました。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする